法律相談
2022.05.13
不動産お役立ちQ&A

Vol.73 借地権売買における地中埋設物を除去するための費用の取扱い


Question

借地権および借地上の建物を、地主の承諾を得て購入しました。購入後、建物を増改築しようとしたところ、地中に埋設物があり、除去費用がかかることが判明しました。売買契約では地中の埋設物については、売主が責任を負う取決めになっています。売主に、障害物の除去費用を請求できるでしょうか。

Answer

売主が地中の障害物について担保責任を負うという取決めがあれば、売主に対して、障害物の除去費用を請求することができます。

1.借地権の売買による賃借人の地位の引継ぎ

賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲渡することができません(民法612条1項)。他方で、賃貸人の承諾があれば、賃借権を譲渡することが可能です。賃借権が譲渡された場合には、賃借権譲受人が賃借人の地位を引き継ぎ、地主と賃借権譲受人が賃貸借契約における当事者の関係に立ちます。

賃貸人は賃借人に対して目的物を使用収益させる義務があり(同法601条)、この義務の当然の帰結として、使用収益に差し支える箇所があるときには、賃貸人は、賃貸物の使用収益に必要な修繕をする義務を負います(同法606条1項本文)。

借地権の売買によって賃借人の地位が引き継がれた場合には、土地に欠陥があれば、地主には借地権譲受人に対し修補の義務があります。借地権譲受人は敷地の欠陥に関し、地主に対してその修補を請求することができます。

2.売主に対する請求

(1) 特約がない場合

ところで、借地権の売買であっても、売買の目的物に欠陥があった場合の買主から売主に対して契約不適合責任を追及することができます(民法562条1項)。しかし売買対象が借地権であるときは、目的物は、土地ではなく、土地を使用するための借地権です。一般的にいえば、土地に欠陥があっても、目的物(借地権)に欠陥があることにはなりません。最高裁では、「建物とその敷地の賃借権とが売買の目的とされた場合において、敷地についてその賃貸人において修繕義務を負担すべき欠陥が売買契約当時に存したことがその後に判明したとしても、売買の目的物に隠れた瑕疵があるということはできない。けだし、この場合において、建物と共に売買の目的とされたものは、建物の敷地そのものではなく、その賃借権であるところ、敷地の面積の不足、敷地に関する法的規制又は賃貸借契約における使用方法の制限等の客観的事由によって賃借権が制約を受けて売買の目的を達することができないときは、建物と共に売買の目的とされた賃借権に瑕疵があると解する余地があるとしても、賃貸人の修繕義務の履行により補完されるべき敷地の欠陥については、賃貸人に対してその修繕を請求すべきものであって、敷地の欠陥をもって賃貸人に対する債権としての賃借権の欠陥ということはできないから、売買の目的物に瑕疵があるということはできない」とされています(最判平成3.4.2判時1386号91頁)。

(2) 特約がある場合

しかし、借地権売買において、売主が買主に対して土地の欠陥に責任をもつ旨の特約があった場合には、事情は異なります。土地に地中埋設物が存し、そのために土地の利用が妨げられる場合には、売主に対して特約に基づく責任を追及することが可能です。

この点が論じられているのが、東京地判令和2.2.27-2020WLJPCA02278045です。借地権の売買契約書に「売主は、本物件について引渡し後、3カ月以内に発見された土地の瑕疵について、買主に対して責任を負うものとします。……瑕疵が発見された場合、売主は自己の責任と負担において、その瑕疵を修復しなければなりません」と定められていた売買について、引渡し後の試掘によってレンガ、瓦、木杭、コンクリートガラ等の地中障害物が発見され、これを除去するために費用が必要だったケースにおいて、『借地権の目的たる土地の瑕疵について譲渡人が譲受人に対して担保責任を負う合意をすることが妨げられないのは当然であるところ、本件においては、原被告間において合意があったと認められる』として、買主が支出した地中埋設物の撤去工事費用について、損害賠償請求が認められました。

 売主に対する請求の図

今回のポイント

  • 借地権設定者(土地の賃貸人)の承諾を得て土地の借地人が借地権を譲渡すれば、借地権の買主が賃借人の地位を引き継ぎ、地主と借地権の買主が土地賃貸借契約における当事者の関係に立つ。
  • 借地権の売買においては、特約がなければ、土地に欠陥があっても、目的物(借地権)に欠陥があることにはならず、買主は売主に対して、責任を追及することはできない。
  • これに対して、特約があれば、土地の欠陥について、買主は売主に対して、責任を追及することができる。たとえば、地中埋設物が存し、これを撤去するために工事費用がかかったときには、撤去工事費用について、損害賠償請求が認められる。

渡辺 晋

山下・渡辺法律事務所 弁護士

渡辺 晋

第一東京弁護士会所属。最高裁判所司法研修所民事弁護教官、司法試験考査委員、国土交通省「不動産取引からの反社会的勢力の排除のあり方の検討会」座長を歴任。マンション管理士試験委員。著書に『新訂版 不動産取引における契約不適合責任と説明義務』(大成出版社)、『民法の解説』(住宅新報出版)、『不動産取引における心理的瑕疵・環境瑕疵対応のポイント』『不動産の共有関係解消の実務』(新日本法規)など。