不動産お役立ちQ&A

Vol.73 メンテナンス知識を得て、クレームの負の連鎖を断ち切る

賃貸管理ビジネスのイメージ

Question

当社は、地方都市で1,500戸をおあずかりしている不動産会社です。管理戸数が順調に増えてきたのはうれしいのですが、その一方で、入居者からのクレーム対応により従業員が疲弊しています。特に、繁忙期に設備面でのクレームや問い合わせが多く、経験の浅い従業員は知識が追いつかず苦慮しています。また、知識がある従業員が限られているために、入居者に対応をお待たせしてしまう事案が多数発生し、そのことが原因でさらにしびれを切らした方からお怒りのクレームをいただくこともしばしばです。
これから従業員に対して、設備メンテナンスに関する教育をしていくつもりですが、設備といってもその範囲は幅が広いため絞り込めません。どこから教育をしていけばよいのか、教えてください。

Answer

入居者から設備系のクレームを受けた際の対応は、緊急性が高くスピードが問われます。段取りよく処理をしなければ、対応が遅いなどの二次クレームを生じさせることになってしまいます。
建物や設備面の維持管理(メンテナンス)に関しては、連絡を受ける従業員の知識が不足していることもあり、結局は業者に丸投げということになります。最低限の知識があれば、電話だけで解決できる事案も多数あるため、優先順位をつけて教育することをおすすめします。なかでもクレームが発生しやすい設備については、過去の事例から優先的に学んでいくのがよいでしょう。

ささいなトラブルで無駄な出費が発生することも

アパートやマンションは、築年数が浅いものであれば設備面の問題が起こることはまずありません。しかし築年数が経過することで、共用部・専有部ともに故障やトラブルが起こりやすくなります。

ただし、トラブルの原因はささいなことであることも少なくありません。たとえば、ある日、入居者から「電気がつかない」「ガスが使えなくなった」と連絡を受け、まったく知識のないスタッフが業者にそのまま依頼をしたところ、現地に行ってみると「単にブレーカーが落ちただけだった」「メーターボックス内の復帰ボタンを操作するだけで解決した」などということがしばしばあります。

このような場合でも、当然、派遣した業者への緊急出動費用が発生します。しかしオーナーに負担させるわけにもいかないため、管理会社が負担することになってしまいます。設備に関する最低限の知識があれば、無駄に業者を派遣することもなく、電話だけで解決することができたのかもしれません。

入居者対応の4割は設備関連の問い合わせ

管理会社の入居者対応の割合を見ると、設備に関する問い合わせやクレームは、おおよそ全体の40%前後を占めます(図表1)。もちろん時期によって多少は前後しますが、全国的に見ると年間を通じてほぼ一定の数字です。

図表1 入居者対応の割合

入居者対応の割合

「各種問い合わせ」は一般的なことや事務的なことが中心で、「その他」は更新・解約に関することも含まれるため、騒音や違法駐車などの人的トラブルを除いては、比較的解決しやすいものがほとんどです。

その中でも、設備関連に関しては、問い合わせがあった時点で、従業員にある程度の知識があれば解決できることが含まれるため、積極的に知識強化を図っておくことで業務の生産性が高まるでしょう。

一方、設備関連の問い合わせやクレームだけをカウントした場合は、図表2にあるとおり、ランキング6位までで過半数を占めていることがわかります。つまり、この上位の「設備に関すること」の知識をある程度強化することで、解決までのスピードを格段に早くすることができる可能性があるのです。

図表2 設備関連の問い合わせおよびクレーム数ランキング

設備関連の問い合わせおよびクレーム数ランキング

これからの季節に優先すべき知識は?

毎年、5~6月くらいになると国内主要地域でエアコン(冷房)を使い始める時期に差しかかります。この季節になると、エアコンの故障やトラブルに関する問い合わせが増加しますが、実はその大半は電話のみで解決できることです。

たとえば、入居者がエアコンの暖房機能を利用していない場合、最後に利用したのが前年の9月までとなり、10月~4月までの7カ月もの間、全くエアコンを利用していないことになります。すると、電気代節約のために、エアコンに刺さったプラグをコンセントから外しておく人がいます。長い間エアコンを利用していないことで、入居者はすっかりそのことを忘れて「故障」と勘違いし、管理会社に連絡をしてきます。

また、リモコンが故障して、エアコンを作動できないなどの話もよくありますが、現場に駆けつけてみると、ただの「リモコンの電池切れ」などということもよく起こります。上記のような事例は、ある程度設備の知識を得て、問答集を準備しておけば電話だけで解決することができ、その場の初動で解決できれば時間短縮もでき、二次クレームを防ぐことにもつながります。

入居者に安全・快適に住んでいただくことが、オーナーの不動産収益の維持のためには欠かせません。管理会社の現場スタッフが設備に関する知識を強化すれば収益に直結することを、いま一度意識することが重要ではないでしょうか。


今井 基次

みらいずコンサルティング株式会社 代表取締役

今井 基次

賃貸仲介、売買仲介、賃貸管理、収益売買仲介、資産形成コンサルティングの経験を経て、みらいずコンサルティング株式会社を設立。不動産業者・不動産オーナーの経験をもとにして、全国の賃貸管理業を行う企業へのコンサルティングや講演・研修活動を行う。聴講者はこれまでに3万人を超え、好評を得ている。CPM®︎、CFP®︎、不動産コンサルティングマスターなど資格多数。著書に『ラクして稼ぐ不動産投資33の法則 成功大家さんへの道は管理会社で決まる!』(筑摩書房)がある。