法律相談
2025.12.12
不動産お役立ちQ&A

Vol.116 売買契約が解除された場合の仲介報酬


Question

所有者から土地売却の仲介の依頼を受けて業務を行い、売買契約が成立しましたが、買主が代金を支払わなかったために、売買契約が解除になりました。当社は売主との間で媒介契約書を作成しており、売買契約が成立すれば仲介報酬を請求できる旨が明記されています。当社は売主に仲介報酬を請求できるでしょうか。

Answer

媒介契約書に、売買契約が成立すれば仲介報酬を請求できる旨の定めがありますから、売買契約が成立後に解除になっても、売主に対して、媒介契約に定められた額の仲介報酬を請求することができます。

仲介報酬の意義

宅建業者は、取引当事者の間に立って、物件を紹介して案内をしたり、取引条件の交渉をするなどの仲介行為(媒介行為)を行って、業務の対価としての仲介報酬を得ます。仲介報酬については、最判昭和49.11.14民集22巻8号1677頁では、『仲介人が宅地建物取引業者であって、依頼者との間で、仲介によりいったん売買契約が成立したときは、その後、依頼者の責に帰すべき事由により契約が履行されなかったときでも、一定額の報酬金を依頼者に請求しうる旨約定していた等の特段の事情がある場合は格別、一般に仲介による報酬金は、売買契約が成立し、その履行がされ、取引の目的が達成された場合について定められているものと解するのが相当である』と述べられているなど、特約がない場合には、決済に至らなければ、報酬を請求できません。しかし他方で特約があれば、決済に至らなくても、契約が成立すれば報酬を請求することができます。

媒介契約において、売買が成立したときは報酬を請求することができると定められていたことから、売買契約成立後に売買契約が解除になったけれども、宅建業者の媒介契約に定められたとおりの仲介報酬請求が認められたケースが、東京地判令和4.1.11-2022WLJPCA11108010です。

東京地判令和4.1.11

1.事案の概要

Xは宅建業者。平成30年12月15日、土地の所有者Aとの間で、土地(本件土地)の売却に関して、仲介報酬の額を、成約本体価格×3%+6万円(消費税および地方消費税抜き報酬額)、および同価格の8%(消費税額および地方消費税額の合計額)を合計した額としたうえで、「Xの媒介によって本件土地の売買が成立したときは、Xは、Aに対し、報酬を請求することができる」と定めて、一般媒介契約(本件媒介契約)を締結した。

Aは、Xの仲介によって、平成31年2月18日、買主Bとの間で、本件土地について、手付金1,250万円を受領したうえで、売買代金1億2,500万円とする売買契約を締結した。しかし残代金の支払日までに、残代金1億1,250万円が支払われなかったので、Aは、Bに対して、本件土地の売買契約を解除した。

Xは、Aに対して仲介報酬を請求したが、Aがこれを拒んだので、約定の仲介報酬411万4,800円の支払いを求めて、訴えを提起した。

裁判所は次のとおり述べて、Xの主張どおり、媒介契約書に定められた411万4,800円について、AにはXに対して仲介報酬を支払う義務があることを認めた。

2.裁判所の判断

『一般に不動産売買についての媒介契約は、対象不動産の売買についての仲介を委託する準委任契約と解されるところ、その目的は、対象不動産についての売買契約を成立させることにある。そのために仲介者が行うべき一般的な業務である調査、交渉、斡旋、契約書や重要事項説明書の作成及び説明の各業務は、売買契約の成立までに履行することが予定されている。仮に売買契約成立後に仲介者が行うべき業務があったとしても、通常は補助的な業務にすぎない。すなわち、売買契約が成立した場合において、それが約定どおり履行されるか否かは、仲介人が保証できるものではなく、その履行の実施を補助するにとどまることからすれば、不動産売買の媒介契約は、原則として売買契約が成立することによって、その委任事務を履行したものとして、その報酬支払請求権が発生するものというべきである。そして、本件媒介契約において、仲介報酬について、「Xの媒介によって本件土地の売買が成立したときは、原告は、被告に対し、報酬を請求することができる」との定めがあるのは、このことを定めたものと解するのが相当である。そうすると、Xの報酬請求権は、本件売買契約の成立によって発生する』。

図表 東京地判令和4.1.11のイメージ

東京地判令和4.1.11のイメージ

column

一般媒介契約約款
(宅地建物取引業法施行規則、
平成2年1月30日、建設省告示第115号)の条文

第10条(報酬の請求)
乙の媒介によって目的物件の売買又は交換の契約が成立したときは、乙は、甲に対して、報酬を請求することができます。ただし、売買又は交換の契約が停止条件付契約として成立したときは、乙は、その条件が成就した場合にのみ報酬を請求することができます。
2 前項の報酬の額は、国土交通省告示に定める限度額の範囲内で、甲乙協議の上、定めます。

まとめ

売買契約が円滑に決済されるように尽力することは仲介業者の務めですが、売買契約の決済は売主と買主が行うものですから、決済されない場面が生じることは避けられません。宅建業者は、媒介契約を締結するにあたっては、売買契約の交渉から決済に至るまで生じ得るあらゆる場面を想定して、対応を考えておく必要があります。

今回のポイント

  • 売買契約の仲介報酬については、一般に、売買契約が成立しても、決済に至らない場合には、特約がなければ、報酬を請求することができない。
  • もっとも、媒介契約において、宅建業者の媒介によって売買が成立したときは報酬を請求することができると定められていれば、売買契約成立後に契約が解除になったときにも、宅建業者は媒介契約に定められたとおりの仲介報酬を請求することができる。
  • 宅建業者は、媒介契約を締結するにあたっては、売買契約の交渉から決済に至るまで生じ得るさまざまな場面を想定して、対応を考えておく必要がある。

渡辺 晋

山下・渡辺法律事務所
弁護士

渡辺 晋

第一東京弁護士会所属。最高裁判所司法研修所民事弁護教官、司法試験考査委員、国土交通省「不動産取引からの反社会的勢力の排除のあり方の検討会」座長を歴任。マンション管理士試験委員。著書に『新訂版 不動産取引における契約不適合責任と説明義務』(大成出版社)、『民法の解説』『最新区分所有法の解説』(住宅新報出版)など。