不動産お役立ちQ&A

Vol.59 4つのタイプから考える、管理会社の経営戦略②


Question

先代から会社を引き継ぎ2年が経過しました。仲介事業は以前よりも売上げが減少しており、管理戸数は横ばいですが、800室管理しているおかげで雇用の維持もできています。
今後の経営戦略として、管理戸数を拡大していきたいのですが、獲得できる物件は老朽化した物件ばかりです。まずは戸数拡大を重視すべきか、入居率という質を重視すべきか、展開に悩んでいます。どうすべきかご意見をお聞かせください。

Answer

現在の自社のポジションを客観的にとらえて、どの方向に進むべきかを、まずは経営者が明確に決めてください。今いるポジションと向かうべき方向にズレが生じている場合には、会社のビジョンを明確に打ち出していく必要があります。

前回の「自社ブランド活用」と「他社ブランド活用」の方針を明確にしたら、次はシェアの拡大です。現在のポジションを認識して、今後は「量」で存在感を推していくのか、「質」でブランドを強化していくのか、方向性を出していきましょう。

はじめに

前回は自社の「ブランド」をどのように強化していくのか、というテーマで「自社ブランド構築」と「他社ブランドの利用」についてご説明をしました。

それと同時に、自社の「管理事業の存在感」を、どのように推し進めていくのかを考える必要があります。今回は、「質と量のブランディング」について触れていきたいと思います。

賃貸管理事業の現状

賃貸管理事業は、いくらテクノロジーが進化したとはいっても、「労働集約型」の業務という性質は変わりません。1つひとつの「物件対応」「オーナー対応」「入居者対応」など、ITや効率化だけでは対応しきれない業務が多く、「ヒト依存」から脱却すること自体は、今現在は難しいと言わざるを得ません。よって管理会社とオーナーのつながりが、結局のところ重要なのですが、コミュニケーションの前提となる「管理の質」に満足するオーナーが増えれば管理戸数は増やすことができますし、ひいてはそれがブランドになっていくため、良い循環になります。

4つのポジション、現状把握のあとに目指すべきポジション

図表:現状把握と目指すべきポジション

現状把握と目指すべきポジション
現状把握と目指すべきポジション

図表の①の部分は、地域での管理戸数シェアが多く、入居率も高いポジションです。これは独立系の地域不動産管理会社が目指すべきポジションで、「質」と「量」ともに満たされている状態です。「高い入居率=オーナー満足度が高い」とも言えるため、管理業からの派生事業もうまく進めることができます。ここにたどり着くために、どのルートを進むのかが重要となります。

図表の②は、管理戸数こそシェアは少ないものの、入居率が高いということは、一人ひとりのオーナー満足度が高い状態と言えます。この状態の場合、オーナーとのリレーションも行き届いているため、「質」の高さから、じわじわとブランドが認知されていきます。自然と口コミや新規オーナーが増えていくので、徐々に表の右側に移行していきます。ただ、質を維持しなければ、行き着く先が③となり、シェアが増えたところで下降局面か横ばいとなるでしょう。そこで「質」をどう維持するのかが、重要な経営戦略となります。

続いて、図表の③です。このポジションは、管理戸数は多いものの入居率が低い状態で、オーナー満足度が得られにくいと言えます。このポジションの物件は①や②に物件が移行していくため、戸数が爆発的に増えることはありません。むしろ、現状で物件の1つひとつと向き合うことができていないため、「質」が維持できていないことで「量」を減らしていく可能性が高いと言えます。地域でブランドが出来上がっているが故に、逆に「〇〇不動産の管理はイマイチ」という、悪い評判がたちやすくなってしまうのです。この手の地場大手不動産管理会社は多数存在しており、社員数が多いからこそ社内情報連動も弱く、物件の入居率も他人事感が否めません。「高入居率の維持」「管理の質」がブランド強化をするうえでは欠かせないことが、よくわかるのではないでしょうか。

そして最後に図表の④のポジションです。管理事業自体、社内の花形とはいえないまでも、今後シェアを拡大していきたいというところでしょう。なんと言っても、管理戸数が少なく、入居率も低いのですから市場の認知度も低いため、自社の強みや特徴をしっかりと表現していかなければなりません。

よく、この状態で管理を無理に増やしていくケースが見受けられるのですが、入居率が高まらない状態のまま、④から力技で右側(③)に移動させたとしても、入居率が伸びずに結局もとのポジションに戻ってしまうことになります。焦って戸数シェアを拡大するのではなく、「質」を使ったブランディングは、無理なマーケティング活動をせずとも自然にシェアが拡大します。それらを実践して成功させるには、やはり人材のスキル拡大と、オーナーとのコミュニケーション強化が絶対的な要素となるのです。

①にたどり着くルートを長い目で見定めながら、戸数拡大のためには「質=高入居率の維持」を意識した経営戦略を構築することが重要なのです。


今井 基次

みらいずコンサルティング株式会社
代表取締役

今井 基次

賃貸仲介、売買仲介、賃貸管理、収益売買仲介、資産形成コンサルティングの経験を経て、みらいずコンサルティング株式会社を設立。不動産業者・不動産オーナーの経験をもとにして、全国の賃貸管理業を行う企業へのコンサルティングや講演・研修活動を行う。聴講者はこれまでに3万人を超え、好評を得ている。CPM®、CFP®、不動産コンサルティングマスターなど資格多数。著書に『ラクして稼ぐ不動産投資33の法則 成功大家さんへの道は管理会社で決まる!』(筑摩書房)がある。