不動産お役立ちQ&A

Vol.85 賃上げを要求されたときの対応方法

202504_賃貸管理ビジネス

Question

ここ1年くらいで、オーナーより「賃料を上げてほしい」と要望されることが増えています。社内に対応のノウハウがないため、それぞれが対応をしています。どのように業務を進めるべきか教えてください。

Answer

地域の需給バランスにもよりますが、昨年に引き続き、インフレの影響による賃料上昇が頻繁に起こっています。オーナーから依頼を受けたら、要望の確認、入居者への交渉、費用の明確化という3つのポイントをおさえて交渉を進めましょう。

はじめに

近年のインフレ経済下において、オーナーから賃料改定の要望が増加しています。しかし、賃料の値上げは入居者との良好な関係を維持する上で、非常にデリケートな問題です。また、多くの管理会社にとって、賃料改定業務は自社の収益につながらないため、優先順位が低くなりがちです。しかし、オーナーの収益確保と健全な賃貸経営をサポートするためには、賃料改定交渉に積極的に取り組む必要があるといえます。

オーナー様の要望の確認と検討

賃料改定の要望を受けたら、インフレによる実質収入減への対策なのか、物件価値向上のための設備投資費用の捻出なのか、あるいは周辺相場との乖離(かいり)を解消するためなのか、オーナーの意図を深く理解することが重要です。次に、希望する改定額についても、具体的な金額や改定率を把握しておく必要があります。そして、いつから改定を希望しているのか、具体的な改定時期を確認します。

上記に基づき、まず、現在の賃貸借契約書の内容を確認します。賃料改定に関する条項があるか、改定の要件や手続き、通知期間などが定められているかを精査します。次に、借地借家法第32条(賃料増減額請求権)に照らし合わせ、賃料改定の要件を満たしているかを確認します。周辺地域の類似物件の賃料相場を調査し、オーナーの希望額が妥当かどうかを判断することも重要です。成約事例やポータルサイトなどを活用することで、客観的なデータに基づいた分析が可能になります。賃料改定による収益改善効果を試算しますが、同時に、賃料改定によって入居者が解約してしまうリスクも伝える必要があります。分析結果(賃料改定の可能性、妥当な改定額、予想されるリスク)などを説明しますが、オーナーの希望に沿えない場合があることも伝えましょう。

入居者へのアプローチと交渉

賃料改定を行う場合は、入居者との良好な関係を維持できるよう、慎重かつ丁寧なコミュニケーションを心がけることが重要です。賃料改定の必要性を理解してもらえるよう、インフレによる物価上昇や、修繕費・管理費などのコスト増加を具体的に説明し、入居者に納得いただけるよう努めましょう。必要に応じて周辺地域の相場データなどを提示し、客観的な根拠を示すことも重要です。また、改定によって入居者にどのようなメリットがあるのかを伝えることも有効です。たとえば「更新料の割引」は、理解を得やすくなるかもしれません。

賃上げは入居者にとって負担となる可能性があるため、一方的に通知するのではなく、まずは現状を説明し、理解を求める姿勢で交渉を始めましょう。入居者によっては、賃上げに難色を示される場合もあります。その場合は、双方が納得できる着地点を見つけるために、粘り強く交渉を続ける必要があります。入居者の意見に耳を傾け、要望があれば可能な限り対応することで、合意に至る可能性が高まります。

賃料改定の内容は、まずは書面で通知します。口頭での説明だけでは、後々トラブルになる可能性があるためです。賃料改定通知書には、改定額、改定時期、改定理由などを明記します。

費用の明確化

賃上げ交渉は、管理会社にとって手間のかかる業務です。現状では、「賃料増額分の5%程度」という少ないインセンティブにしかならないため、積極的に取り組むことは難しいかもしれません。しかし、オーナーの収益を守るためには、賃上げ交渉も重要な業務です。そこで、以下の対応を検討する必要があります。

まず、賃料改定業務を効率的に行うためのフローを整備します。オーナーからの要望受付けから、入居者への交渉、契約変更手続きまで、一連の流れを明確化することで、担当者の負担軽減と業務の質の向上を図ります。さらに賃料改定に関する書類作成を効率化するため、雛形やテンプレートを作成しておくと便利です。担当者は、借地借家法や賃貸借契約に関する知識の習得はもちろん、適切な交渉が行えるよう、社内での勉強会も必要ではないでしょうか。

また、賃上げ交渉にかかる費用を明確化し、管理手数料に適切に反映させることを検討します。交渉が成功した場合に、成功報酬を受け取る仕組みを導入することも有効です。これにより、管理会社はより積極的に賃上げ交渉に取り組むようになり、オーナーの収益増加にも貢献できます。賃上げ交渉に関する費用や報酬について、本来であれば、事前に管理契約書に明記することで、トラブルを防止することができます。

賃料改定交渉は、オーナーと入居者の双方にとってデリケートな問題です。不動産管理会社は、専門家としての知識と経験を活かし、公正な立場で交渉を進める必要があります。そのためには、オーナーとの緊密な連携、入居者への丁寧な説明、そして、適切な費用設定が不可欠です。賃料改定交渉を成功させるためには、不動産管理会社が主体的に動き、オーナーと入居者の双方にとって最適な解決策を提案することが重要ではないでしょうか。

賃料改定業務を効率的に行うためのフロー

オーナーの意図を理解する
現在の賃貸借契約書の内容を確認
借地借家法第32条(賃料増減額請求権)を確認
周辺地域の賃料相場を調査
妥当な改定額、賃料改定による収益改善効果、予想されるリスクを調査・分析し伝える

現状を丁寧に説明
(必要に応じて)周辺地域の相場データなどの客観的な根拠を示す
入居者のメリットを伝える

賃料改定通知書には、改定額、改定時期、改定理由などを明記
※効率化するため、雛形やテンプレートを作成しておく


今井 基次

みらいず
コンサルティング株式会社
代表取締役

今井 基次

賃貸仲介、売買仲介、賃貸管理、収益売買仲介、資産形成コンサルティングの経験を経て、みらいずコンサルティング株式会社を設立。不動産業者・不動産オーナーの経験をもとにして、全国の賃貸管理業を行う企業へのコンサルティングや講演・研修活動を行う。聴講者はこれまでに3万人を超え、好評を得ている。CPM®︎、CFP®︎、不動産コンサルティングマスターなど資格多数。著書に『ラクして稼ぐ不動産投資33の法則 成功大家さんへの道は管理会社で決まる!』(筑摩書房)がある。