賃貸相談
2021.07.14

Vol.38 先代から相続した貸家の解約申入れ


Question

亡くなった父親から2階建ての一戸建ての貸家を相続しました。既に30年以上経過した家屋ですが造りがしっかりしており、居住には問題がありません。借家人は、契約当初は期間3年で契約していたのですが、契約書は作っておらず、何時の頃からか更新の合意もすることなく、そのまま居住が続いています。息子が結婚を考える時期になりましたので、賃貸借を解約して家を明け渡してもらいたいと考えています。
昔の借家契約ですし、契約書もありませんので、どのようにすれば解約手続きが可能になるのかわからず、困っています。どのようにすべきなのでしょうか。

Answer

本件貸家契約は30年以上も前に締結されたものということですので、現行借地借家法の施行前に成立した建物賃貸借契約です。この場合の契約の更新拒絶や解約申入れは、借地借家法ではなく、旧借家法に基づき行われます。

期間を定めた建物賃貸借は、契約において期間内解約条項を定めていない限り解約ができませんが、本件は法定更新していると考えられます。民法では、期間の定めのない賃貸借として、賃貸人は何時でも解約申入れができ、解約申入れから3カ月を経過すると賃貸借は終了すると定めていますが、旧借家法により、本件賃貸人の場合は6カ月の予告が必要であり、かつ、正当事由を具備していなければ解約申入れができません。正当事由は借地借家法ではなく、旧借家法が定める正当事由が適用されますが、旧借家法においても、正当事由となる事情は抽象的ではなく、具体的に確定していなければなりませんので、具体的な日程等が確定していない限り、正当事由が認められることは困難であると思われます。

1.建物賃貸借に適用される法律

建物賃貸借契約については現在、借地借家法(平成3年10月4日施行の法律第九十号)が適用されています。借地借家法は平成4年8月1日から施行されており、附則第4条には「この法律の規定は、この附則に特別の定めがある場合を除き、この法律の施行前に生じた事項にも適用する。」と規定され、借地借家法施行前の契約にも適用されるのが原則と定められてはいますが、「この附則に特別の定めがある場合を除き」との限定がついており、附則第12条には「この法律の施行前にされた建物の賃貸借契約の更新の拒絶の通知及び解約の申入れに関しては、なお従前の例による」と定められています。つまり、本件建物賃貸借の解約申入れ、正当事由等については、借地借家法ではなく、旧借地法の規律に従うことになります。

2. 本件建物賃貸借における解約申入れの可否

建物賃貸借において、解約申入れが如何なる条件で可能かについて、民法は、期間を定めた賃貸借と、期間を定めない賃貸借とでは異なる規律をしています。

(1)期間を定めない建物賃貸借の解約申入れ

民法は、期間の定めのない賃貸借は、賃貸人は何時でも解約申入れができ、解約申入れ後3カ月を経過することにより終了すると定めています(民法第617条)。

(2)期間を定めた建物賃貸借の解約申入れ

これに対し、期間の定めのある賃貸借は、期間内解約条項(期間内解約権の留保特約)がある場合に限り、期間の定めのない契約と同様の手続きで解約ができると定めています。

本件賃貸借は、当初は期間の定めがあったようですが、その後は法定更新しているようです。旧借家法は、法定更新の効果を「前賃貸借と同一の条件を以って更に賃貸借を更新したものとみなす」と定めていますが、更新後の期間がどうなるのかについて直接の定めがありません(現行借地借家法では法定更新後の期間は、「期間の定めのないものとする」と明文で定めています。「前賃貸借と同一の条件を以って更に賃貸借を更新したものとみなす」との定めは民法第619条の黙示の更新と同じ文言ですが、黙示の更新後の期間は見解が分かれており、期間の定めのないものとするとの解釈が一般的なようです(最判昭和27年1月18日))。

本件で、契約書が存在し、期間を定めているのに期間内解約条項がなければ期間内の解約は認められませんが、法定更新後で期間の定めがない場合は、民法上は、賃貸人は3カ月の予告で解約できるとされています。しかし、旧借家法第3条は、「賃貸人の解約申入れは6月前にこれをなすことを要す」と定めています。さらに旧借家法第1条の2は「建物の賃貸人は……正当の事由ある場合にあらざれば賃貸借の更新を拒み又は解約の申しれをなすことを得ず」と定めています。つまり、旧借家法の時代の解約も、①民法の原則が、旧借家法による民法の3カ月前の予告期間は6カ月前に、②無条件で解約申入れができるとあるのは正当事由の具備が必要に、と2つの点で修正しています。

3. 旧借家法時代の「正当事由」

旧借家法は、正当事由については、「建物の賃貸人は自ら使用することを必要とする場合その他正当の事由あるにあらざれば賃貸借の更新を拒み又は解約の申し入れをなすことを得ず」と定めており、現行の借地借家法とは規定の仕方が異なっています。この解約と更新拒絶についての正当事由は、平成4年7月31日までに成立した建物賃貸借の場合は旧借家法が適用されます。旧借家法の時代においても、正当事由については、解約申入れの時点で確定した事実をもとに借家人の建物使用を必要とする事情を比較衡量して正当事由を判断していますので、「息子が結婚を考える時期になりました」という不確定な事情では正当事由が認められることは困難であると思います。

今回のポイント

  • 平成4年7月31日までに成立した借家契約の更新や解約については現行の借地借家法ではなく、旧借家法の規定が適用される。
  • 建物賃貸借の期間内解約は、期間の定めのない場合は、賃貸人は正当事由を具備した場合にかぎり、6カ月の予告で解約できるが、期間を定めた賃貸借は、期間内解約条項が定められていない限り期間内解約は認められない。
  • 法定更新後の期間は、期間の定めのないものと解され、期間内解約条項の定めがなくとも期間内解約が可能である。

海谷・江口・池田法律事務所
弁護士

江口 正夫

東京弁護士会所属。最高裁判所司法研修所弁護教官室所付、不動産流通促進協議会講師、東京商工会議所講師等を歴任。公益財団法人日本賃貸住宅管理協会理事。著書に『不動産賃貸管理業のコンプライアンス』『大改正借地借家法Q&A』(ともに にじゅういち出版)など多数。