労務相談
2022.04.14
不動産お役立ちQ&A

Vol.5 同一労働同一賃金とは


Question

知人の会社では、同一労働同一賃金への対応として、契約社員やパート・アルバイトに対し、賞与や退職金の支給を開始するようですが、弊社でも同様に支給しなければならないでしょうか。

Answer

「職務の内容(業務内容および責任の程度)」、「職務の内容・配置の変更の範囲(人事異動の範囲)」、「その他の事情」を考慮し、基本給、諸手当、賞与、退職金、休暇・休職、福利厚生制度など、それぞれの労働条件(処遇)について、個別に比較検討のうえ、決定する必要があります。

1.法改正の背景と経緯

働き方改革実現会議において「働き方改革実行計画」が 2017年3月に決定され、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間の不合理な待遇差の解消、いわゆる「同一労働同一賃金」の実現に向けて法制度とガイドラインを整備することを打ち出しました。

これを受けて、2018年6月には、不合理な待遇差の解消に関する規定も含めた「働き方改革関連法」が国会において成立し、関係する法律である「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム労働法)」、「労働契約法」、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(労働者派遣法)」の3法が改正され、パートタイム労働法の名称は、「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(以下「パート有期法」)」に変更されることとなりました。

この結果、通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間の不合理な待遇差に関わる規定は「パート有期法」に、同じく通常の労働者と派遣労働者との間の不合理な待遇差に関わる規定は「労働者派遣法」に定められることになりました。

2.二つの考え方

パート有期法では、同一の事業主に雇用される「通常の労働者」と「短時間・有期雇用労働者」との間で、基本給や賞与などの個々の待遇ごとに、不合理な待遇差を設けることを禁止しており、「均等待遇」と「均衡待遇」の二つの考え方に分けられます。

均等待遇とは

待遇決定に当たって、短時間・有期雇用労働者が通常の労働者と同じに取り扱われること、つまり、短時間・有期雇用労働者の待遇が通常の労働者と同じ方法で決定されることを指します。ただし、同じ取扱いのもとで、能力、経験等の違いにより差がつくのは構いません。

均衡待遇とは

短時間・有期雇用労働者の待遇について、通常の労働者の待遇との間に不合理な待遇差がないこと、つまり、①職務の内容、②職務の内容・配置の変更の範囲(人事異動の範囲)、③その他の事情、の違いに応じた範囲内で待遇が決定されることを指します(図表1)。

「職務の内容」、「職務の内容・配置の変更の範囲」以外の事情で、個々の状況に合わせて、その都度検討します。成果、能力、経験、合理的な労使の慣行、労使交渉の経緯は、「その他の事情」として想定されています。

図表1

●均等待遇(パート有期法第9条)
短時間・有期雇用労働者と通常の労働者との間で、①職務の内容、②職務の内容・配置の変更の範囲が同じ場合は、短時間・有期雇用労働者であることを理由とした差別的取扱いを禁止すること
●均衡待遇(パート有期法第8条)
短時間・有期雇用労働者と通常の労働者との間で、①職務の内容、②職務の内容・配置の変更の範囲、③その他の事情を考慮して不合理な待遇差を禁止すること
●用語の定義
通常の労働者 ・・・ いわゆる「正規型」の労働者および事業主と期間の定めのない労働契約を締結しているフルタイム労働者(正社員等)
短時間労働者 ・・・ 労働契約期間の有期・無期に関わらず、1週間の所定労働時間が同一の事業主に雇用される通常の労働者の1週間の所定労働時間に比べて短労働者
有期雇用労働者 ・・・ 期間の定めのある労働契約を締結している労働者

事業主が、均等待遇、均衡待遇のどちらを求められるかは、短時間・有期雇用労働者と通常の労働者との間で、①職務の内容、②職務の内容・配置の変更の範囲(人事異動の範囲)が同じか否かにより決まります。①と②が同じ場合には、短時間・有期雇用労働者であることを理由とした差別的取扱いが禁止され、「均等待遇(同じ処遇)」であることが求められます。①あるいは②が異なる場合は「均衡待遇」であることが求められ、短時間・有期雇用労働者の待遇は、①と②の違いに加えて「③その他の事情」を考慮して、通常の労働者との間に不合理な待遇差のないようにすることが求められます。

なお、通常の労働者に複数の社員タイプが存在する場合、ある正社員の社員タイプとは均等待遇が求められますが、別の正社員の社員タイプとは均衡待遇が求められることがありますので、正社員の社員タイプが複数ある場合は注意が必要です(図表2)。

図表2

正社員タイプの待遇の図
出典:厚生労働省「不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル【業界共通編】」

3.待遇差の説明義務

パート有期法では、短時間・有期雇用労働者の求めに応じて、短時間・有期雇用労働者に対し、通常の労働者との間の待遇差の内容やその理由について説明することが義務化されており、事業主が待遇差の内容やその理由の説明を行うに当たっては、以下の3点に留意する必要があります。

なお、待遇の決定基準自体に違いがある場合は、その基準の違いが不合理でないことについても、客観的かつ具体的な説明が求められます。

第一は、説明に当たって比較する通常の労働者は誰かということです。

パート有期法では、全ての通常の労働者との間で不合理な待遇差の解消が求められますが、待遇差の内容や理由についての説明に当たっては、職務の内容等が最も近い通常の労働者が比較対象になります。

第二は、待遇差の内容と理由として何を説明するのかということです。

待遇差の内容としては、通常の労働者と短時間・有期雇用労働者とで待遇の決定基準に違いがあるかどうか、通常の労働者と短時間・有期雇用労働者の待遇の個別具体的な内容または待遇の決定基準を説明する必要があります。また、待遇差の理由としては、職務の内容、職務の内容・配置の変更の範囲(人事異動の範囲)、その他の事情に基づき、客観的かつ具体的に説明する必要があります。

第三は、短時間・有期雇用労働者に説明する際の説明の仕方です。

説明に当たっては、短時間・有期雇用労働者が説明内容を理解することができるよう、資料を活用して口頭で説明することが基本となります。

4.まとめ

いまや全労働者の約4割が非正規雇用となっていることから、優秀な人材を確保するために賞与を支給したり、休暇制度を充実させたりするなど、非正規雇用の待遇を改善する企業は増えつつありますので、法違反とならないようにすることはもちろんですが、他社の動向を見つつ待遇改善を行う必要があるといえます。


野田 好伸

社会保険労務士法人
大野事務所パートナー社員

野田 好伸
(特定社会保険労務士)

大学卒業後、社労士法人ユアサイドに入所し社労士としての基本を身に付ける。その後6年の勤務を経て、2004年4月に大野事務所に入所する。現在はパートナー社員として事務所運営を担いながら、人事労務相談、人事制度設計コンサルティングおよびIPO支援を中心とした労務診断(労務デュー・デリジェンス)に従事する。