労務相談
2023.11.14
不動産お役立ちQ&A

Vol.24 試用期間中の解雇・本採用拒否は容易にできるのか


Question

本採用する前の試用期間中であれば解雇がしやすいと聞きました。現状の就業規則では試用期間3カ月と定めているので、これを1年に変更しようと考えていますが問題ないでしょうか。

Answer

試用期間中は労働者の身分が不安定であることから、6カ月を超えるような期間の設定は望ましくありません。また、試用期間中といえども、客観的合理的理由のない解雇や本採用拒否は、解雇権濫用法理により無効とされるため慎重に行う必要があります。

試用期間とは

多くの企業で2~6カ月程度の試用期間を設けていますが、当該期間は法令で義務付けられたものではなく、労働慣行として制度化、運用されてきたものです。長期雇用を前提とした正社員採用において、入社後の一定期間を試用・見習期間とし、採用した労働者の人格・性格、資質・能力などの適格性を見極めるための期間としていますが、これは「労働者が提供する労働力は実際に働いてみなければ本当の評価が困難である」ということから、経営上の必要性に基づいて創設されたものです。

試用期間の延長と中断

試用期間の長さとしては3カ月とすることが多く、企業により1~6カ月の範囲内で設定しています。1年など6カ月を超えて設定することも可能ですが、長期間で設定する場合は合理的な理由が求められますので、通常は長くて6カ月となります。なお、入社後間もなく病気や怪我により一定期間欠勤や休業となる場合、またコロナ禍や災害により会社が休業を余儀なくされる場合など、通常の試用期間では適格性を判断できないような、やむを得ない事由が発生した場合には、試用期間を延長、中断することが可能です。ただし、その場合には就業規則等で規定しておく必要があります。

試用期間の法的性質

試用期間について裁判所は、試用期間中はすでに労働契約が成立しているとの前提に立って、試用期間中の契約関係は、試用制度を前提に使用者に付与された特別な解約権が留保されている労働契約(解約権留保付労働契約)とする見解(三菱樹脂事件 最高裁 昭48.12.12)を採用しています。いかなる場合にこの解約権を行使できるかが問題となります。

多くの裁判例は、前記最高裁判決の法理に則り、試用期間中は通常の解雇より広い範囲で解雇の自由が認められるものの、その解約権は試用制度の趣旨・目的に照らして客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と是認されるものでなくてはならないとしています。具体的には、採用当初知ることができなかったような事実や知ることが期待できないような事実が試用期間中に判明し、そのような事実に照らし、その者を引き続き雇用しておくのが適当でないと判断することに客観的合理性が認められるような場合に、留保解約権の行使が相当であるとしています。

解雇が有効とされた雅叙園観光事件では、周囲とのトラブルが絶えなかったなど労働者の行為が就業規則の解雇事由としてあげられ、「就業態度が著しく不良でほかに配置転換の見込みがないと認めたとき」に該当するとされました。また、ブレーンベース事件では、緊急の業務指示に対し速やかに応じないこと、採用面接時にパソコン使用に精通していると述べていたにもかかわらず満足に行うことができなかったこと、代表取締役の業務上の指示に応じなかったことなどを理由になされた試用期間中の解雇について、期待に沿う業務が実行される可能性を見出しがたいと認められ、客観的合理的理由が存在し、解雇有効とされました。

一方、テーダブルジェー事件では、会長に声を出してあいさつしなかったという解雇理由が社会通念上相当性を欠くものとされ、解雇無効とされています。また、オープンタイドジャパン事件では、「高い処遇で中途採用された上級管理職の本採用拒否についても新卒者と同様の留保解約権の判断基準を適用し、上級管理職の業務能力または業務遂行が著しく不良である、部長として不適格である」との解雇理由は認められず、解雇無効とされました。

有期雇用における試用期間の設定

有期雇用における試用期間の設定が直ちに無効とはならないものの、試用期間の制度趣旨(長期雇用における適格性判断期間)に鑑みると法的効力は疑問であり、有期契約における試用期間中の解雇・本採用拒否は、無期契約における試用期間中の解雇・本採用拒否と比べると、そのハードルは相当高いものと考えます。また、パートタイマーや契約社員から正社員に転換した際の試用期間の設定も直ちに無効とはなりませんが、制度の有効性に疑義が生じます。

有期雇用における試用期間中・満了時の解雇は、契約期間の中途解除となりますので、刑事罰に該当する事案が発生するなどよほどの事由・原因がなければ無効と判断されます。よって実務的には、初回の契約期間を短めに設定し、試用期間的に運用することをおすすめします。

本問への回答

試用期間中の労働者は極めて不安定な状況に置かれることから、6カ月を超えるような長期の試用期間の設定は望ましくありません。確かに、解約権が留保された期間であることから、通常の解雇ほど解雇回避努力(解雇前に注意・指導や配転等によって解雇を回避する努力を尽くしたか否か)は求められませんが、合理性・相当性のない解雇や本採用拒否は、解雇権濫用法理が適用され無効と判断されますので、試用期間中であっても解雇事由が十分であるか確認する必要があります。

解雇のイメージ

今回のポイント 

  • 試用期間を長期間で設定する場合は合理的な理由が求められる。
  • やむを得ない事由が発生した場合には、試用期間を延長、中断することが可能。ただし、その場合には就業規則等で規定しておく必要がある。
  • 多くの裁判例は、「試用期間中は通常の解雇より広い範囲で解雇の自由が認められるものの、その解約権は試用制度の趣旨・目的に照らして客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と是認されるものでなくてはならない」としている。
  • 有期契約における試用期間中の解雇・本採用拒否は、無期契約における試用期間中の解雇・本採用拒否と比べると、そのハードルは相当高いものと考えられる。

野田 好伸

社会保険労務士法人
大野事務所代表社員

野田 好伸
(特定社会保険労務士)

大学卒業後、社労士法人ユアサイドに入所し社労士としての基本を身に付ける。その後6年の勤務を経て、2004年4月に大野事務所に入所する。現在は代表社員として事務所運営を担いながら、人事労務相談、人事制度設計コンサルティングおよびIPO支援を中心とした労務診断(労務デュー・デリジェンス)に従事する。