当社は地方都市にある管理会社で、約2,500戸ほどを管理しています。創業より順調に管理戸数を増やしていますが、それに伴い従業員も増えています。管理戸数が少ないうちは、オーナーと社長である私の距離感が近く、所有物件の売買など、不動産に関するあらゆる相談が私のもとに流れてきました。
ところが、従業員が20名を超えた頃、現場スタッフにオーナー対応を任せ始めたところ、以前には頻繁にあった売買相談がめっきり減ってしまいました。収益物件の売買は、売上げに大きく影響します。現場スタッフが案件を拾い上げられるような、何かよい手立てはありませんでしょうか。
Answer
知識も経験も豊富なカリスマ創業社長には信用力があるため、不動産に関する相談が集まりやすいのですが、それらが不足している従業員には、案件の話を引き出すことは難しいでしょう。オーナーにとっても管理会社にとっても最良なシナリオは、まずは管理担当者が相談を引き出し、ワンストップでオーナーの不動産に関する問題解決ができることです。それにより、売買仲介や建築プロデュースへと派生させることができるのです。それらを引き出すためには、オーナーとの信頼関係の構築はもちろんのこと、オーナーの物件情報を常に可視化し、資産価値を見えるようにすることで、コンサルティングにつなげやすくなります。
管理会社のポジションは、優位性が高い
賃貸管理事業は、継続的に資産家とコンタクトが取れる優位性がある仕事です。金融商品を扱う企業からすれば、喉から手が出るくらい欲しいつながりでしょう。管理会社のスタッフが、そのような優位なポジションを得ていることに気づくことが重要ですが、現場で業務をしている担当者からすれば、目の前の仕事に没頭するあまり、気づきにくい側面もあります。本来であれば、物件の入居率を上げることや、運営費を下げることなど、オーナーにとって最善の提案を実行し、成功してもらうことで信頼関係が構築されていくのですが、目の前の業務にとらわれてしまうと、すべてが作業的になりオーナーと心のこもった意思疎通ができなくなってしまうのです。本来は、オーナーと管理会社の関係強化は、互いにとってメリットが大きいのですが、そうではない結果となりやすいのです。
管理会社にとっての、最悪のシナリオ(図表1)
ある日突然「物件を売ることになったから、手続きをしてほしい」と、オーナーから電話が入ります(①B)。管理会社からしてみれば、頑張って満室にしたのに、事前相談もなく売却されることは寝耳に水です(①C)。「管理会社とはいえ、当社でも売却活動は可能です」と言っても、時すでに遅し。「買主は、もう決まっています」と言われてしまいます(②AC、③B)。さらに、「次の買主は、新しい管理会社に任せることになっているみたいなので……手続きをお願いします。これまでお世話になりました」という結果になるのです(④B)。オーナーと信頼関係を構築できていれば、もっと自分に知識があればと思っても、あとの祭りです。常に接点を持てる機会があるのに、それを生かしきれないことで起こる、売上げが「0」になる瞬間です。
管理会社にとっての、最良のシナリオ
一方、最良のシナリオは入口が違います。オーナーから、「ちょっと相談があるのだけど、時間あるかな?」と連絡が入り、自宅に招かれます(①A)。話を聞くと、今後起こる相続対策のため、不動産を整理したいということです。当然、具体的な相続設計には時間を要するため、税理士と連携してシミュレーションをし、オーナーへの提案を行います。その後、保有している一棟マンションの売却と、土地の有効活用をすることになりました。売却物件は、当社にて専任でお預かりしました(②B)。ちょうど近隣で物件を欲しがっていた既存オーナーに提案したところ、短期間で話がまとまり、売主と買主の両手仲介をして、その後も継続して自社で管理をさせていただくことになりました(③A)。そして、土地の有効活用も、自社で建築プロデュースをして、その新築物件の管理ができることになりました(④A)。
最良のシナリオでは、両手仲介をして、物件の管理をそのまま継続することができますが、最悪のシナリオでは、仲介どころか管理物件も自社の手を離れてしまいました。この2つのケースにおける、管理会社の損益がいかほどかは、おわかりいただけるでしょう。せめて管理が残るとか、片手仲介だけでも関与できればまだいいのですが……。
最良のシナリオを実現するための要素
最良のシナリオを引くためには、オーナーとの信頼関係が欠かせません。また、信頼関係があるといっても、知識がなければ「相談」を受けることはないでしょう。さらに、管理会社として、オーナーの物件の価値を可視化できていることも重要です。創業社長のように、マンパワーでオーナーから案件を引き出すことは容易ではありません。そこで、オーナーの物件の資産価値が今現在いくらなのか、可視化することによって「相談」を引き出すようにするのも、手立ての1つです。
たとえば、現在、出納業務は紙媒体からアプリなどへ移行しつつあります。これにより、収益と物件価値の可視化が現実的になり、管理会社からの提案は大幅に広がります(図表2)。そのため、「管理会社=不動産コンサルティング」という意識づけが可能となりやすいのです。
もちろん案件を取りこぼさないためには、管理担当者は日頃からオーナーのコンサルティングをしている意識を持つことが重要であり、さらに知識を高めることは欠かすことができません。また、コミュニケーションの取り方ひとつ、言葉ひとつで大きく売上げに変化がでることに、いつも注意を払う必要があるのです。
みらいずコンサルティング株式会社 代表取締役
合同会社ホーリーロッジ 代表社員
今井 基次
賃貸仲介、売買仲介、賃貸管理、収益売買仲介、資産形成コンサルティングの経験を経て、みらいずコンサルティング株式会社を設立。不動産業者・不動産オーナーの経験をもとにして、全国の賃貸管理業を行う企業へのコンサルティングや講演・研修活動を行う。聴講者はこれまでに3万人を超え、好評を得ている。CPM®、CFP®、不動産コンサルティングマスターなど資格多数。著書に『ラクして稼ぐ不動産投資33の法則 成功大家さんへの道は管理会社で決まる!』(筑摩書房)がある。