不動産お役立ちQ&A

Vol.75 退去を防ぐことは「究極の空室対策!」
~入居者満足度を高めて入居率を維持する~


Question

繁忙期が終わり、長期間空室が目立っていた物件も減り、当社の入居率もようやく目標に達することができました。ただ、ここからの閑散期、ポツポツと退去する物件が出てきます。一度空室になると次の繁忙期まで空室となってしまうのですが、何かよい手立てはないでしょうか。

Answer

高い入居率を維持するためには、募集活動が重要ですが、もう一つは既存入居者の満足度を高めて、退去(解約)を減らすことがさらに大事なポイントとなります。退去を抑止するためには、退去の理由を認識し、抑止できる退去を減らしていくことが最も効果的です。
また、入居者満足度を高める方法はたくさんあります。入居者の立場に立って、満足度を高める効果的な方法を探っていきましょう。

️退去を減らさないと入居率は高まらない

首都圏を中心に、「入居率が上昇した」とか「賃料が上昇している」という話をここのところよく耳にします。ただし、いくら入居が決まったとしても、退去(解約)が減らなければ、高い入居率を維持することはできません。これからの閑散期に向けて、入居された方に満足していただき、長く住んでいただけるよう意識を傾ける必要があります。「退去(解約)の抑止」をすることは、ある意味「究極の空室対策」とも言い変えることができると思います。究極の空室対策のためには、まずは解約の理由をしっかりと分析することが重要です。

解約の理由を分析する

複数の管理会社の解約データを集計したところ、退去理由は図表1のとおりとなりました。この数値をよくよく分析すると、「防げない解約」と「防げる可能性のある解約」とに振り分けられることがわかります(図表2)。転勤や結婚、自宅購入などの明確な理由が存在して「防げない解約」が全体の9割を占める一方、物件の問題や気分転換などの「防げる可能性のある解約」は全体の1割程度を占めているのです。

図表1 解約理由ランキング

図表1 解約理由ランキング

図表2:解約理由別の割合

図表2:解約理由別の割合

通常、共同住宅の平均解約率は20%程度として、この解約を半数に減らせることができたら、入居率を高く維持できる可能性が高くなります。解約を抑止するためには、お住まいの入居者に「多少の不都合はあれど、今の住宅におおむね満足しているから住み続けたい」と思っていただく必要があるのです。

入居者満足度を高める方法

入居者の満足度を高めるには、不満な点を減らし、満足のいく点を増やすことが重要です。ただ、どんなに良い物件でも、不満な点の一つや二つは存在します。不満な点を全て消すよりも、「満足いく点」を増やすことの方が、実はできることがたくさんあります。

毎年、人気設備ランキングの上位にある「インターネット無料」「オートロック」「宅配ボックス」などは、もはや現代の生活には不可欠な設備になりつつあります。しかし築年数が古い物件ほど設備が乏しくなるため、このような人気設備を追加するだけで大きな満足度を得やすくなります。また、共用部分の清掃や清潔性を維持することは最重要です。満室だからといって定期清掃を軽んじてしまうと、入居者からはっきり言われることはなくとも、満足度は大きく低下します。「満室だからこそきれいにする」ことを意識するだけで、解約の抑止につながるのです。

また、予算が許せばエントランスなどの共用部分の改修(リフォーム)を行うことも、入居者満足度を上げることにつながります。古くなった集合ポストを交換したり、鉄部を塗装するだけでも、大きく見栄えが変わります。何よりも、エントランスなどの共用部分は既存入居者に対する解約の抑止はもちろん、空室対策としても効果があります。共用部分の改修は、全世帯で費用を按分したと考えれば、1部屋あたりの工事費は専有部分のリノベーションよりも費用対効果が高いのも、大きなメリットです。

以前、独自のアンケート調査で「エアコンや換気扇など普段清掃できない箇所の清掃を行ってくれたら、更新に対して前向きな気持ちになる」という意見を複数もらったことがあります。更新時に退去されて無駄な費用をオーナーが払うくらいであれば、先手を打って、普段入居者ができない清掃を提供したほうが安く済むうえに、解約の抑止につながるはずです。

コミュニケーションの外注化

入居者からの連絡や要望は、オーナーに代わって管理会社に伝えられ、さまざまな問題に日々直面しています。設備に関する故障への対応や、家賃の支払いに関する相談、騒音などのクレームまで、その内容は多岐にわたりますが、受ける管理会社も人である限り、無理な要望に追われ続けると、つい雑な対応になりがちです。管理戸数が多くても少なくても、困りごとを抱えている入居者に寄り添い、迅速かつ丁寧に対応することで、安心感を与え満足度を高めることができます。

自社対応が難しければ、24時間対応のコールセンターを外注するなど、人員確保が難しいなかでは得策といえます。解約は、前触れもなくいきなり訪れます。事前に抑止できるように、オーナーと管理会社が協力し合うことで、高い入居率を維持していけるのではないでしょうか。


今井 基次

みらいずコンサルティング株式会社 代表取締役

今井 基次

賃貸仲介、売買仲介、賃貸管理、収益売買仲介、資産形成コンサルティングの経験を経て、みらいずコンサルティング株式会社を設立。不動産業者・不動産オーナーの経験をもとにして、全国の賃貸管理業を行う企業へのコンサルティングや講演・研修活動を行う。聴講者はこれまでに3万人を超え、好評を得ている。CPM®︎、CFP®︎、不動産コンサルティングマスターなど資格多数。著書に『ラクして稼ぐ不動産投資33の法則 成功大家さんへの道は管理会社で決まる!』(筑摩書房)がある。