労務相談
2024.03.14
不動産お役立ちQ&A

Vol.28 2024年4月以降、採用募集時や労働契約締結・更新時に明示すべき労働条件が追加されます!


Question

社員募集や職業紹介事業者への求人申込みの際に明示しなければならない労働条件が追加されると聞きました。明示すべき項目や記載方法について教えてください。

Answer

2024年4月以降は、採用募集時および労働契約締結・更新時に明示しなければならない労働条件として、「就業場所・業務の変更の範囲」が追加されます。また、有期雇用者については、「更新上限とその内容」「無期転換申込機会および無期転換後の労働条件」の明示が必要となります。

採用募集時の新たな明示項目

求人企業や職業紹介事業者等が社員の募集を行う場合や職業紹介を行う場合、募集する社員の労働条件の明示が求められていますが、2024年4月1日以降は、新たに以下の項目について明示する必要があります(職業安定法施行規則の改正)。

①業務内容・就業場所の変更の範囲

今後は「雇入れ直後の業務内容や就業場所」に加え、「変更の範囲」についても明示が必要です。変更の範囲とは、雇入れ直後に限らず将来の配置転換など今後の見込みを含めた、締結する労働契約の期間中における変更の範囲のことをいいます(図表①)。

図表① 業務内容・就業場所の変更の範囲

業務内容・就業場所の変更の範囲

②更新上限とその内容

今後は「更新上限(有期労働契約の通算契約期間または更新回数の上限)とその内容」の明示が必要になります。なお、有期労働契約の更新上限を定めている場合にその内容を明示することが求められていることから、更新上限がない場合にはその旨を明示する必要はありませんが、明確化する意味で更新上限がない旨を明示することが望ましいといえます(図表②)。

図表② 更新上限とその内容 【記載例】

更新上限とその内容

明示する時期

ハローワーク等への求人申込みや自社ホームページでの募集、求人広告の掲載を行う場合は、求人票や募集要項において、少なくとも前述のような労働条件を明示しなければなりません。求人広告のスペースが足りないなど、やむを得ない場合には「詳細は面談時にお伝えします」などとしたうえで、労働条件の一部を別のタイミングで明示することも可能ですが、この場合、原則として面接などで求職者と最初に接触する時点までに、全ての労働条件を明示する必要があります。なお、面接等の過程で当初明示した労働条件が変更となる場合は、その変更内容を速やかに明示してください。

労働契約締結・更新時の新たな明示項目

2024年4月以降は採用募集時と合わせて、労働契約の締結時および有期労働契約の更新の都度、「就業場所・業務内容変更の範囲」や「更新基準」等について書面明示する必要があります(労働基準法施行規則の改正)。

①有期雇用者に関する項目

(1)更新上限とその内容

有期労働契約の締結と更新のタイミングごとに、更新上限とその内容の明示が必要になります。なお、最初の契約締結より後に更新上限を設ける場合、また最初の契約締結の際に設けていた更新上限を短縮する場合は、その理由を有期労働者に予め説明する必要があります(雇止めに関する基準の改正)。

(2)無期転換申込機会と無期転換後の労働条件の明示

「無期転換申込権」が発生する契約更新のタイミングごとに、無期転換を申し込むことができる旨の明示が必要になります。無期転換申込権が発生する契約更新時に行う必要がありますが、有期労働契約の終了1カ月前に更新手続きを行う運用をしている場合は、その1カ月前の更新の際に無期転換申込機会等の明示を行うこととなります(図表③)。

図表③ 無期転換申込機会と無期転換後の労働条件の明示 【記載例】

更新上限とその内容

加えて、「無期転換申込権」が発生する契約更新のタイミングごとに、無期転換後の労働条件を書面により明示することが必要です。無期転換後の労働条件について、「無期転換申込権が生じる契約更新時」および「無期転換申込権の行使による無期労働契約成立時」のそれぞれで明示しなければなりません。

②その他明示項目

(1)裁量労働制適用者に関する明示

裁量労働制を採用している場合、「専門業務型裁量労働制により、1日9時間働いたものとみなす」というように、1日のみなし労働時間に関する記載が求められます。

(2)固定残業制適用者に関する明示

時間外労働の有無にかかわらず、一定の手当を支給するといった固定残業制を採用する場合、「基本給200,000円、固定時間外手当30,000円(時間外割増賃金20時間相当/20時間を超える時間外勤務が発生した場合は別途割増賃金を支給する)」、「基本給300,000円(基本給には、30時間分の時間外割増賃金を含む/30時間を超える時間外勤務が発生した場合は別途割増賃金を支給する」というように、固定残業制に関する具体的な記載が求められます。

就業規則の周知義務

今回の改正対応ではありませんが、就業規則を備え付けている場所等を労働条件通知書や社内メールなどで示すことにより、社員が容易に労働条件を確認できるようにする必要があることから、「就業規則を確認できる場所や方法」についても記載が求められますので、ご留意ください。


野田 好伸

社会保険労務士法人
大野事務所代表社員

野田 好伸
(特定社会保険労務士)

大学卒業後、社労士法人ユアサイドに入所し社労士としての基本を身に付ける。その後6年の勤務を経て、2004年4月に大野事務所に入所する。現在は代表社員として事務所運営を担いながら、人事労務相談、人事制度設計コンサルティングおよびIPO支援を中心とした労務診断(労務デュー・デリジェンス)に従事する。