賃貸相談
2020.12.14

Vol.35 大規模災害による使用の一時不能と賃料減額


Question

私の所有するアパートは築30年以上経過しているのですが、令和2年4月に、新たな賃借人と賃貸借契約を締結しました。心配なのは、従来、30年~40年に一度と言われていた台風や大雨による大規模災害が毎年押し寄せるような昨今の状況です。万一、大規模台風により、私のアパートが停電し、エアコンが使用できなくなるなど、入居者の部屋の使用に不都合を生じた場合、賃料は減額しなければならないのでしょうか。また、賃借人との紛争を生じないためには、どのようにすべきなのでしょうか。

Answer

大規模災害により停電が発生した場合でも、賃貸建物自体は滅失したわけではなく、物理的には、建物内で人が雨露を防ぐことは可能です。改正前民法では、建物の一部が滅失した場合に限って賃料の減額請求が認められていました。しかし、改正民法では、建物の一部が滅失していない場合でも、賃貸建物の一部の使用収益が不能となった場合は、使用収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、賃料は当然に減額されるという新しいルールを定めました。従って、令和2(2020)年4月1日以降に賃貸借契約を締結した場合には改正民法が適用されますので、建物に生じた停電が、建物の一部使用収益不能な状態であると判断されるような場合には、賃借人からの減額請求を待つまでもなく、賃料は当然に減額されることになります。ただし、減額幅を巡って、貸主と借主の間で揉めることも想定されますので、賃貸借契約において、あらかじめ、こうした場合の賃料の減額割合等を合意しておくことも一つの解決策になると思われます。

1.建物の一部使用・収益不能と賃料の当然減額

(1)改正前民法第611条

改正前民法第611条は、賃貸目的物の一部が滅失した場合に限り、借主は賃料減額請求ができると定めていました。つまり、改正前民法の下では、賃料が減額されるのは、賃貸目的物の一部が滅失した場合に限定していました。また、その場合に、賃料は当然に減額されるのではなく、借主が賃料の減額請求をしてきた場合に初めて賃料は減額されると定めていました。ただし、減額請求がなされた場合には、賃料は、賃貸建物の一部滅失の時点に遡って減額されるとするのが一般的な解釈でした。

(2)改正民法第611条

これに対し、改正民法第611条では「賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益ができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。」と規定されています。その結果、建物は存立しており、物理的には建物内に立ち入ることができるとしても、建物の一部につき使用収益が不能と判断される場合は、賃料は、借主からの減額請求を待つまでもなく、当然に減額されることが明文により明らかにされたことになります。

2. 使用・収益をすることができなくなった部分の割合

問題は、賃料は「使用及び収益をすることができなった部分の割合」に応じて減額されると規定されていますが、その割合をどのように考えるかという点です。一部使用収益不能とは、例えば、風呂が故障して風呂に入れなくなった、トイレが故障して使用できなくなった、水道の水が出なくなった等々の当該建物の個別の事情で一部使用収益が不能になった場合が考えられますが、それだけではなく、大規模台風や大雨などによる大規模災害によって発生する停電により広範囲の建物の一部が使用収益できないという場合も含まれます。その場合の減額幅については、貸主、借主の立場により意見が異なるものと思われますし、紛争に発展することもないとはいえません。そのような紛争を防止するには、賃貸借契約書において、あらかじめ一部使用収益不能事由を想定し、それぞれの減額割合を合意しておくという方法が考えられます。しかし、貸主の利益と借主の利益が対立する場面でもありますので、こうした減額割合についての合意を得ることは困難な場合も予想されます。その際には公益財団法人日本賃貸住宅管理協会が一部使用収益不能の場合の賃料の減額割合に関するガイドラインを作成しており、そのガイドラインの表が参考になると思われます。その主な内容は下記のとおりです。

※免責日数:物理的代替物の準備や業務の準備にかかる時間を一般的に算出し、賃料減額割合の計算日数に含まない日

上記の表は、以下のように使用します。

〈計算例1〉
ガスが6日間使えなかった場合(月額賃料10万円)
月額賃料10万円×賃料減額割合10%×(6日-免責日数3日)/30日=1,000円の賃料減額(1日当たり約333円)

〈計算例2〉
エアコンが6日間作動しない場合(月額賃料10万円)
減額割合5,000円×(6日-免責日数3日)/30日=500円の賃料減額(1日あたり約166円)

今回のポイント

  • 改正民法第611条は、賃貸物件の一部が滅失した場合だけではなく、賃借人の過失によらず賃貸物件の一部が使用・収益できなくなった場合も、賃料は当然に減額されると定めている。
  • 一時使用・収益不能の場合に、賃料がいくら減額されるかについては、改正民法は、「使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて減額される」と定めているが、その割合がどの程度であるかについて、貸主、借主間で意見が異なり、紛争を生じる可能性もある。
  • 紛争を防ぐためには、一部使用・収益が不能と考えられる事由を想定し、それぞれの賃料減額割合をあらかじめ賃貸借契約において合意しておくことが考えられる。

海谷・江口・池田法律事務所
弁護士

江口 正夫

1952年広島県生まれ。東京大学法学部卒業。弁護士(東京弁護士会所属)。不動産流通促進協議会講師、東京商工会議所講師等を歴任。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会理事。著書に『不動産賃貸管理業のコンプライアンス』(2009年8月、にじゅういち出版)など多数。