法律改正等
2024.08.14

宅地建物取引業者が宅地または建物の売買等に関して受けることができる報酬の額の一部改正


空き家問題が社会的な課題となっています。空き家の存在は、地域社会の治安、衛生、防火など、人々の生活に深刻な影響を及ぼします。最近では空き家が殺人に利用されるという衝撃的な事件も発生しており、もはや放置は許されません。
すでに多くの空き家対策が動き出していますが、今般、宅建業法においても、空き家流通促進の観点から報酬規程(宅地建物取引業者が宅地または建物の売買等に関して受けることができる報酬の額)が見直されました(令和6(2024)年7月1日施行。以下「令和6年特例」)。本稿では、この報酬規程の見直しについて解説します。

空き家の状況

総務省の発表によれば、令和5(2023)年10月現在、全国の総住宅数が6,502万戸であるところ、空き家の数900万戸、総住宅数に対する割合(空き家率)13.8%に達しています(令和5年住宅・土地統計調査 住宅数概数集計〈速報集計〉結果、令和6年4月30日)。空き家数も空き家率も、いずれも一貫して増加が続いており、20年前と比較すると、空き家数で1.4倍、空き家率で約1.6ポイント上昇しました。

空き家対策としての宅建業者の役割

空き家対策には、「空き家の解体」「空き家の活用」という2つの方向性があります。このうち空き家の活用のためには、空き家を流通させることが必要です。宅建業者は、空き家を流通させるという空き家対策において、重要な役割を担います(図表1)。

図表1 空き家対策が必要な理由(報酬額一部改正の理由)

図表1 空き家対策が必要な理由(報酬額一部改正の理由)

もっとも、空き家とその敷地の価額は低廉です。宅建業法上宅建業者の報酬の上限は宅地建物の価額を基準にして決められるので、宅建業者は、空き家の流通に積極的ではありませんでした。2018(平成30)年1月には、報酬告示が改正され、低廉な空き家等の報酬の額について、特例が設けられましたが(平成30年特例)、期待された成果はあらわれていません。

改正内容(図表2)

図表2 平成30年特例と令和6年特例の適用要件の比較

図表2 平成30年特例と令和6年特例の適用要件の比較

〔1〕平成30年特例

平成30年特例は、売買・交換の代理・媒介報酬に関し、
①特例の対象物件(低廉な空き家等の範囲):物件の価額(消費税を含まない価額)400万円以下の物件の売買・交換の代理・媒介
②特例適用の相手方:売買の売主または交換の当事者
③報酬額の上限:18万円の1.1倍
とするものでした。

平成30年特例では、賃貸借については、特例は適用されませんでした。

〔2〕令和6年特例(今般の改正)

これに対して、令和6年特例(今般の改正)は、売買・交換の代理・媒介報酬の特例適用の範囲を拡大し、かつ、賃貸借の代理・媒介を新たに特例制度の対象としました。

(1)売買・交換の特例(規程第七・第八)

①特例の対象物件(低廉な空家等の範囲)について、物件の価額(消費税を含まない価額)を800万円以下に引き上げました。

②特例適用の相手方については、売主だけではなく、買主を含むものとしました。

③報酬額の上限を、30万円の1.1倍に引き上げました。

(2)賃貸借の特例(規程第四)

加えて、令和6年特例では、賃貸借に関し、新たに特例が設けられました。

①特例の対象物件は、長期の空き家等です。長期の空き家等とは、現に長期間にわたって居住の用、事業の用、その他の用途に供されておらず、または将来にわたり居住の用、事業の用、その他の用途に供される見込みがない宅地建物を指します。

②長期の空き家等の報酬額の上限を、貸主と借主の両方の報酬を合計して1カ月分の賃料の2.2倍としました。

③賃貸借に特例が適用される場合の特例適用の相手方は、貸主に限られます。借主から受領する報酬は、特例は適用されません。借主である依頼者から受ける報酬の額は、賃料の1.1カ月分以内(居住用の場合は0.55カ月分以内。媒介の依頼を受けるに当たって借主の承諾を得ている場合を除く)が上限です。

まとめ

空き家は、移住、二地域居住、起業、コミュニティ活動等の場となりえる社会的資源です。マッチングの機会を拡大して空き家等の流通を促進し、それによって空き家が社会に害悪を及ぼす事態を防ぎ、空き家が有効に活用される社会を作出することは、宅建業者のみなさまの社会的な責任です。報酬規制の改正を契機にして、より積極的に空き家の流通促進にご尽力いただきたいと思います。


執筆

渡辺 晋

山下・渡辺法律事務所
弁護士

渡辺 晋

第一東京弁護士会所属。最高裁判所司法研修所民事弁護教官、司法試験考査委員、国土交通省「不動産取引からの反社会的勢力の排除のあり方の検討会」座長を歴任。マンション管理士試験委員。著書に『新訂版 不動産取引における契約不適合責任と説明義務』(大成出版社)、『民法の解説』『最新区分所有法の解説』(住宅新報出版)など。