労務相談
2022.01.14

Vol.2 職場でのハラスメント対策(前編)


Question

パワーハラスメント(以下「パワハラ」)に関する法律が整備されたと聞きましたが、企業としてどのような対応が求められているのか(しなければならないのか)、教えてください。

Answer

2020年6月より職場におけるハラスメント防止対策が強化されており、2022年4月からは中小企業にもパワハラ防止法が適用されます。企業には、方針表明、相談窓口・体制の整備、再発防止措置などの対応が求められますが、そのためには、パワハラを正しく理解し、社員教育や社内周知に役立てる必要があります。

1. はじめに

どのような言動がパワハラに該当するのか、また企業に求められるパワハラ対策とは何かについて、今月から2回にわたり解説します。

2.パワハラの影響

パワハラにより人格や尊厳を傷つけられ、仕事への意欲や自信を無くしたり、休職や退職に追い込まれたり、場合によっては自殺に追い込まれることもあります。

パワハラは受ける人だけの問題ではなく、周囲の人たちがそうした事実を知ることで、仕事への意欲が低下し、職場全体の生産性に悪影響を及ぼす可能性があります。また、パワハラを行った人にとっても、社内での自分の信用を低下させかねず、懲戒処分や訴訟のリスクを抱えることになり、自分の居場所が失われる結果を招いてしまうかもしれません。企業においては、業績悪化や人材損失につながるほか、適切な対応をしなければ使用者責任を問われます。

3.パワハラとは

パワハラとは、職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものとされており、①から③のすべてを満たすものをいいます。なお、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、パワハラには該当しません。

優越的な関係を背景とした言動とは

業務を遂行するにあたって、当該言動を受ける労働者が行為者とされる者に対して、抵抗や拒絶することができない蓋然性が高い関係を背景として行われるものを指します。「優越的な関係」の典型的な例は「上司・部下」ですが、「同僚同士」という間柄であっても、業務を遂行するうえで、一方のみが必要な知識や経験を持っていて、その人の協力がなければ業務が進まない場合は、優越的な関係に該当します。

業務上必要かつ相当な範囲を超えたものとは

社会通念に照らし、当該言動が明らかに業務上必要性がない、またはその態様が相当でないものを指します。業務上不要な言動や、業務の目的を大きく逸脱した言動、または業務を遂行するための手段として不適当な言動などが該当します。例えば、上司が部下(先輩が後輩)に弁当を買いに行かせるといった「使いっ走り」行為なども該当します。

労働者の就業環境が害されるとは

当該言動により、労働者が身体的または精神的に苦痛を与えられ、労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、当該労働者が就業するうえで看過できない程度の支障が生じることを指します。

なお、判断にあたっては、平均的な労働者の感じ方とされており、同様の状況で当該言動を受けた場合に、社会一般の労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じるような言動であるかどうかを基準とすることが適当としています。

4.事例で考察

休日労働命令の例

部下に対し、金曜の夕刻になって月曜までに仕上げなければならない業務を命じるなど、休日勤務を余儀なくされる業務を命じることはどうでしょう。上司としては業務上の必要性から、時間外・休日労働命令はやむを得ないものであり、いじめ・嫌がらせの意図が全く無いような場合です。ここまでであれば多くの方が正当なものと判断すると思いますが、当該命令が数か月にわたり繰り返し行われていたらどうでしょう。残業等の指示は、命じるだけの合理的な理由があればよい訳ですが、とはいえ権利を濫用してしまうと強制労働的な問題となる可能性が生じます。このようなケースでは、その必要性や回数・程度などがパワハラ該当性の判断に影響します。

教育指導の例

業務上の必要性から、上司として注意・指導を行うことは当然のことですので、物でたたくなど不法行為レベルを除けば、一回の注意・指導をもってパワハラと判断されることはありません。

悩ましいのは、成績の悪い社員や言ったことをやらない社員に対し、繰り返し注意・指導が行われるケースです。初めはやさしい口調で丁寧に接している上司であっても、同じことを繰り返し指導しているうちに厳しい口調になり、時には怒鳴ってしまうことがあります。一方、当初は自身の落ち度もあり黙って指導を受けていた部下が、繰り返し叱責されるうちに反発心が芽生えたり、精神的に追い詰められたりして、パワハラを受けていると感じてしまうことがあります。

こうしたケースでは、双方の主張が共に筋が通っていることが多いことから、第三者の判断が難しくなりますが、他の者と同等の教育・指導を実施したにもかかわらず、明らかに成績が劣っていたり、同じ失敗を繰り返したりしていて、改善の機会を与えたものの一向に成果が出ない、改善されないというなかで繰り返された厳しい叱責ということであれば、パワハラには該当しないと判断される可能性が高まります。

このように、パワハラかどうかの境界線は明確ではありませんが、業務の適正な範囲を超えない注意・指導・叱責であれば問題ありませんので、「業務の適正な範囲」がどこなのかを各職場で社内研修などを通じて共有することが肝要です。

次回は企業対応について解説します。

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野田 好伸

社会保険労務士法人
大野事務所パートナー社員

野田 好伸
(特定社会保険労務士)

大学卒業後、社労士法人ユアサイドに入所し社労士としての基本を身に付ける。その後6年の勤務を経て、2004年4月に大野事務所に入所する。現在はパートナー社員として事務所運営を担いながら、人事労務相談、人事制度設計コンサルティングおよびIPO支援を中心とした労務診断(労務デュー・デリジェンス)に従事する。