不動産お役立ちQ&A

Vol.65 空室対策は、提案までの「プロセス」が重要


Question

当社では、3年ほど前から管理受託活動を強化しています。管理戸数は緩やかに拡大しているのですが、受託する物件の入居付けが悪く、全体の入居率は以前よりも下がっています。今後も管理戸数を増やしたいのですが、空室を減らさないとオーナーに対する説得力に欠けるため、なんとしても現在の入居率を改善していきたいと考えています。
ただ、空室のなかでも相対的に家賃が割高になっているものが数多くあります。オーナーにその旨を伝えても、うまく受け入れられないこともあり、行き詰まっています。このような状況のなかで、オーナーに対してどのように提案を持っていけば入居率が改善するのか、よい方法があればぜひ教えてください。

Answer

繁忙期はともかく、閑散期になると空室が埋まらず、その結果、1年以上空室になる物件も出てきます。賃貸住宅が供給過剰になっている地域では、入居を決めるためのオーナーへの提案を優先的に行っていかなければ、入居率が自然に上がるようなことはありません。

また、提案をするといっても「家賃を下げなければ埋まりません」というような直接的な意見は、オーナー側からすれば「敵対的な提案」と感じやすいものです。オーナー側に寄り添った提案と感じてもらうには、手間はかかっても「現状」をロジカル(論理的)に「分析」し、「提案」をするべきです。このようなプロセスの一つひとつが信頼につながるため、提案の仕方とプロセスを意識して行いましょう。

1. 早期入居付けのカギとは

夏場になると、春の繁忙期までに埋まらなかった物件が放置され、次の繁忙期まで入居者が見つからないということがあります。先手の行動が大切なのですが……オーナーに対する空室対策の提案は、現場の業務の優先順位からすれば、緊急性が下がってしまいます。というのも、日常の管理業務は、入居者からのクレーム対応や出納業務など、日々のルーティーンに追われがちです。管理会社の現場スタッフからすれば、オーナーへの提案以前にやるべき業務がたくさんあるのです。「〇〇さん、いい加減に早く入居者を決めてくださいよ!」というオーナーからのクレームがあって初めて動き出すことになるのですが、その時にはすでに後手となっているのです。

限られた人材で業務を優先して空室対策の提案に時間を割くことは、非常に手間と時間を要してしまうのですが、オーナーに対して何もしないという選択をすれば、管理解約などにもなりかねません。ライバル物件に勝つためには、とにかく先手での提案が重要であり、この時期にどのように提案をするかが早期入居付けのカギになるのです。

2. たとえ提案でも、いきなり「家賃を下げましょう」は 控える

オーナーが管理会社に最も期待することの1つは「入居者を決めること」です。逆をいえば、入居が決まっているオーナーで、管理会社にとやかくクレームをつけてくる人は少ないはずです。結局は入居者を決めるまでのプロセスが重要で、成果のためにどのようなプロセスを経るのかが、管理会社の存在価値となるのです。

モノの価値は需要と供給で決まります。価値は消費者と市場が決めるものであり、賃貸市場でも同様で、入居希望者は常により良い条件で部屋を借りたいと考えています。つまり、最終的に希望する諸条件に見合った物件であるかどうかが判断されるのですが、地域、物件、設備、間取り、面積など、それらを加味して家賃が判断されます。そして、その事実をどのようにオーナーに伝えるのか、が重要なポイントになります。「結果的に家賃が市場よりも高い」としても、結論から伝えればオーナーは資産価値が下がることに直結することになるため、喜ぶ人はいないでしょう。それでは、どのようなプロセスを経るのが管理会社として、そしてオーナーにとって、一番良い提案方法なのでしょうか。

3. 提案までのプロセスを大切にする

オーナーにとって最適な提案をするためには、いくつかのプロセスを踏んでいくことが重要です。

まずは「現状分析」をして、類似のライバル物件と当該物件との比較をしましょう。空室物件は、諸条件や設備など比較をしていけば、決まっている物件に比べ全体として劣っているはずです。まずはこの事実を、管理会社としてということではなく、「入居希望者の目線」として伝えることが大切です。次にそれらの事実に対して、どう対策を講じるのかを提案するのです。提案といっても、お金がかかる提案ばかりしたら、「いつもお金がかかることばかりしか言わないね」というように、良い心象を持ってもらえません。よって空室対策提案は、必ず「コストがかかる提案」と「コストがかからない提案」とをセットで行いましょう。現状を知ってもらい、それらの提案をしたときに、「家賃を下げてでも決めたほうがお得」とオーナーに感じてもらうロジック展開が重要なのです(図表参照)。

図表 空室対策の提案プロセス

空室対策の提案プロセス
空室対策の提案プロセス

一方的に伝えるのではなく、「家賃を下げてでも決めなければ損」という答えに至るエビデンスを準備し、オーナーに「これでは家賃を下げなければ、決まらないね」とみずからの口で言っていただくことが理想です。

管理会社としての成果は「入居者を1日でも早く決めること」です。それを達成するための「プロセス」を意識して提案してみましょう。


今井 基次

みらいずコンサルティング株式会社 代表取締役
合同会社ホーリーロッジ 代表社員

今井 基次

賃貸仲介、売買仲介、賃貸管理、収益売買仲介、資産形成コンサルティングの経験を経て、みらいずコンサルティング株式会社を設立。不動産業者・不動産オーナーの経験をもとにして、全国の賃貸管理業を行う企業へのコンサルティングや講演・研修活動を行う。聴講者はこれまでに3万人を超え、好評を得ている。CPM®、CFP®、不動産コンサルティングマスターなど資格多数。著書に『ラクして稼ぐ不動産投資33の法則 成功大家さんへの道は管理会社で決まる!』(筑摩書房)がある。