不動産お役立ちQ&A

Vol.68 従業員のモチベーションアップは「小さな成功体験」の積み上げから


Question

当社は、社員規模が10名に満たない不動産会社です。管理規模はまだまだ小さいのですが、仲介から賃貸管理まで幅広く業務をこなしています。そんな当社の現在の課題は、人材が安定しないことです。せっかく新しい人が入社して慣れてきたかと思えば、別の人が辞めてしまい、特に管理部門は安定しません。給料や休日などの待遇面は、決して悪い条件ではないはずなのですが、仕事のやり方や、仕事の内容そのものに楽しさを見いだせないようです。仕事の魅力を伝え、会社に残ってもらうために何かよい方法はありませんか。

Answer

賃貸管理の仕事を真正面から受けてしまうと、クレームや日常業務など、作業的な仕事に追われてしまうことがよくあります。同じ仕事ばかり継続していると、成長を感じず、先も見えず、将来を見据えたときに不安を感じてしまうという心境に至ります。それぞれの個性やスキルアップを考えたとき、日常業務以外の仕事やプロジェクトを任せることで、その人の伸びしろを見いだしてあげることが重要です。そのなかで「小さな成功体験」を積み上げ、褒められ評価されることで、少しずつモチベーションを高めることができるのです。

マネージャー側の課題

管理会社で働く社員が、本来の潜在能力を100%発揮してくれることができれば、経営者やオーナーは、言うまでもなく満足できるでしょう。しかし、どんなに素晴らしい会社でも、そのようなことはありません。動機付け(モチベーション)管理は、経営者やマネージャー側からすれば、会社やオーナーの業績を高めるためには、とても大きな課題といえます。

2つの動機付けを知る

モチベーションには、内発的と外発的の2つの種類があります。内発的動機付けとは、仕事に対する興味や研究など「人の心の内面」から生まれるモチベーションのことです。一方、外発的動機付けとは、報酬(給料)や会社からの評価といった「人の心の外側」から生まれるモチベーションのことです。仕事や、やり甲斐そのものに動機付けられれば、質の高い行動や仕事や自主性に直結するため、長期間にわたりモチベーションが維持できます。反対に、報酬は誰にでもわかりやすい動機付けのため、短期間で効果が表れやすいのですが、効果が長続きしなかったり、みずからの行動にしか焦点を合わせないため、会社全体の利益につながりにくいというデメリットが生じます。

モチベーション管理は、両方からのアプローチが必要ですが、お金のことばかりに執着する外発的動機付けは、個人にしか焦点を合わせていないため、一時的にはよくても、会社という組織にとって長期間にわたってのメリットを与え辛いのがデメリットでしょう。お金での動機付けは、一時的には良くても、結局、お金でしか動けない組織を作ってしまいます。

小さな成功体験で、内発的動機付けを強化

内発的動機付けを活発にさせるには、仕事での成功体験をたくさん作り、褒められることで仕事の楽しさを感じてもらうことが重要です。「お金」をもらうことよりも、「ありがとう」と言われることが、結局、一番良い仕事の仕方につながっていくのです。とはいえ、作業的な仕事やクレームの多い賃貸管理業のなかで、どのように内発的動機付けを活発化させるのかが課題です。オーナーの満足を引き出すには、従業員の「知識の強化」「提案のレベルアップ」などが重要ですが、そこに至る前に辞めてしまっているのが今の段階です。これらをクリアするには、どんなことでもよいので「小さな成功体験」を積ませることがよいのではないでしょうか。小さな成功体験ですから、最初から難易度の高い仕事を与えてはクリアできませんが、簡単すぎても意味がありません。成功して褒められる(喜んでもらう)経験ができることを目的とするのですから、多少のストレスがなければ、達成感を感じることができないのです。

具体的な取り組み方法

たとえば、社内の仕事であれば「オーナー向けセミナーの企画、管理」や「社内勉強会の企画、管理」などでもよいのではないでしょうか。できるだけ日常業務から少し離れたところで、なおかつ進行や段取りなど、全体を俯瞰することが必要ですから、このような「クリエイティブな仕事」は、すべての仕事に直結する力を育てます。また、難易度が高すぎない「オーナー提案」などもよいでしょう。1つの物件に焦点を当て、空室対策のための改善提案を考えて、提案書をまとめプレゼンテーションをさせることも良い方法です。現段階での問題の分析、戦略、提案とロジックにあてはめた考え方は、これもまた創造性を必要とする仕事で、それぞれのスキルアップにもつながります。これによって部屋を埋めることができれば、オーナーからお褒めの言葉をいただき、さらなるレベルの高い提案へとつながっていきます。

モチベーションは人の目にはなかなか見えません。放置していても、それぞれの潜在能力は100%になることはないのです。よって、マネージャーや経営者が手を差し伸べ、機会を与えることで、引き上げてあげることができるのです。また、内発的動機付けを高めるために、月に1回程度のマネージャーによる頻繁なコミュニケーションは欠かすことができません。

モチベーションのバロメーター

モチベーションのバロメーター

今井 基次

みらいずコンサルティング株式会社 代表取締役

今井 基次

賃貸仲介、売買仲介、賃貸管理、収益売買仲介、資産形成コンサルティングの経験を経て、みらいずコンサルティング株式会社を設立。不動産業者・不動産オーナーの経験をもとにして、全国の賃貸管理業を行う企業へのコンサルティングや講演・研修活動を行う。聴講者はこれまでに3万人を超え、好評を得ている。CPM®︎、CFP®︎、不動産コンサルティングマスターなど資格多数。著書に『ラクして稼ぐ不動産投資33の法則 成功大家さんへの道は管理会社で決まる!』(筑摩書房)がある。