賃貸相談
2021.05.14
不動産お役立ちQ&A

Vol.37 貸家が借家人の失火で火災に遭った場合の措置


Question

私の所有する一戸建ての貸家のうち、貸家Aの借家人の失火により、貸家A全部と隣の貸家Bの一部が焼けてしまいました。貸家Bの借家人からは、「元のように住めるように、大家の責任で修繕してほしい」との要望がありました。しかし、火災で建物が焼けているのですから、貸家Aについても、貸家Bについても、賃貸借契約が終了しているといえるのではないでしょうか。仮に賃貸借契約が終了していないとしても、貸家Bが焼けたことは、貸家Aの入居者の失火が原因であって、大家の私には責任がないのですが、その場合でも、大家に修繕する義務が発生するのでしょうか。

Answer

賃貸借の目的物であるアパートが焼失した場合は、契約の目的物が滅失したことになりますので、賃貸借契約は消滅します。一部が焼燬(しょうき)した場合は状況により異なり、それによって賃貸借の目的物である建物がその効用を喪失したといえる場合は、賃貸借契約は終了します。また、修繕費用が新築に近い費用を要するなど、修繕に過分の費用がかかる場合も、建物の効用が消滅したものとして賃貸借契約は終了します。しかし、残部でも賃貸借の目的を達することが可能であり、修繕についても過分な費用を要しない場合には、賃貸借契約は消滅せず、存続していることになります。

家主の修繕義務は、修繕箇所の発生に、家主に責めに帰すべき事由がある場合に限らず、家主に責任がない場合でも発生します。

1.賃貸借目的物が火災により焼燬した場合の賃貸借契約

(1)目的物の全部滅失または効用喪失

建物賃貸借契約において、契約の目的物である建物が火災により全て滅失した場合は、契約の目的物が滅失したのですから、原則として、その契約は終了します。この理屈は、建物の滅失の場合だけではなく、賃貸建物が老朽化し、もはや建物としての効用を喪失した場合にも賃貸借契約は当然に終了するものと解されています(図表1)。

図表1 賃貸建物が火災により焼燬した場合の賃貸借契約

賃貸建物が火災により焼燬した場合の賃貸借契約

(2)目的物の一部滅失

建物の全部が焼燬したわけではなく、一部が焼けたという場合には、その一部が焼けたために賃貸借の目的物である当該建物が、賃貸建物としての効用を喪失したといえる場合は、賃貸借契約は当然に終了します。効用を喪失したか否かは、物理的、技術的にのみ考えるものではなく、経済的観念も基準として判断すべきとされています。したがって、修繕にあたり新築に近いような費用を要する場合などは、効用を喪失したと考えられる場合もあり得ます。

これに対し、一部が焼けても、賃貸建物としての効用を喪失したといえない場合は、賃貸借契約は終了せず、存続することになります。そこで、どのような場合に「当該建物が賃貸建物としての効用を喪失したといえるのか」ということが問題になります。

(3)建物としての効用の喪失

一般論としては、建物の主要な部分が焼失したことにより、建物としての効用を喪失し、賃貸借の目的が達成されないと認められる場合には、「賃貸建物としての効用を喪失した」といえると解されています。

裁判例では、建物の一部が焼失した場合であっても、残存する部分の内装、電気、給排水、ガス等の設備の修繕が必要となり、改修工事が必要で、建物の2階の天井が焼失し、屋根も抜け落ちているため、雨漏りがしている状況にある場合は、残存する部分も含めて建物全体が効用を喪失したものとして、賃貸借契約が終了したと判断されたケースがあります。

しかし、建物がいまだ効用を喪失していないと判断された場合には、賃貸人の修繕義務が問題となります。

2. 賃貸人の修繕義務

民法は「賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う」と定めています(民法606条1項)。貸家Bについて、修繕が必要となったことに、賃貸人には責めに帰すべき事由がありません。

しかし、民法606条1項に定める修繕義務は、賃貸人の責めに帰することのできない場合であっても認められるとするのが一般的な解釈です。なぜなら、賃貸人は、賃貸借契約上、賃料を受領する以上は、目的物である賃貸建物を賃借人の使用・収益が可能な状態におくべき積極的な義務を負うものと解されているからです。したがって、貸家Bの修繕が必要になったことに、賃貸人の責めに帰すべき事由はありませんが、賃貸人が修繕義務を負うことになります(図表2)。

図表2 民法が定める賃貸人の修繕義務

民法が定める賃貸人の修繕義務

今回のポイント

  • 賃貸建物が火災で焼燬した場合、全部が滅失すれば当然に賃貸借契約は終了する。修繕が物理的には可能であっても、修繕に過分の費用がかかる場合は賃貸借契約が終了するものと解される。
  • 賃貸建物の一部が焼けたために賃貸借の目的物である当該建物が賃貸建物としての効用を喪失したといえる場合は、賃貸借契約は当然に終了する。
  • 建物の効用の喪失は、建物の主要な部分が焼失したことにより、建物としての効用を喪失し、賃貸借の目的が達成されないと認められる場合に認められる。
  • 賃貸人の修繕義務は、修繕箇所が発生したことについて、賃貸人に責めに帰すべき事由がない場合でも認められる。

江口 正夫

海谷・江口・池田法律事務所
弁護士

江口 正夫

東京弁護士会所属。最高裁判所司法研修所弁護教官室所付、不動産流通促進協議会講師、東京商工会議所講師等を歴任。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会理事。著書に『不動産賃貸管理業のコンプライアンス』『大改正借地借家法Q&A』(ともに にじゅういち出版)など多数。