賃貸相談
2026.09.14
不動産お役立ちQ&A

Vol.69 普通借家契約を定期借家契約に切り替える際の注意点


Question

当社は、従来からテナントに対し、普通建物賃貸借契約により貸ビルの賃貸業を営んでいましたが、このたび、テナントとの契約を定期建物賃貸借契約に切り替えたいと思っています。
当社より、テナントに対し、普通建物賃貸借契約の終了通知をするとともに、テナントとの間で、同じ建物についての定期建物賃貸借契約書の締結と借地借家法38条3項書面を交付して説明すれば、定期建物賃貸借契約に移行できると考えてよいでしょうか。

Answer

普通建物賃貸借契約を締結している場合に、貸主と借主との間で定期建物賃貸借契約を締結するためには、貸主は普通建物賃貸借契約を終了させる必要があります。貸主の通知により普通建物賃貸借を終了させるには、貸主の通知に正当事由が具備されていることが必要です。
したがって、正当事由が存在したことが証明できない場合には、貸主の一方的な通知がなされただけでは普通建物賃貸借は終了しませんので、この段階で定期建物賃貸借契約を締結しても、定期建物賃貸借の成立は認められません。切り替える際は、一方的な通知をする場合には、正当事由を具備している旨を明らかにするか、当事者間で普通建物賃貸借を合意解除する場合には、借主が任意かつ真意により普通建物賃貸借の合意解除をする意思があることが要件となります。以下で詳しく見ていきましょう。

終了通知のイメージ

普通建物賃貸借契約と借地借家法28条の正当事由

普通建物賃貸借契約が成立すると、借地借家法28条が適用されます。同条は「建物の賃貸人による第26条第1項の通知(更新拒絶等の通知)または建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として、または建物の明渡しと引き換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない」と定めています。上記のうち、下線部分が、いわゆる「正当事由」の内容を示したものであり、赤文字部分がいわゆる立退料といわれるものです。

正当事由を具備しない契約終了通知の無効

借地借家法28条は、正当事由を具備しない更新拒絶または解約通知はすることができないと定め、借地借家法30条は、「この節の規定(借地借家法26条~29条)に反する特約で建物の賃借人に不利なものは無効とする」と定めています。つまり借地借家法28条は強行規定とされていますので、これに反する特約は無効となるわけです。したがって、普通建物賃貸借を終了させるには原則として賃貸人が正当事由を具備するか、借主が任意かつ真意により普通建物賃貸借の合意解除をする意思があることが必要とされていることになります。

普通建物賃貸借を定期建物賃貸借に切り替えた事案についての裁判例

この点について、参考となる裁判例があります(東京地判平成27年2月24日)。

事案は、法的に普通建物賃貸借である契約につき、貸主が期間満了により終了したとの通知をするとともに、借主との間で定期建物賃貸借契約書に調印し、借地借家法38条2項書面(当時)を交付のうえ、定期建物賃貸借契約を締結し、定期建物賃貸借の期間が満了した際には、同様の手続きで定期建物賃貸借の再契約を締結したというもので、再契約の期間満了に伴い貸主が借主に明渡しを請求したという事案です。

裁判所の判断は、①普通建物賃貸借契約が継続している貸主と借主との間で、定期建物賃貸借契約を合意するためには、貸主は借主に対し、普通建物賃貸借契約を終了させることが必要である。②本件では、定期建物賃貸借契約が合意された段階では普通建物賃貸借契約が継続していたから、貸主の契約終了通知のみでは契約は終了せず、正当事由があった証拠もないことから、本定期建物賃貸借契約書は、普通建物賃貸借契約であった契約の更新契約として合意されたものと解される、と判断しました。

そして、再契約後の定期建物賃貸借契約書についても、再契約前の賃貸借は普通建物賃貸借の更新契約であるから、正当事由なく一方的に契約終了通知をしても普通建物賃貸借契約は継続しているから、再契約後の定期建物賃貸借契約書も、法的には普通建物賃貸借契約であるとの判断を示し、貸主の明渡請求を棄却したという事案です。

イラストイメージ

今回のポイント

  • 普通建物賃貸借契約が締結されている建物を定期建物賃貸借に切り替えるには、普通建物賃貸借契約を終了させることが必要であり、貸主の一方的な契約終了通知のみでは契約は終了しない。
  • そのためには、正当事由があったことの証拠があるか、借主が任意かつ真意により普通建物賃貸借の合意解除をする意思があることが必要である。

江口 正夫

江口・海谷・池田法律事務所
弁護士

江口 正夫

東京弁護士会所属。最高裁判所司法研修所弁護教官室所付、不動産流通促進協議会講師、東京商工会議所講師等を歴任。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会理事。著書に『不動産賃貸管理業のコンプライアンス』『大改正借地借家法Q&A』(ともに にじゅういち出版)など多数。