法律相談
2023.08.10
不動産お役立ちQ&A

Vol.88 盛土規制法(宅地造成および特定盛土等規制法)施行で何がどう変わった?


Question

盛土規制法という法律ができたとききました。どのような法律なのでしょうか。

Answer

盛土規制法は、危険な宅地造成、盛土等、土石の堆積について規制し、崖崩れや土砂の流出による災害を防止するための法律です。従来の宅地造成等規制法をベースにしながらもこれを抜本的に改め、令和4(2022)年5月に制定され、令和5(2023)年5月に施行されました。

1. 「盛土規制法」制定の背景

令和3(2021)年7月3日、静岡県熱海市伊豆山で、盛土の崩落による大規模な土石流が発生しました。死者・行方不明者28人、損壊家屋136棟に及ぶ土砂災害であり、土石流が渓谷を流れる映像とともに、土砂災害のおそろしさが、私たちの印象に強く残されています。また、盛土の崩壊が不適切な造成工事が原因であったことも、広く報道されました。

ところで、この土砂災害事故を制度上の問題として検討してみると、従来、土地の開発は、宅地造成等規制法(宅造法)、森林法、農地法などによって規制されていましたが、宅地、森林、農地のいずれにもあたらない盛土の造成工事は、法規制の対象外でした(熱海の事案では盛土の所在地が法規制の対象地になっていなかった)。また、宅造法によれば規制区域外の土地には宅地造成工事の規制はなく、規制区域内の土地に対する規制をする場合にも、規制する行為は宅地を造成する場合の土地の形質の変更であって、単なる土捨てや一時的堆積は対象外でした。土地の造成や開発については、区域と対象となる行為のいずれからみても、大きな規制のスキマがあったといわざるを得ない状況だったわけです。

そこで制定されたのが、今般の盛土規制法です。宅造法(旧宅造法)を抜本的に見直して、法律の名称を「宅地造成及び特定盛土等規制法」(盛土規制法)に変更し、全国一律の基準で盛土等を規制する法律に改められました。

2. 盛土規制法制定の規制内容(スキマのない規制)

盛土規制法は、区域と対象の両方の観点から、スキマのない規制を行うことを目的とする法律です。

(1)規制区域

まず、知事等は、盛土などにより人家に被害を及ぼす可能性がある区域を規制区域として指定します。規制区域には、宅地造成等工事規制区域(宅造区域)と、特定盛土等規制区域(特盛区域)の2種類があります。

宅造区域は、宅地造成を行うにあたって危険がともなう宅地造成工事規制区域(旧宅造法で指定されていた区域)に加えて、宅地造成以外の盛土等に危険をともなう森林や農地、平地部の土地も含め、広く指定されます(盛土規制法(以下、単に条文を記すときは、盛土規制法の条文)10条1項)。特盛区域については、市街地や集落から離れていても地形などの条件から盛土等が崩落して流れ込んだ場合に、人家に被害を及ぼし得るエリア(渓流の上流域の斜面地など)が指定されます(26条1項)。これらの規制区域の指定により、規制区域のスキマが埋められることになりました。

(2)規制対象となる行為

次に規制対象となる行為は、宅地造成工事に限定されません。土地(森林・農地を含む)を造成するための盛土・切土にまで広げられ、さらに土地の形質の変更にあたらない、単なる土捨てや一時的堆積も規制されます(図表)。

図表 (旧)宅地造成規制法と盛土規制法の違い

(旧)宅地造成規制法と盛土規制法の違い

宅造区域や特盛区域で規制対象の行為を行うためには、知事等の許可(12条1項)または届出(27条1項)が必要となります。許可された盛土等については、所在地が公表され(12条4項、27条2項)、現地に標識(看板)を掲げることが義務づけられます(49条)。

3. 宅建業法関連

(1)広告の開始時期の制限

宅建業者は、宅地造成工事の完了前においては、法令に基づく許可があった後でなければ、宅地の売買その他の業務に関する広告をしてはなりません(宅建業法33条)。従前は、旧宅造法による許可が問題とされていましたが、今後は、盛土規制法による許可の後でなければ広告ができないことになります(宅建業法施行令2条の5第 23号)。

(2)重要事項説明

宅建業者は、宅地の売買を行うにあたっては、買主に対して定められた重要事項について、宅建士をして、書面を交付して説明させなければなりません(宅建業法35条1項2号)。盛土規制法による規制は、説明事項のひとつです(宅建業法施行令3条1項 27号)。

4. まとめ

宅建業者には、みずから造成して宅地を販売し、または宅地の売買を仲介することによって、人々に宅地を供給する社会的使命があります。他方、造成宅地の安全性を確保したり、土地の購入者に宅地の安全性に関する的確な情報を提供することも求められます。今般制定された盛土規制法は、宅建業者にとって重要な行政法規であり、正しく理解をしておかなければなりません。

今回のポイント 

  • 令和3(2021)年7月3日に静岡県熱海市で発生した土石流による土砂災害を契機として、宅地造成等規制法(旧宅造法)が抜本的に改正されて法律の名称が変わり、盛土規制法が制定された。
  • 盛土規制法は、危険な宅地造成・盛土等・土石の堆積を包括的に規制する法律である。
  • 盛土規制法には、宅地造成等工事規制区域と特定盛土等規制区域が定められる。それぞれについて、宅地造成、盛土等、土石の堆積を行う場合の規制が決められている。
  • 宅建業者の業務において、盛土規制法は重要な法律であり、みずからが事業者として宅地造成、盛土等、土砂の堆積を行う場合、および仲介業者として広告や重要事項説明を行う場合の両方を想定し、十分な理解をしておかなければならない。

渡辺 晋

山下・渡辺法律事務所 弁護士

渡辺 晋

第一東京弁護士会所属。最高裁判所司法研修所民事弁護教官、司法試験考査委員、国土交通省「不動産取引からの反社会的勢力の排除のあり方の検討会」座長を歴任。マンション管理士試験委員。著書に『新訂版 不動産取引における契約不適合責任と説明義務』(大成出版社)、『民法の解説』『最新区分所有法の解説』(住宅新報出版)など。