法律相談
2020.07.14
不動産お役立ちQ&A

Vol.51 条例で定める緑化率についての不利益事実の不告知


Question

建売りの新築戸建て住宅を購入しました。デッキテラスの存在と眺望がセールスポイントとされていた物件でしたが、購入後、デッキテラスの設置によって、条例で定める緑化率を下回り、条例に違反していたことが判明しました。売買契約を取り消すことができるでしょうか。

Answer

1.売買契約を取り消すことができる

デッキテラスが設置されて、緑化率が条例上の最低限度を下回り、条例違反となっていることは、消費者にとっての重要事項です。売主がこの事実を知っていながら告知をせず、あなたが本物件を購入していたということであれば、売買契約を取り消すことができます。

2.消費者契約法による取消し

消費者と事業者の間には、取引のための情報の質や量と交渉力において、構造的に格差があります。消費者契約法は、この格差に着目し、事業者が消費者契約の締結の勧誘をするに際し、重要事項について、消費者の不利益となる事実を告げず、消費者が事実を存在しないと誤認し、それによって消費者が契約の申込みまたはその承諾の意思表示をしたときは、消費者はこれを取り消すことができるものと定めています(消費者契約法4条2項、図表1)。

ご質問と同様の事例において、名古屋高判平成30.5.30(判時2409号55頁)では、消費者契約法4条2項に基づく売買契約の取消しが認められました。このケースにおける事実と裁判所の判断は、次のとおりです。

図表1 消費者契約法4条の取消し事由

消費者契約法4条の取消し事由

3.名古屋高判 平成30.5.30

(1)事案の概要

①Xは、不動産業者Yから、平成27年1月25日、新築の戸建て住宅(本物件)を、売買代金9,778万9,100円で購入した(本件売買契約)。Yが本物件を販売するにあたっては、敷地の南西側に設けられたデッキテラスからの眺望、および、デッキテラスと建物南西側のLDKなどとの一体感をセールスポイントとしていた。

②本物件は、名古屋市が定める第1種風致地区内にあり、緑化率が30%以上でなければならないものとされていた。Yは、建物(デッキテラスがない状態の建物)を取り巻くように芝を張ることで緑化率を30%以上とする緑化計画図を提出して、名古屋市風致地区内建築等規制条例(名古屋市風致地区条例)に基づく許可を受けたうえで、建築基準法に基づく確認済証、および、検査済証の交付を受けていた。

しかるに、YがXに引き渡した本物件では、芝を取り除いてデッキテラスを設けていたために緑化率が30%未満となり、緑化面積が27.2㎡不足し、条例違反となっていた。

③Xは、引渡しを受けた後に条例違反を知り、消費者契約法4条2項に基づいて売買契約を取り消し、Yに対して、売買代金の返還などを求め、訴えを提起した(図表2)。

④名古屋地裁は、名古屋市風致地区条例に違反していることについて故意がなかったとして、取消しを認めなかった。

これに対し、Xが控訴した。

図表2 買主Xが提訴に至るまでの流れ

買主Xが提訴に至るまでの流れ

(2)高裁の判断

控訴審の名古屋高裁では、まず、Yが緑化率30%を下回っていたことを知っていたかどうかについて、Yは名古屋市風致地区条例2条1項に基づく許可を申請して許可を受け、デッキテラスが設置された部分を含めて芝を張るなどして行為完了届を提出したが、その後まもなくデッキテラスを設置するため、当該部分の芝を撤去し、そのために条例の要求する緑化率を充足しなくなったにもかかわらず、販売を開始したことから、条例違反の事実を認識していたものと認定した。

そのうえで、Yは、「名古屋市風致地区条例の定める緑化率を充足せず、条例違反の状態となっているという消費者の不利益となる事実を告げなかった」のであり、そのために、Xが「本物件が緑化率の不足により名古屋市風致地区条例に違反する状態にあるという事実が存在しないとの誤認をしたものであるところ、そのような誤認がなければ、本件売買契約と同一の条件でその申込みをしたとは考えにくい」として、Xによる売買契約の取消しを認めた。

4.まとめ

本件では、売主は、デッキテラスをセールスポイントにするために、いったん芝を張って完了届を提出し、その後あえて芝を撤去して条例に違反した状態で販売を行っており、重大なコンプライアンス違反があったと言わざるを得ません。不動産業界は、おとり広告と報酬規程の不遵守の問題など、いまだコンプライアンスに対する意識が十分とはいえない状況にあります。さまざまな機会を捉えて、改めてコンプライアンスの重要性を確認していただきたいと考えます。

今回のポイント

  • 消費者契約法により、事業者が消費者契約の締結の勧誘をするに際し、重要事項について、消費者の不利益となる事実を告げず、消費者が事実を存在しないと誤認し、それによって消費者が契約の申込みまたはその承諾の意思表示をしたときは、消費者は消費者契約を取り消すことができる。
  • 緑化率についての条例違反があるにもかかわらず、条例違反の状態となっているという消費者の不利益となる事実を告げず、買主を誤認させて売買契約を締結させた場合には、売買契約の取消し事由となる。
  • 不動産業界においては、いまだにおとり広告がなくならず、また、報酬規程に違反する報酬の授受が行われている。コンプライアンスを遵守したうえで業務を行うことは、不動産業界が社会において信頼されるための基盤であることを確認する必要がある。

山下・渡辺法律事務所 弁護士

渡辺 晋

1980年一橋大学卒業、三菱地所入社。1989年司法試験合格。1990年に三菱地所退社。1992年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)。マンション管理士試験委員。近著に『民法改正の解説』(2017年6月、住宅新報出版)など多数。