労務相談
2026.09.14
不動産お役立ちQ&A

Vol.49 カスタマーハラスメントを原因とする労災


Question

当社の営業社員が担当顧客から日常的に暴言や脅しを受け、うつ病になりました。この場合、労災になりますか? なお、会社は1カ月ほど前から社員より相談を受けていましたが、その顧客とは高額な取引が見込まれていたことから、会社として対応できていませんでした。

Answer

厚生労働省の定める精神障害の労災認定基準の中には、具体例として、いわゆるカスタマーハラスメントを原因とする労災が挙げられています。本問のケースは、①顧客から暴言や脅しを繰り返し受けていること、②会社に相談していたにもかかわらず改善されなかったことから、労災と認定される可能性があります。

はじめに

厚生労働省は、労働者に発病した精神障害について、仕事が主な原因と認められるかどうかの判断(労災認定)の基準を定めています(「心理的負荷による精神障害の認定基準について」〔R5.9.1基発0901第2号〕)。その中で、業務による心理的負荷(=仕事によるストレス)の原因となる具体的出来事の1つとして「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」ことを挙げています。いわゆるカスタマーハラスメント(以下、カスハラ)と呼ばれるものです。

社会情勢の変化等を踏まえ、カスハラは2023年の通達で具体的出来事の1つとして明示されました。なお、厚生労働省が2026年に公表した「過労死等の労災補償状況」によると、2025年度に精神障害の労災認定を受けたのは1,082件、そのうち原因別ではカスハラが127件で2番目に多くなっており、今後の動向が注目されます。

精神障害の労災認定

精神障害が労災として認定されるには、先述のとおり厚生労働省の「心理的負荷による精神障害の認定基準」を満たす必要があります。この基準は情報量が多く複雑ですが、簡潔にまとめると、次の3つをすべて満たしたときに労災として認定されると定めています。

  • ①対象となる精神障害(代表的なものは、うつ病や急性ストレス反応)を発病していること
  • ②発病前おおむね6カ月の間に「業務による強い心理的負荷」が認められること
  • ③仕事以外の要因や既往歴等により発病したとは認められないこと

カスハラと「業務による強い心理的負荷」

カスハラによる心理的負荷を労働基準監督署が評価する視点としては、「迷惑行為に至る経緯や状況等」、「迷惑行為の内容、程度、顧客等(相手方)との職務上の関係等」、「反復・継続など執拗性の状況」、「その後の業務への支障等」、「会社の対応の有無および内容、改善の状況等」が挙げられています。

また、想定される迷惑行為の内容としては、暴行、脅迫、ひどい暴言、著しく不当な要求等が示されています。「業務による強い心理的負荷」と判断される具体例として、「顧客から人格や人間性を否定するような言動を反復・継続するなどして執拗に受けた」、「顧客から威圧的な言動などその態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える著しい迷惑行為を、反復・継続するなどして執拗に受けた」等の内容が挙げられています(図表1)。

図表1:「業務による強い心理的負荷」と判断される具体例

図表1:「業務による強い心理的負荷」と判断される具体例

もし迷惑行為が反復・継続するものでなかったとしても、「「会社に相談しても、または会社が迷惑行為を把握していても適切な対応がなく、改善がなされなかった」場合には強い心理的負荷の原因と判断されることがあり得ます。

本問のケースは上記の例に当てはまるため、労災と認定される可能性があります。なお、精神障害の労災認定は特定の要因だけで判断されるものではなく、さまざまな要因を総合的に考慮して判断されます。例えば、カスハラと同時期に恒常的な長時間労働が認められる場合には、長時間労働も労災認定に影響することがあります。

実際に社員が精神障害の労災申請を行うと、労災と認定されるか否かにかかわらず、会社は労働基準監督署の詳細な調査への対応に追われることになります。そのため問題が起きてから対応に回るのではなく、問題を未然に防ぐことが重要です。

カスハラ対策の義務化

労働施策総合推進法の改正により、2026年10月1日から職場におけるカスハラ対策が義務化されます。義務化される内容は、カスハラに関する方針の明確化と労働者への周知・啓発、相談体制の整備等、多岐にわたります(図表2)。これらのカスハラ対策は就業環境を守ることを目的とするものですが、結果として社員の心身を守り、労災のリスクを低減することにもつながります。顧客から理不尽な言動を受けたとき、社員にとって最も心強いのは会社が味方になってくれることです。社員が安心して働ける環境づくりの一環として、会社のカスハラ対策について改めて点検することをおすすめします。

図表2:カスハラの防止のために講ずべき措置(義務)

図表2:カスハラの防止のために講ずべき措置(義務)
出典:厚生労働省「令和8年10月1日から、カスタマーハラスメント対策、求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策が義務化されます!」より抜粋

北條 準

社会保険労務士法人
大野事務所

北條 準
(特定社会保険労務士)

メーカーで営業や生産管理に従事した後、労務管理への関心から大野事務所に入所。現在は労務相談や手続業務全般に携わっている。地道な営業活動や、部門間の意見調整を行ってきた経験から、常に当事者の目線に立った対応を心がけている。