法律相談
2024.09.13
不動産お役立ちQ&A

Vol.101 犯罪による収益の移転防止に関する法律上の取引時確認


Question

犯罪収益移転防止法上、宅建業者は、法人が顧客となる取引を行う場合、どのような事項を確認する必要がありますか。

Answer

法人が顧客の場合、宅建業者が確認すべき事項は、①本人特定事項(名称、本店または主たる事務所の所在地)、②取引を行う目的、③事業の内容、④実質的支配者の確認(その者の本人特定事項)です。現に特定取引の任に当たっている者についての、本人特定事項(氏名、住居、生年月日)も確認が必要です。

犯罪収益移転防止法

さて、犯罪収益移転防止法(以下「犯収法」または「法」)は、犯罪による収益の移転の防止を図ることを目的とする法律です。マネー・ロンダリング(資金洗浄)防止法(マネロン法)ともいわれます。

犯収法では、金融機関など49の業種が、特定事業者として位置づけられ、所定の措置が義務づけられます。宅建業者は特定事業者ですから、同法に定められる義務を履行しなければなりません。

3つの義務

犯収法によって特定事業者に義務づけられる措置は、〔1〕取引時確認、〔2〕確認記録・取引記録の作成・保存、〔3〕疑わしい取引の届出の3つです。

〔1〕取引時確認(法4条)

取引時確認は、本人特定事項により、(1)顧客が実在する特定の自然人(個人)または法人であることを明らかにし、(2)現実に取引行為を行い、あるいは行おうとしている相手方が、顧客と同一であることを確かめ、届出を要する疑わしい取引か否かの判断を容易にし、(3)取引の動機や目的等を明らかにするための手続きです。

顧客が自然人の場合には、①本人特定事項(氏名、住居、生年月日)、②取引を行う目的、③職業の3項目が確認事項となります。

顧客が法人の場合には、①本人特定事項(名称、本店または主たる事務所の所在地)、②取引を行う目的、③事業の内容、④実質的支配者(株式会社で25%を超える議決権を有する者など)の確認が必要です。実質的支配者がいる場合には、その者についての本人特定事項(氏名、住居、生年月日)の確認もしなければなりません。

また法人の場合には、代表者や取引担当者が現に特定取引の人にあたります。現に特定取引の任に当たっている者についての、本人特定事項(氏名、住居、生年月日)も確認が必要です(図表1)。

図表1:取引時確認として確認すべき事項

図表1:取引時確認として確認すべき事項
出典:宅地建物取引業における犯罪収益移転防止のためのハンドブック【第4版】<第1分冊>、不動産業における犯罪収益移転防⽌及び反社会的勢⼒による被害防⽌のための連絡協議会発行 8頁(2023年3月公表)より抜粋・編集

〔2〕確認記録・取引記録の作成・保存(法6条・7条)

確認記録の作成・保存

特定事業者は、取引時確認を行った場合には、直ちに、確認記録を作成し、特定取引等に係る契約が終了した日から7年間、保存しなければなりません。確認記録は、取引時確認を行ったことを事後的に確認するためのものですので、確認事項のほか、確認を行った者やその状況を特定するために必要な事項が、記録事項となります。

取引記録の作成・保存

また、特定事業者は、取引時確認が、どの取引と対応するものであるかを明らかにするため、取引記録を作成しなければなりません。①確認記録を検索するための事項、②取引の日付、③取引の種類、④取引に係る財産の価額(=売買代金の額)、⑤財産の移転元、移転先の名義などが記載事項です。取引記録の保存期間も7年間です。

なお、宅建業法上も取引帳簿の備え付けが義務づけられていますから(宅建業法49条)、犯収法に基づく確認記録・取引記録を、宅建業法に基づく取引帳簿とともにとじておくことも、合理的な管理方法です。

〔3〕疑わしい取引の届出(法8条)

特定事業者は、業務遂行の過程において、取引で収受された財産が犯罪収益ではないか、または顧客が当事者になりすまし、犯罪収益を隠匿しようとしているのではないか、というような疑いが生じた場合には、速やかにその取引内容等を行政庁に届け出なければなりません(図表2)。たとえば、売主が「いくらでもいいから早く売りたい」と言っていたり、買主が「書類は全部、登記上の会社所在地以外に送付してほしい」と言っている場合などには、疑わしい取引と判断すべきだと考えられます。

図表2:顧客等との取引に関するフロー図

図表2:顧客等との取引に関するフロー図
出典:国土交通省「犯罪収益移転防止法の概要について」より抜粋・編集

今回のポイント

  • 犯罪収益移転防止法では、宅建業者には、①取引時確認、②確認記録・取引記録の作成・保存、③疑わしい取引の届出という3つの義務が課されている。
  • 取引時確認において確認すべき事項は、図表1のとおりである。取引が代理人や代表者によって行われる場合には、代理人や代表者、現に特定取引の任に当たっている者についての、本人特定事項(氏名、住居、生年月日)も確認しなければならない。
  • 特定事業者は、確認記録を作成し、7年間保存する義務がある。また取引記録を作成し、7年間保存することも必要である。
  • 取引で収受された財産が犯罪収益ではないか、または顧客が当事者になりすまし、犯罪収益を隠匿しようとしているのではないか、というような疑いが生じた場合には、取引内容等を行政庁に届け出なければならない。

渡辺 晋

山下・渡辺法律事務所
弁護士

渡辺 晋

第一東京弁護士会所属。最高裁判所司法研修所民事弁護教官、司法試験考査委員、国土交通省「不動産取引からの反社会的勢力の排除のあり方の検討会」座長を歴任。マンション管理士試験委員。著書に『新訂版 不動産取引における契約不適合責任と説明義務』(大成出版社)、『民法の解説』『最新区分所有法の解説』(住宅新報出版)など。