法律相談
2020.12.14
不動産お役立ちQ&A

Vol.56 ながらスマホの厳罰化


Question

当社の従業者が、業務のための移動中に、スマホの操作を行いながら営業用の自動車を運転して、人身事故を起こしてしまいました。この従業者の宅建士の資格はどうなるでしょうか。

Answer

1.禁固以上の刑は宅建士登録消除

宅建業法上、禁錮以上の刑に処せられた者は、宅建士の登録が消除されます。スマホの操作をしながら運転したことにより自動車事故を起こして禁錮以上の刑に処せられると、宅建士の資格は失われます。「ながらスマホ」については、2019(令和元)年12月1日に道路交通法が改正されて、厳しい罰則が科されることになりました。

2.宅建士の登録の消除

さて、宅建士として登録されるには、取引能力において優れており、かつ、健全な規範意識を備えていることを要します。このうち、取引能力は、宅建試験に合格していれば基礎知識を有していると認められますが、規範意識にはその有無を判定する一律の基準はありません。類型的に規範意識を欠くとみられる者について登録を拒否するという手続きを踏むことになります。登録拒否の理由となる事情が、欠格事由です。欠格事由がある場合には、宅建士としての登録はされません。

宅建業法にはさまざまな欠格事由が定められていますが(宅建業法18条1項)、そのうち、自動車の運転に関連するのが、「禁錮以上の刑に処せられ、その刑の執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から5年を経過しない者」という欠格事由です(同項6号)。交通事故を起こすなどして、禁錮以上の刑に処せられた者については、執行を終え、または、執行を受けることがなくなって5年経過しないと、登録はされません。

また、いったん登録されても、登録後に規範意識を欠くと判定される場合には、宅建士の資格保持は認められません。禁錮以上の刑に処せられたことは、登録の消除事由になります(同法68条の2第1項1号、18条1項6号)。交通事故を起こすなど、交通ルールに違反した者については、行為の状況や、事故の結果や態様・状況が悪質であるとされる場合には、懲役が科されます。宅建士が懲役に処せられた場合には、登録が消除され、宅建士の資格は剥奪されます。

3.ながらスマホに対する罰則

ところで、スマートフォンや携帯電話は、通話、インターネット、メールなどの機能を備え、いまや私たちの生活に欠かすことはできません。不動産取引においても、さまざまな場面で活用されています。

しかし、車が時速60kmで走行している場合、2秒間前方から目を離しただけで、自動車は約33.3m進んでしまいます。運転中に携帯電話で通話をしたり、スマートフォン等の画面を注視したりすることは極めて危険な行為です。実際に、ここ数年の間に、運転中のスマホ操作(ながらスマホ)などに起因する交通事故が増加しています。スマホなどを使用している場合には、使用していない場合と比較して死亡事故率(死傷事故に占める死亡事故の割合)が2.1倍になるということです(警察庁ウェブサイト)。

このような運転中のスマートフォン・携帯電話等使用の危険性に鑑み、2019(令和元)年6月に道路交通法が改正、同年12月1日に施行され、「ながらスマホ」に対する罰則が厳しくなりました。スマホなどを保持して通話したり、画像注視したりした場合(保持)には6月以下の懲役、スマホなどの使用により事故を起こすなど交通の危険を生じさせた場合(交通の危険)には1年以下の懲役が科されます(図表、道路交通法71条5号の5、117条の4第1号の2、118条1項3号の2)。

図表 ながらスマホに対する罰則等の強化

4.まとめ

コロナと共に生活を営み、営業活動を行わざるを得ない時代になり、スマホの活用は、さらに広がっています。自動車を運転している間にもスマホが気になってしまうことは、これまで以上に多くなるかもしれません。しかし、運転中にスマホをみたり、スマホの操作をしたりすることは、絶対禁止です。必要があるときには、必ず安全な場所に停車した後にしなければなりません。

宅建業を営む会社では、業務中に従業者が自動車を運転する機会も多くなります。ながらスマホは絶対禁止であることを、徹底しなければなりません。

今回のポイント

  • 道路交通法が改正され、「ながらスマホ」が厳罰化された。運転中にスマホなどを保持して通話し、または画像を注視した場合には6月以下の懲役、スマホなどの使用により事故を起こして交通の危険を生じさせた場合には1年以下の懲役が科される。
  • 宅建業法上、禁錮以上の刑に処せられた者は、宅建士の登録が消除される。ながらスマホによって懲役の刑に処せられると、宅建士の資格は失われる。
  • コロナと共生する時代になり、リモートでの営業活動が多くなると、スマホの活用は、さらに広がっていく。しかし、自動車を運転している間には、スマホの使用は絶対禁止である。スマホを見たり、スマホを操作することは、必ず安全な場所に停車した後で行わなければならない。

山下・渡辺法律事務所 弁護士

渡辺 晋

1980年一橋大学卒業、三菱地所入社。1989年司法試験合格。1990年に三菱地所退社。1992年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)。マンション管理士試験委員。近著に『民法改正の解説』(2017年6月、住宅新報出版)など多数。