賃貸相談
2023.09.14
不動産お役立ちQ&A

Vol.51 転貸可能なアパートの民泊使用の可否


Question

当社では、共同住宅の居室を、使用目的「住居」とし、転貸を可能とする特約付きで賃貸していますが、2室を賃借している賃借人が居室を民泊として利用しており、ほかの居室の賃借人や近隣住民との間で、ゴミ出しのルールを守らない等のトラブルが多発していることが判明しました。
このため、賃借人に対し、民泊として建物を使用することは「住居」の目的に反しており、用法違反であるとして契約を解除し、退去を求めました。しかし、賃借人からは「民泊といっても居室を居住用に使用するものであり、しかも、転貸可能との特約があるのだから、居室を居住用に一時的に第三者に使用させて民泊を運営しても、使用目的違反とはならないはずだ」と反論されています。住居としての使用目的で転貸可能との特約をしていた場合には、民泊は用法違反にはならないのでしょうか。

図 事例の経緯

事例の経緯

Answer

居住用の賃貸建物を転貸可能の特約付きで賃貸した場合でも、特定の者がある程度まとまった期間にわたり使用する住居使用の場合と、1泊単位で不特定の者が入れ替わり使用する宿泊使用の場合では、使用の態様が異なります。転貸可能な住居目的の賃貸借であることは、直ちに民泊使用を認めることにつながるものではないというのが裁判例の考え方です。

この点からすると、本件賃貸借契約との関係で、民泊としての利用はその使用目的に反するものと考えられます。アパートの他の住民からは苦情の声が上がっており、現にゴミ出しの方法をめぐってトラブルが生ずるなどしていたことから、当事者間の信頼関係を破壊する行為であるとして、賃貸借の解除を認めた裁判例があります。

1.住居目的の建物賃貸借と民泊としての利用

建物の使用目的を「住居」として賃貸したところ、賃借人が当該建物を民泊として利用した場合に、用法違反であるとして契約の解除を求めた際、賃借人からは、「住居」の目的であり、民泊も人の居住に供しているのであるから、使用目的違反には該当しないし、仮に何らかの意味で「住居」としての使用目的に反しているとしても、同じ居住用に使用しているのであり、信頼関係を破壊するものではなく、契約の解除は認められないはずだ、との反論がなされることがあります。確かに、住居としての使用も、民泊としての使用も、人がその部屋で寝泊まりすることには変わりはありませんし、転貸を許容する特約付きの場合には、第三者が建物を使用することを認めているのだから、民泊も許されるのではないかとの主張がなされることもあり得ます。

しかし、転貸可能な住居目的の賃貸借と、民泊としての利用は使用の態様が異なるものであるとしている裁判例があります。

2.住居目的と民泊利用に関する裁判例

使用目的を「住居」とし、転貸可能とする特約付の建物賃貸借において、「特定の者がある程度まとまった期間にわたり使用する住居使用の場合と、1泊単位で不特定の者が入れ替わり使用する宿泊使用との場合とでは、使用者の意識等の面から、自ずからその使用の態様に差異が生ずることは避けがたいというべきであり、 転貸が可能とされていたことから直ちに民泊としての利用も可能とされていたことにはつながらない」との判断を示したものがあります(東京地判平成31年4月25日 判例タイムズ1476号249頁)。民泊として建物を利用することが、当然に「住居」としての使用に該当するわけではないということは一般的な考え方であると思われます。「住居」あるいは「居住」とは、単に人が当該居室で起臥(きが)寝食することを意味するものではなく、人が日常生活を営む上で起臥寝食することをいうものと考えられています(それ故に、居住部分が少しでもあってはならないとされる事業用定期借地権においても、宿直室を設けることは許容されています)。

3.民泊使用と信頼関係の破壊の有無

前記東京地判は、その上で、アパートの他の住民から苦情の声、現にゴミ出しの方法をめぐってトラブルが生ずるなどしていたのであり本件賃貸借契約との関係で、民泊としての利用はその使用目的に反し、賃貸人との間の信頼関係を破壊する行為であったといわざるを得ないとして賃貸借契約の解除を認めています。

今回のポイント

  • 住居用建物の転貸と民泊とは、前者は特定の者がある程度まとまった期間にわたり使用する住居使用であるのに対し、後者は1泊単位で不特定の者が入れ替わり使用する態様であり、使用の態様が異なる。
  • 住居目的の賃貸借契約において転貸可能との特約があるからといって、直ちに民泊使用を認めることにつながるものではない。
  • 転貸可能特約付きの住居目的の賃貸借物件を民泊として利用することは住居としての使用目的に反するものと考えられる。
  • アパートの他の住民から苦情の声が上がり、ゴミ出しの方法をめぐってトラブルが生ずるなどしていた場合には、信頼関係の破壊が認められる場合があり得る。

江口 正夫

海谷・江口・池田法律事務所
弁護士

江口 正夫

東京弁護士会所属。最高裁判所司法研修所弁護教官室所付、不動産流通促進協議会講師、東京商工会議所講師等を歴任。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会理事。著書に『不動産賃貸管理業のコンプライアンス』『大改正借地借家法Q&A』(ともに にじゅういち出版)など多数。