宅地建物の取引において、水害ハザードマップに関する重要事項説明は、どのようにして行えばよいのでしょうか。
Answer
取引対象の位置を含む水害ハザードマップ(水防法に基づいて作成されたもの)を、洪水・内水・高潮のそれぞれについて提示し、おおむねの位置を示すことにより行います。水害ハザードマップは、市町村が配布する印刷物または市町村のウェブサイト等に表示される地図を印刷したものを利用することができます。
図表 水害ハザードマップの種類

水防法に基づく水害ハザードマップ
水防法は、洪水、雨水出水、津波または高潮に際し、水災を警戒、防御し、これによる被害を軽減することを目的とする法律です。洪水時の円滑かつ迅速な避難を確保し、または浸水を防止して、水災による被害の軽減を図るため、想定最大規模降雨により河川が氾濫した場合に浸水が想定される区域が、洪水浸水想定区域に指定されます(水防法14条1項)。
浸水想定区域をその区域に含む市町村の長は、市町村地域防災計画の定めに従い、必要事項を住民、滞在者その他の者に周知させるため、印刷物の配布その他の必要な措置を講じなければならないものとされています(水防法15条3項)。ここで配布される印刷物等が、水害ハザードマップです(水防法施行規則11条1項)。
宅建業法の重要事項説明
2020(令和2)年8月に宅建業法施行規則が改正され、重要事項について、水害ハザードマップにおける取引対象の位置が説明事項とされました(宅建業法施行規則16条の4の3第3号の2)。取引対象の位置が水害ハザードマップに表示されているときには、宅建業者は、水害ハザードマップの地図上の取引対象不動産の所在地を説明しなければなりません。
この説明は、取引対象の位置を含む水害ハザードマップを、洪水・内水・高潮のそれぞれについて提示し、おおむねの位置を示すことにより行います。水害ハザードマップは、それぞれの市町村において、紙として配布される印刷物を取得し、あるいはウェブサイトを通じて表示される地図をダウンロードして、入手することができます。
市町村に照会し、市町村が取引の対象となる宅地または建物の位置を含む水害ハザードマップの全部または一部を作成せず、または印刷物の配布もしくはホームページ等への掲載等をしていないことが確認された場合は、その照会をもって調査義務を果たしたことになります。この場合は、提示すべき水害ハザードマップが存しない旨の説明が必要です。
なお、説明義務にあたっては、水害ハザードマップが地域の水害リスクと水害時の避難に関する情報を住民等に提供するものであることに鑑み、水害ハザードマップ上に記載された避難所について、併せてその位置を示すことが望ましいものとされています(宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方35条第1項第14号関係)。
個別の宅地や建物についての浸水リスクの説明
ところで、宅建業者は、水害ハザードマップでの取引対象不動産の位置を示すほか、個別の取引対象に関し、洪水や浸水のリスクがわかっている場合には、このことも説明が必要です。
たとえば、京都地判令和2.6.17判時2481号17頁では、地方公共団体が売主となる土地の売買において、「本件各土地の売買契約に付随する信義則上の義務として、買主に対して本件各土地を売却する際に、本件各土地に関する本件ハザードマップの内容について説明するのみならず、売主において把握していた本件各土地に関する近時の浸水被害状況や今後浸水被害が発生する可能性に関する情報について開示し、説明すべき義務を負っていた」として売主の責任が、また東京地判平成29.2.7-2017WLJPCA02078003では、以前に地下駐車場に浸水したことがある戸建て住宅の売買において、「浸水事故発生の可能性があることを認識し得た」のであるから、「浸水履歴につき、さらなる調査をし、正確な情報を原告に説明すべき義務があった」として、売主および仲介業者の責任が、それぞれ認められています。
まとめ
近年の異常な気象状況によって、私たちの生活は水害に脅かされています。
宅建業者は、住環境を整備する不動産取引の専門家です。不動産を取得し、あるいは賃借する消費者に対して、自然災害から身を守るための情報を提供することは、宅建業者の重大な責任であることを、この機会にあらためて確認していただきたいと考えます。
今回のポイント
- 浸水想定区域をその区域に含む市町村の長は、水害に関する事項を住民、滞在者その他の者に周知させるため、印刷物の配布その他の必要な措置を講じなければならないものとされている。ここで配布される印刷物や表示されるウェブサイトが、水害ハザードマップである。
- 宅建業法上の重要事項説明では、取引物件が水害ハザードマップにおいてどの位置に所在するかを説明しなければならない。
- 取引物件の水害ハザードマップ上の位置のほか、水害ハザードマップに記載された避難所についても、併せてその位置を示すことが望ましい。
- 宅建業者は、水害ハザードマップでの取引対象不動産の位置を示すほか、個別の取引対象不動産についての洪水や浸水のリスクがわかっている場合には、このことを説明することも必要である。

山下・渡辺法律事務所
弁護士
渡辺 晋
第一東京弁護士会所属。最高裁判所司法研修所民事弁護教官、司法試験考査委員、国土交通省「不動産取引からの反社会的勢力の排除のあり方の検討会」座長を歴任。マンション管理士試験委員。著書に『不動産最新判例100』『不動産登記請求訴訟』(日本加除出版)、『民法の解説』『最新区分所有法の解説』(住宅新報出版)など。
