自宅を建築するために土地を購入しました。売買契約前、仲介会社から「土地は公道には面していないけれど私道(2項道路)に面しており、私道所有者が自動車通行を認めた承諾書がある」と説明を受けていました。しかし、決済後、承諾書は私道所有者に無断で作成されたもので、私道を自動車で通行することはできないことが判明しました。仲介会社に損害賠償を請求できるでしょうか。
Answer
仲介会社が、自動車の通行を承諾した書面について、私道所有者に無断で作成されたものであることを知り、または知り得た場合には、仲介会社に対して、損害賠償を請求することができます。
建築基準法42条2項所定の道路
建物は、敷地が道路に2m以上接していなければ、建築をすることができません(建築基準法43条1項本文)。このことを接道要件(または接道義務)といいます。もっとも、古くから建物が建ち並んでいる既存市街地では、道路は、その多くが4m未満の道路です。そのため建築基準法は、現実的な規制市街地の状況との均衡に配慮し、「この章の規定が適用されるに至った際、現に建築物が立ち並んでいる幅員4m未満の道で、特定行政庁の指定したもの」を、建築基準法上の道路として、道路の中心線からの水平距離2mの線をその道路の境界線とみなすものとしました(同法42条2項本文)。これが2項道路です。
もっとも、私道である2項道路は、建物建築を認めるための道路にはなりますが、必ずしも道路利用者に自動車で通行する権利を認めるものではありません(最判平成9.12.18判時1625号41頁)。そこで、2項道路に面する土地を買おうとする場合には、自動車通行が可能であるか否かが重要な判断要因となります。売買の仲介を行うに際しても、私道の自動車通行が可能か否かは、信義則上に基づく説明義務の対象となり得ます。
東京高判令和5.2.14-2023WLJPCA02146012
1.事案の概要
(1)売主Aと買主Xは、平成30年8月6日、宅建業者Y社の仲介によって、代金8,800万円で、土地(本件物件)の売買契約(本件売買契約)を締結した。
(2)本件土地は公道に接しておらず、公道に至るには、私道(本件私道)を通行する必要がある。本件私道は、建築基準法42条2項所定の道路であり、Dら4名が所有している。Dら4名は、本件私道について、車両通行を認めないことを取り決めていた。
(3)その後、Dらの名義で、車両通行を認めないとする取決めを撤回し、「本件私道を無償にて通行すること(一般車両、工事車両を含む)」等を承諾する旨記載された承諾書(本件承諾書)が作成されたが、本件承諾書におけるDの署名はDの子が無断で行ったものであり、Dは本件承諾書の記載内容を承諾していなかった。本件物件の売買契約を担当していたY社の従業員Zは、本件承諾書がDに無断で作成されたものであることを知り、または知り得る立場にあった。
(4)Xは、Zの行為はXに対する不法行為であって、使用者であるY社の事業の執行についてされたものだから、Y社には使用者責任(民法715条1項)があるとして、Y社に対して、損害賠償を求めて、訴えを提起した。裁判所はXの主張を認め、Y社に損害賠償を命じた。
2.裁判所の判断
『本件私道が建築基準法42条2項所定の道路に該当するとはいえ、本件私道所有者間で合意された本件私道における一般車両の通行不可という本件取決めの存在は、かかる取決めのない土地の場合と比較すれば、土地の減価要因であり、また、積極的な売買交渉を妨げる阻害要因であったことは明らかである。それにもかかわらず、AとXの間で本件売買契約が平成30年8月に締結されるに至ったのは、Xに交付された本件私道の一般車両の通行を承諾する旨の本件承諾書により、上記減価要因が解消されたと判断したためであったと考えられる。
ところが、本件承諾書中、少なくとも本件私道の一般車両の通行を認めるという部分は本件私道所有者の真意に基づかない無効なものであった。……本件承諾書の作成経緯を認識していたZにおいては、Xにおいて本件取決めが撤回されたと誤信するであろうことを容易に認識することができたのに、本件売買契約の締結に当たって、Xに対し、本件取決めが実際には撤回されていないことを口頭によっても書面によっても説明しなかった。
以上のような事情に照らせば、Zが、本件承諾書により誤信に陥っていたXに対して、信義則上の説明義務に違反して、本件売買契約の締結に先立ち、実際には本件取決めが撤回されていないことを全く説明しなかったことは、Xがその購入金額の適否を十分に検討した上で同金額により本件売買契約を締結するか否かを決定する機会を奪った違法行為であったと評価することができる。Zの不法行為(民法709条)が成立するというべきであり、この不法行為は、使用者であるY社の事業の執行についてされたものであったから、Y社は使用者責任(民法715条1項)を負うというべきである』。
■2項道路の概要
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山下・渡辺法律事務所
弁護士
渡辺 晋
第一東京弁護士会所属。最高裁判所司法研修所民事弁護教官、司法試験考査委員、国土交通省「不動産取引からの反社会的勢力の排除のあり方の検討会」座長を歴任。マンション管理士試験委員。著書に『新訂版 不動産取引における契約不適合責任と説明義務』(大成出版社)、『民法の解説』『最新区分所有法の解説』(住宅新報出版)など。