法律相談
2022.01.14
不動産お役立ちQ&A

Vol.69 デジタル社会形成整備法


Question

デジタル社会を形成するための整備法によって宅地建物取引業法(以下「宅建業法」)が改正され、押印や書面作成に関する宅地建物取引業者(以下「宅建業者」)の義務が見直されたとききました。宅建業法は、どのように変わるのでしょうか。

Answer

1. 回答

書面の作成交付と押印に関する重要なルールが改められます。

①媒介契約の書面交付(宅建業法34条の2)について、依頼者の承諾があれば、書面交付に代えて電磁的方法による情報提供が認められる、②重要事項説明書(同法35条)および契約書面交付(同法37条)について、宅地建物取引士(以下「宅建士」)の書面への押印が不要とされ、記名のみで足りるようになる、相手方等の承諾があれば、書面交付に代えて電磁的方法による情報提供が認められる、というのが主な改正内容です。

2. デジタル社会形成整備法の制定

さて、令和3(2021)年5月にデジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律(以下「デジタル社会形成整備法」)が制定され、多くの法律において、書類作成のために必要とされていた押印が不要となり(脱はんこ)、また、書面の作成交付義務が緩和されました(ペーパーレス)。宅建業法も改正され、媒介契約の書面交付、重要事項説明書の書面交付、契約書面交付のそれぞれに関し、デジタル社会に対応するための見直しがなされています。

3. デジタル社会形成整備法による宅建業法の改正

(1)媒介契約を締結したときの書面交付

宅建業者は、宅地または建物の売買または交換の媒介契約を締結したときは、遅滞なく、所定の事項を記載した書面を作成して記名押印し、依頼者にこれを交付しなければなりません(宅建業法34条の2第1項)。

これに対して、今般の改正によって、依頼者の承諾(政令の定める方法による承諾)を得れば、この書面の交付に代えて、書面に記載すべき事項を、電磁的方法であって記名押印に代わる措置を講ずるものとして規則で定めるものにより提供することができるものとされました。この場合、宅建業者は、書面に記名押印し、これを交付したものとみなされます(同法34条の2第11項)。

(2)重要事項説明のための書面

宅建業者は、宅地もしくは建物の売買、交換もしくは貸借の相手方もしくは代理を依頼した者または宅建業者が行う媒介に係る売買、交換もしくは貸借の各当事者(相手方等)に対して、その者が取得し、または借りようとしている宅地または建物に関し、その売買、交換または貸借の契約が成立するまでの間に、宅建士をして、所定の事項を記載した書面を交付して説明をさせなければなりません(同法35条1項)。

従来は、この書面の交付にあたっては、宅建士は書面に記名押印しなければならないとされていましたが、改正によって見直され、記名押印ではなく、記名をもって足りることになります(同法35条5項)。

また、相手方等の承諾(政令の定める方法による承諾)を得れば、書面の交付に代えて、書面に記載すべき事項について、電磁的方法であって記名に代わる措置を講ずるものとして規則で定めるものにより提供することができるとされました。この場合、宅建業者は、宅建士に書面を交付させたものとみなされます(同法35条8項)。

(3)契約締結時に交付する書面

宅建業者は、宅地または建物の売買または交換に関し、自ら当事者として契約を締結したときはその相手方に、当事者を代理して契約を締結したときはその相手方および代理を依頼した者に、その媒介により契約が成立したときは契約の各当事者に、遅滞なく、所定の事項を記載した書面を交付しなければなりません(同法37条1項)。

この書面に関しても、宅建士の記名押印が、宅建士の記名をもって足りることになり(同法35条3項)、また、相手方等の承諾(政令の定める方法による承諾)を得れば、書面の交付に代えて、書面に記載すべき事項について、電磁的方法であって記名に代わる措置を講ずるものとして規則で定めるものにより提供することができるとされました。この場合、宅建業者は、書面を交付したものとみなされます(同法35条4項)。

図表 デジタル社会形成整備法による宅建業法の改正

デジタル社会形成整備法による宅建業法の改正
※テレビ会議等のITを活用したオンラインによる重要事項説明は、令和3(2021)年3月に本格運用が開始している。

4. 施行日

今般の宅建業法改正は宅建業法の仕組みの根幹に関する改正であり、すべての宅建業者が知っておかなければならない内容です。また、すでに令和3(2021)年3月には、テレビ会議等のITを活用したオンラインによる重要事項説明の運用が開始しています。不動産取引のデジタル化によって、顧客と事業者のいずれにとっても負担の軽減につながると期待されているところです。

改正法の施行日は、デジタル社会形成整備法の公布の日(令和3(2021)年5月19日)から1年を超えない範囲内において政令で定められることになっています(デジタル社会形成整備法附則1条4号)。宅建業者は、新しい社会の動向を的確に把握し、これを業務にとりいれていくことが求められます。

今回のポイント

  • 令和3(2021)年5月にデジタル社会形成整備法が制定され、宅建業法が改正された。
  • 媒介契約を締結したときの書面交付(宅建業法34条の2)は、依頼者の承諾を得れば、書面の交付に代えて、書面に記載すべき事項を電磁的方法によって提供することができるようになる。
  • 重要事項説明書(同法35条)は、宅建士の記名押印ではなく、記名だけで足りる。相手方等の承諾を得れば、書面の交付に代えて、書面に記載すべき事項を電磁的方法によって提供することができるようになる。
  • 契約締結時に交付する書面(同法37条)も、宅建士の記名押印ではなく、記名だけで足りる。相手方等の承諾を得れば、書面の交付に代えて、書面に記載すべき事項を電磁的方法によって提供することができるようになる。

渡辺 晋

山下・渡辺法律事務所 弁護士

渡辺 晋

第一東京弁護士会所属。最高裁判所司法研修所民事弁護教官、司法試験考査委員、国土交通省「不動産取引からの反社会的勢力の排除のあり方の検討会」座長を歴任。マンション管理士試験委員。著書に『新訂版 不動産取引における契約不適合責任と説明義務』(大成出版社)、『民法の解説』『最新区分所有法の解説』(住宅新報出版)など。