法律相談
2024.04.12
不動産お役立ちQ&A

Vol.96 広告物掲出可否の調査説明義務

屋上広告のイメージ

Question

宅建業者である売主から4億5,600万円で賃貸ビルを購入しました。屋上広告塔の賃料収入の55万円を含めて、月額210万円の賃料収入を得られると説明を受けていましたが、購入後、条例によって屋上に広告を掲出することができず、広告塔の賃料収入を得られないことが判明しました。売主に対して損害賠償を請求できるでしょうか。

Answer

売主に損害賠償を請求できます。投資用不動産であって、広告塔からの賃料収入が収益の額に含まれているという説明をしたうえで販売をする場合には、宅建業者である売主には、条例による広告物掲出の制限について、調査し、説明する義務がありますが、この調査説明義務に違反しているからです。

売主の説明義務

さて、本来契約を締結するかどうかを判断するための情報は、当事者がみずからの責任をもって収集しなければなりません。しかし、契約交渉の状況や当事者の置かれた立場からみて、一方の当事者が相手方に対して、情報を提供することが衡平に適する場合には、交渉の相手方に対して、売買契約に付随する信義則上の義務として、調査説明義務が課される場合があります。

売主が宅建業者である場合には、宅地建物取引業法(以下「宅建業法」)によって重要事項の調査と説明の義務が課されていますが(宅建業法35条)、宅建業法の定める調査と説明の対象は、一般的な事項に限られます。このほか、具体的な取引の状況によって、売主となる宅建業者には、買主にとって必要な情報を提供することが必要になる場合があります。

東京地判令和4.3.29-2022WLJPCA 03298001では、条例によって広告看板を設置できないのに、看板の賃貸収入が得られるとして賃貸物件を売却した場合に、宅建業者である売主に、調査説明義務の違反があったとして、損害賠償請求が認められました。

東京地判令和4.3.29

[1]事案の概要

(1)Xは宅建業者ではない合同会社であり、Yは宅建業者である。

XとYは、平成29年6月1日、Yを売主、Xを買主として、土地(本件土地)と建物(本件建物。本件土地とあわせて「本件不動産」)、売買代金4億5,600万円(税込み)で、売買契約(本件売買契約)を締結した。

本件建物は賃貸ビルであって、屋上には東西南北4方向に向けて広告看板を掲出するための工作物(以下「本件工作物」。看板1と看板2が取り付けられている)が設置されている。

(2)本件売買契約締結の交渉を行うに際して、Xが交付したレントロール(賃貸借契約一覧表。本件レントロール)には、看板1・看板2のそれぞれについて、月額20万円・月額35万円の看板使用料収入があることを前提として、賃料収入(満室想定)が月額213万2,589円、売買代金3億4,400万円に対する表面利回りが7.44%と記載されていた。

(3)しかるに、本件不動産は東京都屋外広告物条例によって、自己の氏名、名称、店名または商標を表示する広告物のほかは、広告物を表示し、または掲出物件を設置してはならない地域・場所であった(東京都屋外広告物条例6条)。

(4)Xは、Yに対し、調査説明義務違反による損害賠償を請求、裁判所は、Xの請求を認めた。

[2]裁判所の判断

『一般に投資用物件である不動産を購入するか否かに当たって主として着目されるのは、利回りおよびその基礎となる当該不動産に係る収益の額であることは明らかであるところ、宅地建物取引業者は、取引の関係者に対し、信義を旨とし、誠実にその業務を行わなければならないとされていること(宅建業法31条1項)、売買の対象となる投資用物件である不動産につきその使用収益に法令上の制限があれば、想定される収益の額に直ちに影響を及ぼし得るものである上、宅地建物取引業者には、契約の対象である宅地および建物に係る一定の法令に基づく制限につき、当該契約の相手方に対して説明することを求められていること(宅建業法35条1項2号参照)等を考慮すれば、みずから投資用不動産を販売しようとする宅地建物取引業者は、その販売に当たり、提示した販売価格の妥当性を説明する前提として、当該不動産において想定される利回りおよびその基礎となる収益の額を、当該不動産の購入を検討する者に対して説明する場合には、信義則上、想定される利回りの基礎となる収益の額に影響を及し得る法令上の制限の有無およびその内容についても、調査して説明すべき義務を負うものと解するのが相当である。

しかるに、Yは、Xに対し、本件売買契約の締結に際し、本件レントロールに記載された看板1および2に係る本件工作物への広告物の表示等について、自己の氏名、名称、店名または商標を表示するために自己の住所、事業所、営業所または作業場を表示するものに限定されることにより、本件不動産に係る収益に影響を及ぼし得る本件規制に関する説明をしなかったものであって、このことは、上記の信義則上の義務に違反したものとして不法行為を構成するものと認めるのが相当である』。

図表 投資用不動産の販売における宅建業者の調査説明義務

投資用不動産の販売における宅建業者の調査説明義務

渡辺 晋

山下・渡辺法律事務所 弁護士

渡辺 晋

第一東京弁護士会所属。最高裁判所司法研修所民事弁護教官、司法試験考査委員、国土交通省「不動産取引からの反社会的勢力の排除のあり方の検討会」座長を歴任。マンション管理士試験委員。著書に『新訂版 不動産取引における契約不適合責任と説明義務』(大成出版社)、『民法の解説』『最新区分所有法の解説』(住宅新報出版)など。