従業員が父親の介護をすることになりました。なるべく仕事を続けたいという意向のようです。介護と仕事の両立支援に関する制度について教えてください。
Answer
介護と仕事の両立支援制度については、育児・介護休業法に規定されており、主に「休暇・休業の取得に関する制度」と「就業時間の調整に関する制度」に区分できます。
はじめに
団塊の世代が75歳を迎える2025年は「介護問題爆発の年」ともいわれており、介護と仕事を両立するビジネスケアラーの増加が予想されます。
育児とは違い、介護はある日突然始まるものといわれ、準備する時間がないケースが多いようです。それでは、家族を介護することになったら、どのように仕事と両立すればいいでしょうか。
仕事を辞めずに、「働きながら要介護状態※1の家族※2の介護等」をする場合には、育児・介護休業法(以下「育介法」)に基づく制度が利用できます。
※1 要介護状態とは:
介護保険制度の要介護状態区分が「要介護2以上」である場合のほか、介護保険制度の要介護認定を受けていない場合であっても、2週間以上の期間にわたり介護が必要な状態のときには対象になります。
※2 家族とは:
配偶者(事実婚を含む)、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹および孫をいいます。
介護と仕事の両立支援制度
育介法では、「休暇・休業の取得に関する制度」として、「介護休業」と「介護休暇」を設けています(義務)。また、「就業時間の調整に関する制度」として、「所定外労働・時間外労働・深夜業の制限」が設けられています(義務)。さらに「選択的措置義務」として、「短時間勤務制度、フレックスタイム制度、時差出勤制度、介護サービス費用助成」の4つのうち1つを導入する必要があります。各種制度の概要については、図表をご覧ください。
なお、これらは法で規定されていますので、勤務先に制度がなくても利用できるものとなります。
介護休業と休業中の経済的支援
介護期間の目安は、平均寿命から健康寿命を引いた10年程度(男性8.7年、女性12.1年/2019年)ともいわれます。ただ、実際にはどの程度の期間になるかはわかりません。育児休業とは異なり、介護休業は「仕事を休んで家族の介護をするため」に使うことのほか、「仕事と介護の両立体制を組むため」に利用することが想定されます。いずれにせよ、通算93日という限られた日数を有意義に活用する必要があります。
なお、雇用保険の被保険者が、要介護状態にある家族を介護するために介護休業を取得した場合、一定要件を満たせば、介護休業期間中に休業開始時賃金日額の67%の介護休業給付金が支給されます。
テレワーク努力義務化と事業主支援
育介法では、所定外労働・時間外労働・深夜業の制限を義務措置として設けていますが、2025(令和7)年4月1日より、家族の介護をしている従業員がテレワークを選択できるようにすることが努力義務化されます。導入する場合は、介護期以外の従業員も対象に含めれば、利用しやすい制度になると思います。
このほかにも、事業主が講じることができる支援措置として、休日勤務の制限、年次有給休暇の時間単位での取得、失効年次有給休暇の積立制度の導入、短日勤務制度の導入、転勤への配慮などがあります。
実際には、これらの両立支援制度を業務や要介護者の状況にあわせて使用します。以下で、具体的にどのように両立させるかについて紹介します。
具体例1
介護状況:家族が骨折で入院し、もうすぐ退院予定だが、寝たきりになってしまった。在宅での介護が難しいため、施設を探すことを検討している。
対応:まず「介護休業」を2カ月取得します。その間に入院中の面会のほか、介護付き有料老人ホームを探し、入所手続きをします。ホーム入所後は復職し、「フレックスタイム制度」を活用。週1~2回程度、通勤途中に施設に立ち寄って様子を見ます。
具体例2
介護状況:出張や残業などが月に数回あり、要介護の親も状態が不安定なため、状況に応じて介護サービスの利用を検討している。
対応:小規模多機能型居宅介護を活用し、仕事や親の状況に合わせて、通い・訪問・泊まりのサービスを柔軟に調整します。送迎の送り出し・迎え入れは「時差勤務制度」を活用することで、始業・終業時刻を調整。また、通院時には、時間単位の「介護休暇」を活用して付き添います。
このように、介護と仕事を両立させるためには、それぞれの時間をうまく調整できることが大切なポイントの1つになります。
不利益取扱いの禁止とハラスメント防止措置
育介法では、家族の介護等をするための各種制度を規定するほか、介護休業などの制度の申出や取得を理由とした解雇など「不利益な取扱いを禁止」しています。また、上司・同僚からの介護休業等を理由とする嫌がらせ等(ケアハラ)を防止する措置を講じることを、事業主に義務付けています。
おわりに
今回は、育介法に規定される両立支援制度を紹介しました。導入には、まず職場の風土づくりが大切だと思います。介護は誰にでも起こりうる問題です。日ごろからコミュニケーションをとり、遅刻や早退などの勤務時間の調整について、職場内で融通できるようにしておくことです。長期的には、業務分担の見直しも必要かもしれません。
そのうえで、同じ職場で介護を経験した方のニーズを踏まえた両立支援制度を検討してはいかがでしょうか。たとえば、フレックスタイムやテレワークなどがあげられます。
介護や育児など、さまざまな事情を抱えていても働ける職場を作っていくことが、今後の人材確保につながっていくものと思います。
社会保険労務士法人
大野事務所
木村 彩
(特定社会保険労務士)
前職ではアウトソーシング会社に所属し、工場や店舗に直接出向いて労務管理の効率化を検討していた。その際、労働法や社会保険制度への理解の必要性を感じ、大野事務所に入所。時代にあった『働きやすい職場づくり』を目指して考える毎日である。