新型コロナウイルスの影響によって、当社の関与する不動産取引がほとんどなくなってしまい、売上げが激減しています。会社を存続させるためには、従業員を解雇せざるを得ない状況なのですが、解雇が認められるでしょうか。
Answer
1.要件を満たせば認められる
解雇が認められるためには、①人員整理が必要であること、②解雇を回避する努力を行ったこと、③解雇する人選に合理性があること、④妥当な手続きが行われることの4つの要件があります。この4つの要件を満たしていれば、解雇をすることができます。満たしていなければ、解雇をすることは認められません。
2.整理解雇
使用者が経営上の必要性から人員を削減するために行う解雇を「整理解雇」といいます。整理解雇は、やむを得ない事業の都合がある場合だけに認められます。やむを得ない事業の都合があるといえるかどうかは、①人員整理の必要性、②解雇回避努力、③人選の合理性、④手続きの妥当性という4つの要件(整理解雇の4要件)を満たさなければならないというのが確立した考え方です(東京高判昭和54.10.29判時948号111頁)。
労働契約法には、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定められています(同法16条)。整理解雇の4要件を満たしていなければ、仮に解雇の通知をしたとしても、解雇に効力はありません。
3.整理解雇の4要件
(1)人員整理の必要性
労働者は、雇用関係が永続的かつ安定したものであることを前提として長期的な生活設計を立てています。解雇は、労働者から生活の手段を奪い、あるいはその意思に反して従来より不利な労働条件による他企業への転職を余儀なくさせることがあるばかりでなく、人生計画を狂わせることにもなります。したがって会社に「人員整理をする必要があること」が、整理解雇の最低限の要件です。
(2)解雇回避努力
解雇は雇用調整の最終手段です。会社は、できるだけ解雇に至らない雇用調整の方法を取らなければなりません。新型コロナウイルス感染拡大によって会社の売上げが激減したという事情があったとしても、会社が解雇を回避する努力をしていなければ、整理解雇を行うことはできません。上記東京高判昭和54.10.29では「事業部門に勤務する従業員を同一又は遠隔でない他の事業場における他の事業部門の同一又は類似職種に充当する余地がない場合、あるいは配置転換を行ってもなお全企業的に見て剰員の発生が避けられない場合であって、解雇が特定事業部門の閉鎖を理由に使用者の恣意によってなされるものでないこと」が必要であると論じています。
(3)人選の合理性
また、具体的な解雇対象者の選定が客観的、合理的な基準に基づき、公正であることを要します。恣意的に対象者を選ぶような解雇は認められません。
(4)手続きの妥当性
加えて、労働協約や就業規則に解雇協議条項がある場合はもちろん、そうした規定がない場合でも、使用者は、信義則上、労働組合や労働者に対して、人員整理の必要性、解雇回避の方法、整理解雇の時期・規模・人選の方法などについて説明を行い、納得を得るために誠意をもって協議を行うことが求められます(水町勇一郎『詳解労働法』947頁 東京大学出版会)。整理解雇を行うとすれば、会社は従業員に対して、新型コロナウイルス感染拡大による会社経営に対する影響や、会社がこれに対してどのように対応したのかを丁寧に説明をしなければなりません。事前に人員整理がやむを得ない事情などを説明して協力を求める努力を一切しなかったような場合には、解雇の効力は否定されます(最判昭和58.10.27集民140号207頁)。
4.まとめ
新型コロナウイルスによって、人々の日常生活に計り知れない影響が及んでいます。私たちが知る限り、人の生存と経済活動に対するこれまでで最も重大な脅威であり、おそらくこれからこれ以上の深刻な問題は起こらないだろうと思われます。
しかし、人の暮らしがルールによって成り立つという仕組みは、人の生存や経済活動がいかに脅かされる事態が生じても、守られなければなりません。厳しい状況の中にあっても、これまで先人が積み重ねてきたルールを適切に遵守していくのが、私たちの務めです。
今回のポイント
- 新型コロナウイルスによる社会生活への影響は深刻である。会社によっては、従業員の解雇を検討しなければならない事態に陥っている。
- 個別の労働者の事情によるのではなく、使用者が経営上の必要性から人員削減を行うためにする解雇を「整理解雇」という。
- 整理解雇には①人員整理の必要性、②解雇回避努力、③人選の合理性、④手続きの妥当性という4つの要件(4要件)がある。4要件を満たさなければ整理解雇は無効である。
- 多くの会社で売上げが激減し、存続が危ぶまれる状況にある。しかし、厳しい状況にあってもルールは守らなければならないのであり、法に則って事業を行うことは社会的な責任である。
山下・渡辺法律事務所 弁護士
渡辺 晋
1980年一橋大学卒業、三菱地所入社。1989年司法試験合格。1990年に三菱地所退社。1992年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)。マンション管理士試験委員。近著に『民法改正の解説』(2017年6月、住宅新報出版)など多数。