不動産お役立ちQ&A

Vol.81 人材獲得が困難な時代の、「正社員にこだわらない人的資源確保」の方法

人材獲得が困難な時代の、「正社員にこだわらない人的資源確保」の方法のイメージ写真

Question

当社は、首都圏にある管理戸数800戸の、賃貸仲介と管理をする会社です。創業は35年と長く、先代から現在の場所で事業を行っています。5年ほど前から中途採用だけでなく、新卒の採用を行っているのですが、最近思うように人材が集まりません。
また、採用しても権利意識が高く、正社員として採用しているにもかかわらず、正社員にふさわしいパフォーマンスが出ているとは感じられません。何かよい方法があれば教えてください。

Answer

ここ数年、地方だけでなく都市部においても、人材不足を感じるのではないでしょうか。有効求人倍率も安定的に「1.0」を超えている状況です。賃貸管理のように多種の業務がある仕事は、「物理的に会社で働く」という形に捉われない方法での採用活動を行ってみるのはどうでしょうか。「クラウドソーシング」や「フリーランス」「在宅ワーカー」など、業務委託契約を活用して、スポットで働ける人材に働いてもらう方法です。

仕事を「辞めるハードル」が大幅に減少

厚生労働省が発表しているデータから2024年を振り返ってみると、有効求人倍率はほとんど1.2~1.3倍の間を推移していました。有効求人倍率が「1.0」の場合は、企業が募集する仕事の数(有効求人数)と、仕事を探している人の数(有効求職者数)がちょうど同じになるので、均衡が取れている状態となります。つまり、現在のように有効求人倍率が「1.0」よりも大きくなるほど、人材の確保が難しくなります。 

仕事の供給が多い状況下とは、労働者が仕事を自由に選べる市場であることを意味します。そうなると、働いてみて「思っていたのと違う」「雰囲気があまり合わない」「もっといい条件の会社が見つかった」など、簡単な理由で辞めることができてしまいます。さらに最近では「退職代行サービス」などもあり、簡単に辞めると言いづらかった時代とは違い、仕事を「辞めるハードル」が下がってしまいました。昔のように「もうひと踏ん張り」という、がんばる動機付けが全くない時代でもあるのです。

企業からしてみれば、コストをかけて採用活動をして、せっかく採っても、すぐに辞められてしまえば全く割に合いません。教育をして、仕事を覚えてもらって、「さあ、これから!」というタイミングの退職もさらにガッカリしてしまいます。

インフレが加速するいま、管理会社としては、事務所経費はもちろん、最低賃金の上昇で賃金を上げる必要もありますし、全ての運営コストが上がっています。一方で、管理料を上げられているのかといえば、相変わらず5%と現状維持です。インフレや金利上昇で困っているオーナーを目の前にして、管理料の値上げ交渉などできるはずもありません。都市部のように賃料が上昇しているのは一部であり、地方都市では相変わらず空室率が高い状況が続いているのです。

そのような不安定ななか、本当に社員採用をして固定費を上げることだけが、管理会社としての業績をアップさせる方法なのでしょうか。

業務委託契約を上手に活用する

これまでは、正社員を中心に雇いながら、パートやアルバイト、時には派遣社員などで繁閑のばらつきを補っていくのが雇用形態の常套(じょうとう)手段でした。しかし、「雇用契約」だけに捉われない仕事の依頼方法もあるのです。特に賃貸管理でいえば、マーケティングや事務作業などは、物理的に出社する従業員でなくても、クラウドソーシングやフリーランスなどの業務委託を活用して、(個人情報に注意しながら)仕事をしてもらう方法があります。もちろん、スポットで働いてもらえる在宅ワーカーでもいいと思います。「物理的な出社」にこだわらなければ、全国で採用活動ができるのは、今の時代の強みではないでしょうか。

社員を採用すると、実際の給料以外にも、社会保険料、有給休暇、昇給、賞与、通勤手当など、額面給料に対しておおよそ1.35-1.45倍程度のコストがかかる可能性がありますが、業務委託契約では、そのコストはかかりません。

雇用契約と業務委託契約、それぞれのメリット

雇用契約のメリットは、「会社への忠誠心」「組織としての士気向上」などがあり、事業拡大には欠かせない存在であることはいうまでもありません。しかし、全ての人材が、経営者が思っているような「前向きな人材ではない」ということが悩ましいところです。そして一度入社してしまえば、「前向きな人材ではない」場合でも、会社側から辞めさせることはできないのです。

一方で、業務委託契約のメリットは、社員を雇用するときにかかる「社会保険料などのコストがかからない」ことや、「お互いプロとして仕事ができる」「教育コストがかからない」などがあります。さらに、最悪の場合、辞めてもらうこともできます。

新型コロナをきっかけに、「出社することが当たり前ではない」時代となり、オンラインでの仕事環境がかなり整いました。そのため、ミーティングも業務も、全て場所が離れていても可能となっています。実際に当社は、北海道から沖縄まで、仕事をしてもらえる人と業務委託契約を締結しており、それぞれプロとして仕事をしてもらっています。それぞれのメリット・デメリットはありますが、採用難の時代、人的資源も柔軟に多様化を図る時代になっているのではないでしょうか。

クラウドソーシング、パート、派遣、在宅ワーカー

今井 基次

みらいず
コンサルティング株式会社
代表取締役

今井 基次

賃貸仲介、売買仲介、賃貸管理、収益売買仲介、資産形成コンサルティングの経験を経て、みらいずコンサルティング株式会社を設立。不動産業者・不動産オーナーの経験をもとにして、全国の賃貸管理業を行う企業へのコンサルティングや講演・研修活動を行う。聴講者はこれまでに3万人を超え、好評を得ている。CPM®︎、CFP®︎、不動産コンサルティングマスターなど資格多数。著書に『ラクして稼ぐ不動産投資33の法則 成功大家さんへの道は管理会社で決まる!』(筑摩書房)がある。