当社が募集・管理を行っている賃貸物件について、物件紹介のために撮影した写真(物件写真)を、当社を退職しB社に転職した社員が、B社のウェブサイトに無断で掲載していました。B社に対して、損害賠償を請求することができるでしょうか。なお、現在は、当社の申入れによって、物件写真はB社のウェブサイトから削除されています。
Answer
B社に対して、損害賠償を請求することができます。物件写真は、著作権法上の著作物に該当し、無断でこれを複製し、公衆送信することは、著作権を侵害するからです。
著作権侵害
著作権
現代社会では、モノだけではなく、情報も重要な財産です。法的に保護されるべき情報にはさまざまな種類がありますが、なかでも日々のビジネス上問題となりやすいのが、著作権です。著作権は、著作物(思想または感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するもの。著作権法2条1項1号)を保護するための権利です。
著作権法上、著作権は、著作者人格権(著作者の精神的利益を守る権利。同法18条~20条)と財産権としての著作権(同法21条~28条)の2つで構成されており、財産権としての著作権は、複製、公衆送信など利用形態ごとに権利の内容が定められています。複製とは、印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製すること(同法2条1項15号)、公衆送信とは、公衆によって直接受信されることを目的として無線通信または有線電気通信の送信を行うことです(同法2条1項7号の2)。
不動産業者が日常業務のなかで作成する資料のうち、単なるデータ(物件概要をとりまとめたもの)は、思想または感情を表現したものではなく著作物になりませんが、思想または感情を創作的にまとめたものである場合は、著作物になります。不動産業者が作成した資料が著作物ならば、著作権法による保護を受けます(図表)。
東京地判令和6.2.7-2024WLJPCA02079002では、物件紹介のために撮影した写真(物件写真)が著作物にあたり、これをウェブサイトに掲載することは著作物の複製、かつ公衆送信に該当するとして、無断で物件写真をウェブサイトに掲載した不動産会社に対する損害賠償請求が認められました。
東京地判 令和6.2.7
1.事案の概要
(1)X社は、賃貸物件の管理および募集を行う不動産会社である。同社の管理する甲マンション(賃貸物件)について、同社が賃借人を募集する際に利用するために、平成29年までにその外観・内観・周辺環境等を撮影し、複数枚の写真(本件各写真)を保有していた。
(2)AはX社の元従業員であり、甲マンションの管理・募集を担当していたが、平成30年1月31日にX社を退職し、令和3年3月23日に、賃貸物件の管理・募集を行う不動産会社としてY社を設立し、代表者となった。
(3)Aは、Y社のウェブサイトに、X社に無断で、Y社が管理する賃貸物件であるとして本件各写真(本件侵害対象写真)を掲載した。
X社は、Y社に対して、本件各写真が無断で使用されているとして、使用されている写真の削除等を求める旨の通知を行った。本件各写真は、同年5月13日までにY社のウェブサイトから削除された。
(4)X社は、Y社がその管理する賃貸物件に係るウェブサイトに掲載した行為が、X社の本件各写真に係る著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害すると主張して、Y社に対して損害賠償を求めて訴えを提起した。裁判所は、X社の請求を認めた。
2.裁判所の判断
『本件各写真は、賃貸物件の外観・内観及び周辺環境等を撮影したものであること、本件各写真の撮影は、賃貸物件の内容を分かりやすく需要者に伝えるため、明るさや撮影角度等を調整して行われたものであること、本件各写真の中には、対象を広く写真に収めるため、パノラマ写真を撮影できるカメラを利用して撮影されたものも含まれていることが認められる。
このような本件各写真の内容や撮影方法に照らすと、本件各写真は、被写体の構図、カメラアングル、照明、撮影方法等を工夫して撮影されたものであり、撮影者の個性が表現されたものといえる。
したがって、本件各写真は、いずれも思想又は感情を創作的に表現したものと認められ、「著作物」(著作権法2条1項1号)に該当する』。
『Y社は、X社の許諾を得ることなく、Y社物件に係るウェブサイト上において、本件侵害対象写真を有形的に再製して掲載し、以下の期間、インターネットを通じて上記のウェブサイトにアクセスした不特定又は多数の者が本件侵害対象写真を閲覧できる状態に置いたことが認められる。・・・(中略)・・・
したがって、Y社の行為は、故意又は過失により、X社の著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害するものとして、不法行為に該当する』。
山下・渡辺法律事務所
弁護士
渡辺 晋
第一東京弁護士会所属。最高裁判所司法研修所民事弁護教官、司法試験考査委員、国土交通省「不動産取引からの反社会的勢力の排除のあり方の検討会」座長を歴任。マンション管理士試験委員。著書に『新訂版 不動産取引における契約不適合責任と説明義務』(大成出版社)、『民法の解説』『最新区分所有法の解説』(住宅新報出版)など。