賃貸相談
2024.01.12

Vol.53 エレベーターの故障に関する賃貸人の債務

エレベーターのイメージ

Question

当社は、貸ビル賃貸を営んでいますが、エレベーターは昭和の末期に設置したもので、一部の部品の劣化により、しばしば作動しないことがあります。そのような状態になってから半年後、2階のテナントから、常時エレベーターが稼働できるよう修繕をすべきであり、修繕しないのであれば賃料を払えないとの通知がありました。
常時稼働できるようにするためのリニューアル費用は数百万円を要するのですが、貸ビルのオーナーは、エレベーターが稼働しない事態がしばしば生じる場合には、常時稼働できるようリニューアルをする義務があるのでしょうか。

Answer

一般に、建物の賃貸人は、エレベーターその他の建物の設備等について、保守管理・点検・修繕をする義務を負っています。一方で、エレベーター等の設備の型式が古く、過去に設置されたもので、賃借人もそのことを認識し得た場合には、賃貸人は古い型式の設備であることを前提に保守・点検・修繕をしていれば債務を履行したものと解されるとした裁判例があります。法の観点から詳しく見ていきましょう。

建物の設備等に対する賃貸人の債務

建物賃貸借においては、賃貸人は、賃借人に対し、建物を使用収益させる義務を負います。したがって、賃貸人は、賃貸建物および附属設備等については、賃借人に対し、保守・点検・修繕義務を負うものと解されます。

古い型式の設備に対する賃貸人の義務の内容

それでは、エレベーター等の設備がかなり前の時点で設置された古い型式の物であり、特に備品類が老朽化していて、修繕には限界があるが、費用をかけて新しい物にリニューアルすれば常時稼働が可能になる場合に、賃貸人には、費用をかけてリニューアルする義務まであるのかという点が問題になります。

設備等についての賃貸人の債務に関する裁判例

この点についての判断を示した裁判例があります(東京地判令和3年6月22日ウエストロー・ジャパン)。事案は、平成28年2月、Xが所有する4階建ビルの2階をレストラン営業のためYに賃貸し、建物には、レストランの個室に直結したエレベーターが設置されていましたが、平成29年10月の定期点検で、一部部品につき経年劣化のため、しばしば稼働しない状態が発生したというものです。Yは、平成30年5月分までは賃料を支払っていましたが、エレベーターが使用できないため家賃を支払わないとXに通告した上で不払いを開始したという経緯でした(図表)。

図表 裁判例の経緯

図表 裁判例の経緯のイメージ

裁判所は、エレベーターは昭和63年から稼働している古い形式のもので、その事実は契約締結前の内覧等により賃借人側も認識し得たというべきであるから、Xは、古い形式であることを前提として保守点検・修繕やその努力を行っていれば賃貸借契約上の賃貸人としての債務は履行しているというべきであり、少なくとも700万円を超えるリ二ューアル工事を実施して常時使用できる状態に復旧しなければならない債務までを当然に負うとはいえない、と判示しています。

裁判所は、エレベーターを使用できないことが改正前民法611条1項またはその類推適用による、エレベーターが賃料減額の事由に該当する場合であって、仮にエレベーターを使用できないことにより賃料減額となる場合でも、レストランは2階に所在し、Yやレストランの顧客は階段で昇降して出入りすることが可能なことを踏まえると、その減額幅は最大でもせいぜい月額5万円とみるのが相当であるとしています。

したがって、Yの賃料滞納金額が3カ月分以上となる場合には、賃貸人との間の信頼関係が破壊されているものとして、賃貸人からの契約の解除が認められる可能性が高いものと考えられます。

今回のポイント

  • 賃貸人は、賃借人に対し、建物を使用収益させる義務を負うことから、賃貸建物および附属設備等については、賃借人に対し、保守・点検・修繕義務を負う。
  • 設備が古い形式のものであり、賃借人側もそれを認識し得る場合には、古い形式であることを前提として保守点検・修繕やその努力を行っていれば賃貸人としての債務は履行していると認められる。
  • 賃借人が設備の不具合を理由として賃料を滞納する場合、滞納金額が賃料の3カ月分に達した場合は、賃貸人は催告の上、契約を解除することが認められる可能性が高い。

江口 正夫

海谷・江口・池田法律事務所
弁護士

江口 正夫

東京弁護士会所属。最高裁判所司法研修所弁護教官室所付、不動産流通促進協議会講師、東京商工会議所講師等を歴任。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会理事。著書に『不動産賃貸管理業のコンプライアンス』『大改正借地借家法Q&A』(ともに にじゅういち出版)など多数。