賃貸相談
2023.05.12
不動産お役立ちQ&A

Vol.49 賃借人による保証委託契約の解除は、賃貸借の解除原因となるか?


Question

当社では、賃貸アパートの賃借人を募集するにあたり、「保証会社必須」との広告を出し、これを承諾した者との間で賃貸借契約の特約事項として、自己の責任と負担にて保証会社と保証委託契約を締結し、保証契約の更新も必ず行う旨を合意しています。
ところが、賃借人は、保証会社との保証委託契約を締結し保証委託料を支払った後数か月経過後に、当社に対し、保証委託契約を解除したので保証料は賃貸人である当社に支払ってほしいとの通知をしてきました。これは賃貸借契約違反なので賃貸借を解除したいと思いますが、可能でしょうか。

図 事例の経緯

事例の経緯

Answer

賃借人が賃貸人との間で交わした、「賃借人が保証会社と保証委託契約を締結し、期間満了時には保証契約も更新する」旨の合意は有効と解されます。

賃借人からは、保証会社に対して「保証料を支払うのは賃借人なのに、保証委託契約は賃貸人にのみ利益があり賃借人に何ら利益がないので公序良俗に反し無効である」などと主張して、保証委託契約を解除し、保証委託料の賃貸人負担等を求めることがありますが、裁判例においても、このような理由での保証委託契約の解除は認められていません。

賃借人による保証委託契約の解除は契約違反に該当し、それが信頼関係を破壊するに足りる場合には、賃貸人は賃貸借契約の解除と建物の明渡しを請求することができます。

1.賃貸借契約における保証委託契約に関する合意

昨今では、賃貸借契約の締結にあたり、賃借人が家賃保証会社との間で保証委託契約を締結し、賃貸借契約が更新される限り、保証委託も更新する旨の合意がなされることが少なくありません。

賃貸借契約において、賃借人が保証会社との間で保証委託契約を締結する旨を合意することは、契約自由の原則(民法521条2項)からして有効であると解されます。

※ 契約の当事者は、法令の制限内において、契約の内容を自由に決定することができる。

2.保証委託契約は公序良俗違反と認められるか

これに対し、賃借人から、保証委託契約は賃貸人にのみ利益があり賃借人に何ら利益がないので公序良俗に反し無効であるなどと主張して、保証委託契約の解除と、今後は保証委託料は賃貸人側で負担してもらいたいとの通知がなされることがあります。

賃借人の主張は、おおむね、保証契約は賃借人が保証会社に委託するもので、保証委託料も賃借人が支払っているにもかかわらず、賃借人が賃料を滞納した場合に、賃貸借契約は解除され、賃貸人は保証会社から保証賃料を受け取るので、結局のところ、保証委託契約は賃貸人が利益を受けるだけの契約なのに賃借人が保証委託料を支払うもので公序良俗に反するので無効である(民法第90条)というものです。

この点については、裁判例があります。

※ 公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。

3.賃借人による保証委託契約の解除に関する裁判例

東京地判平成30年6月5日は、賃借人が賃貸借契約において、保証委託契約の締結と更新を合意した後、保証委託契約を解除することは契約違反行為となり、信頼関係の破壊が認められる場合には、賃貸人は賃貸借契約を解除し、建物の明渡しを請求することができると判示しています。

この事件の概要は、賃貸人が平成28年10月に媒介業者を通じ、本件建物について賃料6万8,000円、保証会社必須との広告を出し、これを見て賃借の申入れをした者との間で、媒介業者は賃借人に対し、保証委託契約の締結と更新が必要との重要事項説明を行い、賃貸借契約書には、特約事項として「賃借人が自己の責任と負担にて保証会社と保証委託契約を締結し、契約の更新も必ず行う」との約定がなされたというものです。賃借人は保証会社との保証委託契約を締結し、保証料を支払ったのですが、その翌月の、同年11月には、賃借人から賃貸人に対し、本件保証委託契約は賃貸人にのみ利益があり賃借人に何ら利益がないので公序良俗に反し無効である、などと主張し、保証委託契約解除、保証委託料の賃貸人負担等を文書で通知しています。判決は、賃借人が本件賃貸借契約で定めた保証会社との保証委託契約について理由がないのに解約を求めたものと判断し、賃借人は交渉に当たった保証会社の社員に理由なく暴力を振るい、さらに賃貸人からの連絡をことごとく拒絶する態度をとっているなどの原因により、その基礎となる信頼関係が破壊されているといわざるを得ないとして、賃貸人による賃貸借契約の解除を認めています。

今回のポイント

  • 賃貸借契約において、賃借人は保証会社と保証委託契約を締結し、期間満了後は保証契約の更新も行う旨の合意は有効である。
  • 賃借人が保証委託契約の締結と更新を約束しているにもかかわらず、その後に保証委託契約を解除することは賃借人の契約違反行為となる。
  • この場合には、保証委託契約の解除とこれに伴う事情について信頼関係の破壊が認められれば、賃貸人は賃貸借契約を解除することができる。

江口 正夫

海谷・江口・池田法律事務所
弁護士

江口 正夫

東京弁護士会所属。最高裁判所司法研修所弁護教官室所付、不動産流通促進協議会講師、東京商工会議所講師等を歴任。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会理事。著書に『不動産賃貸管理業のコンプライアンス』『大改正借地借家法Q&A』(ともに にじゅういち出版)など多数。