法律相談
2022.08.12
不動産お役立ちQ&A

Vol.76 隣接地への越境の有無


Question

土地建物売却の仲介の依頼を受けました。建物は土地の西側境界いっぱいに、ほぼ境界線に接する状態で建築されています。土地の西側隣地は国有地だと説明を受けましたが、地積測量図は存在せず、境界標はありません。どのようにして仲介業務を進めればよいでしょうか。

Answer

地積測量図が存在せず、境界標がない以上、建物が西側の国有地に越境している可能性は否定できません。境界を確認し、越境の有無を確かめてから、仲介業務を進めなければなりません。
売買対象の土地が、公道に接道せず、また国有地に越境していることについて、売主(宅建業者)と仲介業者の責任が認められた事案が、東京地判平成29.12.7-2017WLJPCA12078004です。

1.事案の概要

(1)買主Xと売主Yは、平成22年12月1日、土地(本件土地)および店舗付共同住宅(本件建物)について、代金8,500万円として、売買契約(本件売買契約)を締結した。Xは個人、Yは不動産業者である。本件売買契約においては、宅建業者のZが仲介業務を行った。

(2)本件土地および本件建物は、Yが、平成22年3月31日に前所有者Bから購入したものである。本件土地の西側は国有地(本件国有地)に隣接しているということで、Yは、Bから、本件国有地部分は西側公道の一部であり、本件土地は北側私道と西側公道に接する角地である、本件建物は本件国有地に越境していないと説明を受けていた。

YおよびZ(以下「Yら」)は、Bから受けた説明を信じ、Xに対して、本件売買契約の締結前に、本件土地は公道に面している、本件建物は越境していないと説明をしていた。

(3)しかし、その後、本件建物が本件国有地に越境していること、および、本件国有地が西側公道の一部ではないことが判明し(図表1)、Xは、国有地を買い取ることとなった。

図表1:図面(東京地判平成29.12.7-2017WLJPCA12078004)

図面(東京地判平成29.12.7-2017WLJPCA12078004)

(4)Xは、Yらの調査と説明が十分ではなかったとして、Yらに国有地の買取代金などについて、損害賠償を請求した。裁判所は、Xの請求には理由があるとして、Yらが損害賠償義務を負うことを認めた。

2.裁判所の判断

裁判所は、まず、本件土地の西側隣地との関係について、『本件売買契約の締結当時、公図上に本件各国有地が本件公道とは区別されて記載されていたのであるから、専門業者であるYらは、これにより、本件各国有地が本件公道の一部ではなく本件建物の敷地になっている可能性を疑うべきであったといえる。加えて、本件各国有地の地積測量図が存在していたのであるから、Yらはこれにより本件国有地の位置や形状を確認することもできたのであって、上記越境の可能性を十分に認識可能であったと認められる』として、『Yらにおいて、本件建物が本件国有地に越境している可能性を疑うべき事情が複数存在していたのに、必要な調査を怠り、本件建物は本件土地上に存在しており越境はないという事実に反する説明をしたYらには、本件売買契約又は本件仲介契約上の調査、説明義務違反がある』と判断しました。

Yらは、本件公道沿いの建物が一直線に並んでいたことや、本件土地の前所有者であるBやBから購入する際の仲介業者、さらにはC区役所や金融機関も越境の事実を認識していなかったこと、本件売買契約締結まで20年以上にわたり、越境についての指摘はなかったこと、本件売買契約当時、関東財務局に問い合わせたとしても越境が明らかにならなかったと考えられることなどを指摘して、Yらはそもそも越境を認識することが不可能であったし、必要な調査義務を尽くしているから過失はないと主張していましたが、『Bの認識が客観的な根拠に基づくものであるとは認められないから、これらを信じたことに過失がないとはいえないし、第三者であるC区役所らよりも、契約当事者であり専門業者であるYらの調査義務の程度が高いことは明らかである。また、当時関東財務局が越境について認識していたとまでは認められないものの、Yらは関東財務局に対し本件各国有地に関する問い合わせを行っておらず、越境の可能性を指摘する回答が得られた可能性もあるといえるから、Yらを免責する理由とはなり得ない』として、Yらの反論を認めませんでした。

図表2:経緯

経緯

今回のポイント

  • 土地は、隣地との境界が確定してはじめて、その同一性が確かめられる。境界が確定しているかどうか、買主にとっての重大な関心事である。また越境も、土地の利用状況に影響を及ぼす。境界の状況および越境の有無は、不動産業者が調査し、説明すべき事項である。
  • 地積測量図が存在せず、境界標がない場合、建物が隣地に越境している可能性がある。仲介業務は、境界を確認し、越境の有無を確かめてから、仲介業務を進める必要がある。
  • 土地の売買の仲介を行う仲介業者は、土地の所有者が、前所有者から越境がないという説明を受けていたとしても、その説明をそのままうのみにすることなく、自ら主体的に関係書類を確認し、現地の状況と照らし合わせて、越境の有無を検討しなければならない。

渡辺 晋

山下・渡辺法律事務所 弁護士

渡辺 晋

第一東京弁護士会所属。最高裁判所司法研修所民事弁護教官、司法試験考査委員、国土交通省「不動産取引からの反社会的勢力の排除のあり方の検討会」座長を歴任。マンション管理士試験委員。著書に『新訂版 不動産取引における契約不適合責任と説明義務』(大成出版社)、『民法の解説』『最新区分所有法の解説』(住宅新報出版)など。