賃貸住宅管理業の法制化とサブリース業者の契約適正化の法制化
– 登録義務付けとサブリース業務の準則遵守 –
賃貸住宅管理業の重要性が高まるなか、「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」が制定されました。この法律が施行されると、一定の規模以上の賃貸住宅管理業者は管理業務を行うには登録が義務づけられ、また、サブリース業者は、法律が定めた業務準則を遵守してサブリース業を営むことが必要になります。
法制化の背景と内容
賃貸住宅管理業については、2011年9月30日の国土交通大臣告示により登録制度が創設されました(施行は同年12月1日)。この登録制度では、賃貸住宅管理業務の適正な運営を確保し、賃貸住宅管理業の健全な発達を図り、もって賃貸住宅の賃借人等の利益の保護に資することが目的とされ、併せて、賃貸住宅管理業とサブリース業についての業務準則が定められました。
もっとも、この登録制度は登録するか否かが任意の制度であり、法律の裏付けがなかったこともあって、オーナーの高齢化が進むなか、今後も賃貸住宅管理業の重要性が増大すると考えられるのにもかかわらず、2018年12月時点での登録業者数は4,287業者にとどまっていました。また、近年、サブリース契約を巡ってはさまざまなトラブルが報道されるなど、問題が頻発するに至りました。
このような問題意識は、国土交通省が2019年4月に公表した「不動産業ビジョン2030」でも明らかにされ、「2030年に向けて重点的に検討を要する主な政策課題」の中では、賃貸住宅管理業者登録制度は「中小規模事業者に配慮し、法制化も視野に入れた検討を進めるべきである」とされました。
このような経緯を経て、2020年3月6日、サブリース業者と所有者との間の賃貸借契約の適正化のための措置を講ずるとともに、賃貸住宅管理業を営む者に係る登録制度を設け、その業務の適正な運営を確保する「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律案」(図表1)が国会での審議を経て6月12日に可決成立し、6月19日に公布されました。
サブリース事業者と所有者の間の賃貸借契約適正化
- 〇誇大広告等の禁止
- 〇重要な事項について故意に事実を告げず、または不実のことを告げる行為等の禁止
- 〇マスターリース契約締結前に書面を交付して重要事項を説明する義務
- 〇マスターリース契約締結後遅滞なく書面を交付する義務
- 〇書類の備置きおよび閲覧させる義務
賃貸住宅管理業者の業務処理準則
- 〇信義を旨とし、誠実にその業務を行う義務
- 〇名義貸しの禁止
- 〇業務管理者選任義務
- 〇管理受託契約の締結前に書面を交付して重要事項を説明する義務
- 〇管理受託契約締結後遅滞なく書面を交付する義務
- 〇一括再委託契約
- 〇財産の分別管理義務
- 〇従業者証明書を携帯させる義務
- 〇帳簿の備付け、保存義務
- 〇標識の掲示義務
- 〇委託者への定期報告義務
- 〇守秘義務
サブリース業者に対する規律
法律では、第三者に転貸する事業を営むことを目的として締結される賃貸借契約(マスターリース契約)を「特定賃貸借契約」と定義し、いわゆるサブリース業者を「特定転貸事業者」(特定賃貸借契約に基づいて賃借した賃貸住宅を第三者に転貸する事業を営む者)と定義しています。
同法が施行されると、すべての特定転貸事業者には、特定賃貸借契約(マスターリース契約)の勧誘にあたり、①広告での家賃や賃貸住宅の維持保全方法や契約解除に関する事項等について優良誤認させるような表示の禁止、②契約の相手方に対し、重要な事項について故意に事実を告げずまたは不実のことを告げる行為の禁止等の規律が課せられます。また、③特定賃貸借契約(マスターリース契約)前に、書面を交付して重要事項説明を行わなければならず、④契約が成立した場合には、法定の事項を定めた書面を交付しなければならない旨が規律されました。
これらの規律は、特定転貸事業者だけではなく、特定賃貸借契約(マスターリース契約)の締結を勧誘する者(勧誘者)にも適用されます(図表2)。
賃貸住宅管理業者に対する規律
法律では、賃貸住宅の維持保全を行う業務と家賃等金銭の管理を行う業務を「管理業務」と定め、賃貸住宅の賃貸人から委託を受けて管理業務を行う事業を「賃貸住宅管理業」と定めました(図表3)。そのうえで、国土交通省令で定める事業規模未満の者(まだ国土交通省令は公表されていません)を除き、賃貸住宅管理業を営もうとする者は、国土交通大臣の登録を受けることが義務付けられました。
登録を受けた賃貸住宅管理業者は、法律が定めた業務準則を遵守しなければなりません。例えば、賃貸住宅管理業者は、①名義貸しが禁止されるほか、②その営業所または事務所ごとに、一定の知識および能力を有する「業務管理者」を1人以上選任しなければなりません。また、管理受託契約の締結に関しては、賃貸住宅管理業者は、③契約締結前に、委託者である賃貸人に書面を交付して重要事項を説明しなければならず、④管理受託契約を締結した場合には、委託者である賃貸人に対し、遅滞なく、法律が定める事項を記載した書面を交付しなければなりません。管理業務にあたっては、⑤管理業務で受領した金銭と自己の財産および他の管理受託契約において受領した金銭とを分別して管理しなければならず、⑥従業者には従業者証を携帯させて業務に従事させなければならず、⑦管理業務の実施状況等について、定期的に、委託者に報告しなければなりません。
留意点
サブリース業者に対する規律は、法律の公布から6カ月以内に施行され、賃貸住宅管理業者に対する規律は、法律の公布から1年以内に施行されます。したがって、宅建業者でこれらの業務を行う者は、法律の施行までに、対応の準備をしなければなりません。法律違反に対しては行政処分がなされるほか、無登録営業や名義貸しには1年以下の懲役または100万円以下の罰金(併科されることもある)が処せられ、さらに業務準則違反にも罰金刑等が定められています。万全の準備で法律の施行に臨みたいところです。
涼風法律事務所
弁護士
熊谷 則一(くまがい のりかず)
栄光学園高校、東京大学法学部卒。建設省(現国土交通省)勤務を経て、1994年4月に弁護士登録。「賃貸住宅管理業等のあり方に関する検討会」委員として賃貸住宅管理業登録制度や賃貸住宅管理業の適正化における検討に参加。