これまで総合不動産業として不動産事業の全般を広く行ってきましたが、これから収益不動産売買を強化していこうと思っています。そのことを広く周知したいのですが、広告やホームページをどのように展開するべきかわかりません。制作をしてくれる会社に相談したものの、いまひとつピンときていません。何かよい考え方があれば教えていただきたいです。
Answer
「不動産情報発信におけるマーケティングの視点」を意識しましょう。不動産営業を考えると、反響を得るためには良質な情報発信が不可欠です。しかし、これまでと同じやり方(広告などのデザインを含めて)が必ずしもよいとはいえません。自社の目線ではなく「顧客の目線」を意識して、制作をしてみてはどうでしょうか。
誰に対して、何を伝えたいのか
不動産業において、マーケティング活動と情報発信は最重要ともいえます。反響を得るために、ポータルサイトに完全に依存することが悪いわけではありませんが、それだけでは企業のブランディングは成り立ちません。
反対に、ホームページやメルマガ、YouTubeなど、自社メディアを充実させることは、企業のブランディングを高めることに直結します。賃貸管理業でいえば、自社メディアを通じて、対オーナーに向けた情報発信も、対エンドユーザー(入居希望者)に向けた情報発信も、共に重要です。
ただ、最近は、せっかく情報発信をする機会はあっても、誰に対して、何を伝えたいのかが明確でない広告があふれているように思います。費用をかけて制作をしても、顧客に刺さらない広告ではわざわざ作る意味がありません。店頭広告、ホームページ、募集図面、チラシなど、過去のテンプレートをそのまま使い回しているのをたびたび目にしますが、「どうしてこの書式を使っているのですか?」と聞くと「前の担当者からそのまま引き継いでいるからです」というような回答ばかりです。内容、デザイン、文言、フォントなど、反響を得るためにもっと考え抜く必要があるのに、そこに手を掛けていません。見る側の視点を無視した一方的な情報発信では、顧客の気持ちを動かすことができないだけでなく、ブランディングの効果を得ることもできなくなります。
顧客の目線を意識する
マーケティングにおいては、「誰に対して」「なに(物件)を」「どうやって」伝えるのか、という目線が重要になりますが、「自社(不動産会社)の目線」で発信してしまうと、顧客を獲得(反響)できる可能性が著しく減ってしまうことになります。
そうではなく、「顧客の目線」を意識した情報を発信するようにしましょう。管理会社が物件を客付けしようと思ったとき、まずは物件に対してのターゲット設定が重要になります。募集している物件を何百人が内見しようとも、入居するのはたった1人(世帯)だけです。よって、物件にどんな人が住むのかを想定したうえで、ターゲットに対して訴求しやすい広告の仕方をするべきなのです。
たとえば、不動産広告において古くから使われているキャッチコピーを当たり前に使うのではなく、ターゲットとなるユーザーは年齢も性別もそれぞれ違うのですから、ターゲットに刺さりやすい言い回しや内容にするほうが、より情報は届きやすくなります。それから、どんな人が、どのような情報をなぜ必要としているのかという視点が大切になりますが、最も重要なことは、顧客の「ベネフィット(得られる利益や満足感)」であり、賃貸住宅でいえば「住むことで得られる満足感やメリット」をどう伝えるのかということになります(図表1)。
顧客のベネフィットを明確にする
不動産会社のホームページというと、物件情報を大量に載せるというパターンがありますが、そこで発信する内容に意図がなく、ただ内容を埋めているだけでは集客は図れません。それであれば、ポータルサイトにひたすら情報をアップしていることと全く変わりないからです。ホームページは独自の形式で情報発信ができるものですから、もっとブランディングを意識したページ作りをする必要があるのです。
たとえば、管理会社がこれから収益物件の売買事業を強化したいのであれば、そのようにブランディングを行う必要があるのです。「発信する情報」と「顧客の心理」は常に一対にありますから、顧客を意識しながら、サイトマップを形成していくとよいでしょう。特に、より専門的な部分に特化したほうが、集客の質は高まります。
逆に、総合不動産会社で「不動産のことならなんでもやります」というマーケティングは強みが明確になりにくいものです。よりセグメント(市場細分化)を明確にして、ある程度のターゲットを絞ったうえで情報発信したほうが、費用対効果は圧倒的に高まります。さらに、ここでも先ほどと同様に、顧客のベネフィットを明確にして、導線を設計しましょう。ベネフィットを明確にすることによって、顧客がサイト内部を回遊し、反響へとつなげることになります。反対にそれらができていないと、直帰率(ある特定のページを見てすぐに去っていく)が高まってしまいます(図表2)。
広告は専門の業者任せになりやすいものですが、自社メディアに関してはしっかりと「顧客の目線」を意識して、全体の構造を設計していきましょう。
みらいず
コンサルティング株式会社
代表取締役
今井 基次
賃貸仲介、売買仲介、賃貸管理、収益売買仲介、資産形成コンサルティングの経験を経て、みらいずコンサルティング株式会社を設立。不動産業者・不動産オーナーの経験をもとにして、全国の賃貸管理業を行う企業へのコンサルティングや講演・研修活動を行う。聴講者はこれまでに3万人を超え、好評を得ている。CPM®︎、CFP®︎、不動産コンサルティングマスターなど資格多数。著書に『ラクして稼ぐ不動産投資33の法則 成功大家さんへの道は管理会社で決まる!』(筑摩書房)がある。