法律相談
2021.07.14

Vol.63 工場用地の取得


Question

当社(宅建業者)が所有する土地(用地造成前の更地)を、工場用地として、代金8,000万円、手付金10%で売却する交渉を進めています。購入を検討しているのは、宅建業者ではない一般法人です。売買契約を締結するにあたって、どのような点に留意が必要でしょうか。

Answer

1. 回答

売買契約を締結するにあたって留意すべき点は、売買契約締結時期の制限と手付金保全措置の2つです。すなわち、第1に、売買契約締結は、開発行為の許可があった後でなければなりません。また、第2に、代金の10%とする手付金については、保全措置を講じた後でなければ、これを受領することは認められません。

2. 売買契約締結時期の制限

さて、都市計画法は、公共施設等の整備や防災上の措置を講じることを義務づけて良好な宅地水準を確保し、また、都市計画に定められた土地の利用目的に沿って適正な利用がなされるように、一定の開発行為について許可を要するものとしています。開発行為とは、主として建築物の建築または特定工作物の建設の用に供する目的で行う土地の区画形質の変更です(都市計画法4条12項。開発行為の意味については図表のとおり)。

開発行為に関しては、そこで求められる事項が多種多様にあり、また手続きを行うために相当の時間を要します。そこで、宅建業者は、宅地の造成に関する工事の完了前においては、その工事に関して必要とされる開発行為の許可(都市計画法29条1項または2項)があった後でなければ、その工事に係る宅地につき、自ら当事者として、もしくは当事者を代理してその売買もしくは交換の契約を締結し、またはその売買もしくは交換の媒介をしてはならないものと定められています(宅建業法36条)。売買契約を締結するのではなく、売買の予約を行うことについても、開発行為の許可の前に行うことは許されません。

ご相談のケースでは、用地造成前の更地を、工場用地にする予定で売買対象としていらっしゃいますので、売買契約は、開発行為の許可があった後に行わなければならないことになります。

なお、売買契約締結時期は、買主が宅建業者の場合であっても制限されます。

開発行為とは

都市計画法(以下「法」といいます)において「開発行為」とは、「主として建築物の建築又は特定工作物の建設の用に供する目的で行う土地の区画形質の変更」をいいます(法第4条第12項) 。

開発行為とは
開発行為とは

土地の区画形質の変更とは

①土地の「区画」の変更
道路、水路等の廃止、付替又は新設により、一団の土地利用形態の変更を行うこと。
②土地の「形」の変更
切土、盛土により土地の造成を行うこと。
③土地の「質」の変更
・宅地以外の土地(農地、雑種地等)を宅地とすること。
・特定工作物以外の用に供する土地を特定工作物の用に供する土地とすること。

出典:東京都都市整備局「開発許可制度のあらまし」より作成

3. 手付金等の保全措置

次に、宅建業者は、宅地の造成に関する工事の完了前において行う宅地の売買で、自ら売主となるものに関しては、手付金等の保全措置を講じた後でなければ、手付金等を受領することはできません(宅建業法41条1項)。手付金等の保全措置としては、銀行等による保証と保険事業者による保証保険の2種類の措置のうちの、どちらかによることになります(同項1号・2号)。

もっとも、この保全措置は、宅建業者である売主側に、宅地を引き渡すことができなくなる等の不測の事態が生じた場合に、手付金等が確実に買主に返還されるように、買主を保護することを目的とする制度です。そのため、所有権の移転登記がなされたときには、保全措置は不要です。また、手付金の額が代金の額の100分の5以下であり、かつ、手付金等の合計が1,000万円以下の場合にも、手付金等の保全措置は必要がないものとされています(宅建業法施行令3条の3)。

なお、ここでいう手付金等とは、“代金の全部または一部として授受される金銭”および“手付金その他の名義をもって授受される金銭で代金に充当されるもの”であって、契約の締結の日以後、宅地または建物の引渡し前に支払われるものをいいます(宅建業法41条1項かっこ書き)。手付金ではなく、内金、中間金などの名目で売主が金銭を受領する場合にも、保全措置が必要ということになります。

手付金等の保全措置の義務は、売主が宅建業者である場合の義務です。売主が宅建業者でなければ、この義務は課されません。また、売主が宅建業者であって、かつ、買主も宅建業者である場合(宅建業者間売買の場合)にも、義務づけられないものとされています(宅建業法78条2項)。

ご相談のケースでは、手付金の額を10%として一般法人との間で交渉を進めていますので、売買契約を締結するにあたっては、手付金等の保全措置が必要です。

今回のポイント

  • 宅建業者は、宅地の造成工事の完了前においては、工事に必要な開発行為の許可等を受けた後でなければ、売買・交換の契約当事者として契約の締結をしたり、代理・媒介を行ってはならない。
  • 宅建業者は、宅地の造成工事の完了前において行う宅地の売買で、自ら売主となるものに関しては、手付金等の保全措置を講じた後でなければ、手付金等を受領することはできない。
  • 宅建業者が宅地の造成工事の完了前において行う宅地の売買であっても、所有権の移転登記がなされたとき、または、手付金等の額が代金の額の100分の5以下であって、かつ、手付金等の合計が1,000万円以下の場合であれば、手付金等の保全措置を講じることなく手付金等を受領することが認められる。

渡辺 晋

山下・渡辺法律事務所 弁護士

渡辺 晋

第一東京弁護士会所属。最高裁判所司法研修所民事弁護教官、司法試験考査委員、国土交通省「不動産取引からの反社会的勢力の排除のあり方の検討会」座長を歴任。マンション管理士試験委員。著書に『新訂版 不動産取引における契約不適合責任と説明義務』(大成出版社)、『民法の解説』『最新区分所有法の解説』(住宅新報出版)など。