労務相談
2022.06.14

Vol.7 退職者やフリーランスに対する競業制限の限界


Question

在籍する社員や退職者に対する競業制限・禁止はどこまで可能でしょうか。また、現在当社では、数名のフリーランス(個人事業主)と業務委託契約を締結していますが、当該フリーランスによる同業他社(特にライバル企業)からの業務受注を制限することは問題ないでしょうか。

Answer

競業制限・禁止の内容が合理的な範囲であれば有効とされますが、退職者の職業選択の自由を著しく制限したり、一般消費者の利益を侵害したりするようなものは認められません。また、フリーランスとの関係では、原則として当事者間で自由に決定できますが、発注事業者(会社)が優越的地位を濫用して一方的に競業避止義務を課した場合は、独占禁止法違反となります。

1. 退職者の競業制限

一般的に労働契約中については、信義則に基づき労働者は競業避止義務を負うものと解されていますが、退職後については、当該義務は消滅し、就業規則や労働契約等で特別の定めがある場合に限り認められるものと解されています。

競業行為の制限は、使用者の利益を守るという性質がある一方、退職者の職業選択の自由を制限したり、競業制限により独占集中を招き一般消費者の利益を侵害したりするなどの側面があることから、その有効性が問題となります。

競業制限に関する代表的な裁判例では、「競業の制限が合理的な範囲を超え、債務者らの職業選択の自由等を不当に拘束し、同人の生存を脅かす場合は、その制限は、公序良俗に反し無効となることは言うまでもないが、この合理的範囲を確定するにあたっては、制限の期間、場所的範囲、制限の対象となる職種の範囲、代償の有無等について、債権者の利益(企業秘密の保護)、債務者の不利益(転職、再就職の不自由)及び社会的利害(独占集中のおそれ、それに伴う一般消費者の利害)の三つの視点に立って慎重に検討していくことを要する」(フォセコ・ジャパン・リミテッド事件)と判示しています。

2. フリーランスの競業制限

フリーランス(個人事業主)についても労働者同様、業務委託契約期間中は競業避止義務を負うものか疑問が生じますが、フリーランスについては、当該義務が契約上当然に含まれているものではなく、どのような条件とするかは当事者間の自主的な判断に委ねられています。

ただし通常は、会社とフリーランスとの情報量や交渉力に差があることから、会社がその優越的な地位を濫用して不公正な取引を行うことがないよう、独占禁止法により規制しています。

また、令和3年3月26日に発表された「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」では、競業避止義務等や優越的地位の濫用事例について下記のように述べています。

「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」

秘密保持義務・競業避止義務・専属義務は、一般的には、発注事業者が営業秘密やその他の秘密情報の漏洩を懸念することなく取引すること、発注事業者が商品・サービスを供給するのに必要な役務等を提供させるために自己への役務等の提供に専念させること、発注事業者がフリーランスに一定のノウハウ、スキル等を身に付けるようにするための育成投資を行ったうえで、その育成に要する費用を回収することを目的とするものである。発注事業者が、合理的に必要な範囲でこれらの義務を設定することは、直ちに独占禁止法上問題となるものではない。

しかし、これらの義務は、それを設定されたフリーランスが他の発注事業者に対して役務等を提供する機会を失わせ、不利益をもたらす場合がある。したがって、取引上の地位がフリーランスに優越している発注事業者が、一方的に当該フリーランスに対して合理的に必要な範囲を超えて秘密保持義務、競業避止義務又は専属義務を課す場合であって、当該フリーランスが、今後の取引に与える影響等を懸念してそれを受け入れざるを得ない場合には、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることとなり、優越的地位の濫用として問題となる。

<優越的地位の濫用として問題となり得る想定例>

  • フリーランスにとって発注事業者に役務等を提供したという事実が、新たな発注事業者を獲得するうえで重要な情報となっているにもかかわらず、合理的に必要な範囲を超えて一方的に当該事実の公表を制限する秘密保持義務を設定すること。
  • フリーランスへの育成投資や役務に対する報酬の額が著しく低いにもかかわらず、当該フリーランスに、合理的に必要な範囲を超えて長期間、一方的に当該役務等の提供に専念させること。
  • 既にフリーランスの育成に要する費用を回収し終わったにもかかわらず、当該費用の回収を理由として、当該フリーランスに対して、一方的に競業避止義務や専属義務を設定すること。

3. 勧誘行為の制限

在職中は誠実義務の一環として、他の社員に対する勧誘・引き抜き行為が制限されますが、退職後は当該義務が消滅しており、むしろ自由競争の確保の観点から、元の会社の社員に対する勧誘行為も原則として自由となります。とはいえ、退職後は何をやっても良いというわけではなく、単なる転職の勧誘の域を超えて、社会的相当性を逸脱した手段で行われた勧誘行為は、自由競争の範囲内とはいえず、不法行為が成立する可能性があります。

具体的には、企業が重大な損害を被ることを知りながら、代替人員の確保の猶予を与えないまま社員を一斉かつ大量に引き抜いたり、会社が倒産するといった虚偽情報を流すなどして社員を引き抜いたり、企業秘密を持ち出させたりして会社の顧客基盤を破壊する目的で引き抜いたりした場合などとなります。

4. 最後に

企業対応としては、就業規則に禁止規定を設けたうえで誓約書等による個別対応となりますが、有効性の観点から、「当社の顧客に対する営業行為、○○地域での営業行為を行わないこと」「当社独自の技術・ノウハウを他で利用しないこと」「当社の社員に対し勧誘行為等を行わないこと」など、誓約事項について、具体的・限定的に記載することをお勧めします。


野田 好伸

社会保険労務士法人
大野事務所パートナー社員

野田 好伸
(特定社会保険労務士)

大学卒業後、社労士法人ユアサイドに入所し社労士としての基本を身に付ける。その後6年の勤務を経て、2004年4月に大野事務所に入所する。現在はパートナー社員として事務所運営を担いながら、人事労務相談、人事制度設計コンサルティングおよびIPO支援を中心とした労務診断(労務デュー・デリジェンス)に従事する。