法律相談
2021.04.14
不動産お役立ちQ&A

Vol.60 複数の売主による売買契約の解除


Question

兄と私が父から相続して共有する土地(遺産分割により持分1/2ずつ)を、兄弟2人が売主となって隣地の住人に売却しました。ところが、買主が売買代金を支払ってくれません。私は売買契約を解除したいのですが、兄は「近隣とトラブルを起こしたくない」と言い、解除に反対しています。私が単独で売買契約を解除することができるでしょうか。

Answer

1. 回答

売買契約の売主が複数である場合、契約の解除は複数当事者が全員で行う必要があります。あなたが単独で解除することはできません。

2. 契約解除の方法

【1】買主の代金支払債務の不履行による契約解除

買主は、決済日に代金を支払う義務を負います。買主が売買代金を支払わない場合、売主は相当の期間を定めて支払いの履行を催告します。その期間内に履行がないときには、売主は契約解除の意思表示を行うことができます(民法541条本文)。

売主であるあなた方が決済日に土地の引渡しと登記手続の準備をした上で、買主に代金の支払いを催告し、その後定められた相当の期間が経過しても代金が支払われないなら、買主の債務不履行を理由に売買契約を解除することができるのです。

【2】契約の当事者が複数である場合の契約解除

もっとも、契約解除は、当事者の一方が数人ある場合には、その全員からまたは全員に対してのみすることができると定められています(同法544条1項)。

契約を解除したり解除されたりする場合には、全員一緒でなければならないことを、「解除の不可分性」といいます。解除に不可分性を認めないと、一部当事者(解除権を行使した者以外の当事者)が知らないうちに契約関係が消滅していたり、また一部当事者(解除権を行使した当事者)についてだけ契約が消滅し、ほかの当事者には契約関係が残ったりという複雑な法律関係を生じさせてしまうことになり、不適切です。そのために、民法によって解除に不可分性が認められています。

ご質問の売買契約でも、売主はあなたとお兄さんの2人ですから、あなたが単独で売買契約を解除することはできず、契約解除は、お兄さんと共同で行わなければならないということになります。

なお、契約解除は一方的な意思表示で行うのではなく、当事者の合意による場合もあります。当事者の合意によって契約の解除がなされる場合(合意解除の場合)に関しても、当事者の一方が複数であれば、複数当事者の全員で解除を行わなければならないものとされています(高松高判昭和34.6.16下民集10巻6号1274頁)。

【3】契約解除に関する民法改正

催告による契約の解除については、2020(令和2)年4月施行の民法改正において、「その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない」として、債務不履行が軽微であるときは解除が認められないというルールが付け加えられました(軽微基準。同法541条ただし書)。軽微基準は、「履行遅滞にある債務者が債権者からの催告に対し誠意をもって履行に努力しその誠意が認められるときは、僅少部分の不履行の事実があっても解除権の行使を許すべきではない」とする大判昭和14.12.13判決全集 7号4号10頁などの判例法理を条文化したものであり、不履行が軽微なものにとどまる場合には、債権者は、損害賠償その他の救済手段で満足すべきであるという考え方に立つものです。売買代金が支払われないとしても、その不払いの部分が僅少であるなどの場合においては、軽微基準によって契約の解除が否定されることになるものと考えられます。

【4】賃貸借における契約解除

ところで、同じく解除権の行使であっても、賃貸借契約において、賃借人が賃料を支払わない場合の複数賃貸人の賃貸借契約の解除の場合は、状況が異なります。共有物の管理に関する事項は、共有持分の価格の過半数で決すると定められているところ(同法252条本文)、「共有者が共有物を目的とする貸借契約を解除することは民法252条にいう共有物の管理に関する事項に該当し、右貸借契約の解除については同法544条1項の規定の適用が排除される」(最判昭和39.2.25民集18巻2号329頁)のであって、共有持分の価格の過半数の同意があれば、解除をすることができるものとされています。

図表 契約解除の方法

契約解除の方法

今回のポイント

  • 買主が売買代金を支払わない場合、売主は、買主に対して代金の支払いを催告し、催告後相当の期間が経過しても代金が支払われなければ、売買契約を解除することができる。
  • 売主が複数の場合、買主からの売買代金の支払いがなされなくても、契約解除については、当事者の一方が数人ある場合には、その全員からまたは全員に対してのみすることができるとされているため、全員が一致して行わなければ、その効力は認められない。
  • 民法改正により、催告による契約の解除について、「その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない」という軽微基準のルールが付け加えられた。そのために、売買代金が僅少な額の不払いにとどまる場合には、売買契約を解除することはできないものと考えられる。

渡辺 晋

山下・渡辺法律事務所 弁護士

渡辺 晋

第一東京弁護士会所属。最高裁判所司法研修所民事弁護教官、司法試験考査委員、国土交通省「不動産取引からの反社会的勢力の排除のあり方の検討会」座長を歴任。マンション管理士試験委員。著書に『新訂版 不動産取引における契約不適合責任と説明義務』(大成出版社)、『民法の解説』『最新区分所有法の解説』(住宅新報出版)など。