法律相談
2024.01.12

Vol.93 登記引取請求と買主の義務について


Question

先日、土地を売却しました。買主から売買代金が全額支払われ、土地の引渡しを行いました。しかし、買主による所有権移転登記の手続きがなされていません。買主に登記を引き取るように請求することができるでしょうか。

Answer

不動産の売主には登記を引き取るよう求める権利(登記引取請求権)がありますから、買主に登記を引き取るように請求することができます。買主が故意に所有権移転登記手続に協力しない場合には、訴えを提起して判決を得たうえで、単独で判決による登記をすることも可能です。

買主の所有権移転登記手続を求める権利

売買契約において、売主には、買主に対し、登記、登録その他の売買の目的である権利の移転の対抗要件を備えさせる義務があります(民法560条)。不動産の権利移転の対抗要件は不動産登記です(民法177条)。不動産売買では、売主は、買主に対して、不動産登記手続に協力することが義務づけられています。

わが国の法制度においては、不動産の権利を取得しても、不動産登記を経なければ権利を第三者に対抗することができず、不動産の権利の取得は、不動産登記を具備することによってはじめて確かなものとなります。一般的にみると、所有権の移転は買主にとっての権利を確保するために必要なことですから、買主が所有権移転登記手続を行わないという事態は、通常は生じません。

買主の所有権移転登記手続を行う義務

しかし、所有権移転登記手続を経て、自らが登記名義人になると、権利を確保できる反面、固定資産税が課されます(地方税法343条1項・2項)。また、登記名義が残されていると、工作物責任を負うことにもなりかねません(民法717条)。そのために、売買代金が支払われた後になっても、買主が登記を引き取ろうとしないケースがあります。登記名義が変更されないと、売主が、固定資産税の課税などの不利益を受けることになります。

そこで、売主には、買主に対して、登記引取請求権が認められています。最判昭和36.11.24民集15巻10号2573頁では、『真実の権利関係に合致しない登記があるときは、その登記の当事者の一方は他の当事者に対し、いずれも登記をして真実に合致せしめることを内容とする登記請求権を有するとともに、他の当事者は右登記請求に応じて登記を真実に合致せしめることに協力する義務を負う』と述べられています。売買契約の当事者が死亡した後であっても、売主死亡後には売主の相続人が買主に対して、買主死亡後には、売主が買主の相続人に対して、それぞれ登記の引取を求めることができます。なお、登記引取請求権は、一般に、物権に準じて、消滅時効にはかからないと考えられています(東京地判平成12.8.31LLI05530463)。

共同申請の原則

ところで、不動産登記法上、不動産の権利に関する登記の申請は、登記権利者と登記義務者が共同してしなければなりません(同法60条)。そうすると、売買契約が締結されても、契約の相手方が所有権移転登記手続に協力しない場合には、登記申請の手続きができないことになってしまいます。そこで、共同申請により登記手続をしなければならない者の一方に登記手続をすべきことを命ずる確定判決があれば、単独で登記を申請することができるものとされています(同法63条)。買主が売買代金を支払った後にも、登記を引き取らない場合には、売主は、買主に対して訴えを提起して判決を取得し、判決の確定後に、判決に基づいて単独で、売主から買主への所有権移転登記手続を行うことになります(同法61条。不動産登記令7条5号(ロ)(1))。

図表 登記引取請求のまとめ

図表 登記引取請求のまとめのイメージ

まとめ

登記を担当する専門家は司法書士であり、訴訟を担当する専門家は弁護士です。しかし、取引の全体の流れを把握し、取引が円滑に進行して依頼者の利益が確保できるようにコーディネートするのは、不動産業者の役割です。登記は不動産売買の要ですから、不動産業者は登記についても十分に気を配る必要があります。思いがけない事態が生じたときにも、依頼者から信頼される業務を行うことができるように、研鑽を積んでいただく必要があります。

今回のポイント 

  • 不動産の権利移転の対抗要件は登記であり、不動産の権利の取得は、登記を具備することによってはじめて確かなものとなる。
  • 不動産登記法上、不動産の権利に関する登記の申請は、登記権利者と登記義務者が共同してしなければならない。ただし、登記手続をすべきことを命ずる確定判決があれば、単独で登記を申請することができる。
  • 不動産の売主には、買主に対して、登記の引取りを求める権利がある。所有権移転登記手続を経て登記名義人になると、固定資産税が課されるために、不動産の買主が登記を引き取らない場合があるが、売主は、買主に対して、訴えを提起して、登記の引取りを求めることができる。
  • 売買契約の後に、売主が死亡した場合には、売主の相続人が買主に対して登記の引取りを求めることができ、買主が死亡した後には、売主が買主の相続人に対して登記の引取りを求めることができる。

渡辺 晋

山下・渡辺法律事務所 弁護士

渡辺 晋

第一東京弁護士会所属。最高裁判所司法研修所民事弁護教官、司法試験考査委員、国土交通省「不動産取引からの反社会的勢力の排除のあり方の検討会」座長を歴任。マンション管理士試験委員。著書に『新訂版 不動産取引における契約不適合責任と説明義務』(大成出版社)、『民法の解説』『最新区分所有法の解説』(住宅新報出版)など。