Vol.40 供給過剰で増え続ける空室物件を「ニッチ需要」で改善する


Question

コロナ禍での繁忙期が過ぎ、新規入居状況はイマイチの状況が続いています。これにより空室物件が増えていて、築年数が古い物件や条件が厳しい物件は、さらに決まりにくい状況に置かれています。このような決まりにくい物件に対するリーシング戦略について、何か方法がないでしょうか。

Answer

空室物件で困っている大家さんがいる一方で、住宅に困っている人も世の中にはたくさんいます。住宅に困っている「住宅弱者」のすべてが、いわゆる「不良借家人」ということではありませんが、一般的には入居審査を通過するのは困難です。入居希望者と向き合い、特定のニーズに住宅を供給することで、これまでになかった需要を得られる可能性があります。

1.供給過剰で増える空室、上がり続ける広告宣伝費

賃貸住宅の空室が増え続けていますが、地方都市だけにとどまらず、大都市部においても同様のことが言えます。空室が増えているのに、さらに新築物件が供給されているため、市場は供給過剰となり築年数が古い物件の家賃は下落します。その結果、築古物件のオーナーは、自分の物件を優先的に斡旋してもらうために、過剰な広告宣伝費(AD)を支払わなければ入居者を決めてもらえなくなります。新しいライバル物件が供給されるたびに、どんどん「負のスパイラル」に陥ってしまうのです。管理会社としても、早々に決められるような工夫や提案をしても、最新の設備があるピカピカの物件には簡単に太刀打ちできないものです。

2.住むところに困っている人が沢山いる

空室が増え続ける一方で、住む場所がなく困っている人もいます。「身寄りがない」「緊急連絡先がない」「無職になった」などの人は、賃貸住宅に入居したくても、入居審査を通過できずに「住宅弱者」となってしまいます。このような住宅弱者に関しては生活保護の対象者も多いのですが、生活保護受給者の部屋探しをサポートする公的団体や機関はあっても、生活保護に至らない住宅弱者の部屋探しをサポートする公的団体や機関はあまり存在しません。その結果、身寄りがない住宅弱者は、友人宅を転々とするか「ネットカフェ難民」となり、その日暮らしの生活を余儀なくされるのです。

3.入居者ターゲットは「正社員」でなければいけないのか

一般的な賃貸住宅は、身寄りがなく無職の状態では入居審査を通過することが難しいのですが、反対に住所が決まっていなければ安定した仕事を見つけることも難しくなります。高齢化が進む日本においては、身寄りがない人も多く、ますますこのような問題が発生すると見られています。管理会社においてもこのような問題にどう取り組むのかは、大きな課題とも言えそうです。

コロナ禍において有効求人倍率が低下している時代ですから、今後は働き方そのものも変わっていきます。「正社員」だけが安定就労というわけではなく、安定した「フリーランス」や「真面目な人」などもたくさんいるのです。実際にクラウドソーシングのみで生計を立てている人もたくさんいるのですから、これまで当たり前だった入居審査の判断基準も柔軟に変えるべき時が来ているのでしょう。

4.空室とニーズのマッチング

このように「空室で困っている物件」と「居場所がなく困っている人」をつなぎ合わせた事例が「コンビニ賃貸」を手がける、株式会社めぐみ企画(北海道札幌市)の取り組みです。築年数が経過して空室で困っている空室物件を、オーナーや管理会社から定額で借り上げ、それを転貸借で入居希望者に貸しているのです。入居者は住宅に困窮した人で、かつ身寄りのない人たち。費用に困っている人には、金城社長自らが役所へ同行して、生活保護申請の補助することもあるそうです。室内には家具家電を設置して、すぐにでも入居できる状態にしています。このような住宅弱者を入居させると、集合住宅の秩序を守れなくなるという先入観が働きますが、そのような人は全体の10%にも満たないそうで、通常の賃貸住宅においても10%弱の滞納が発生することを考えれば、ほとんど差がありません。ポイントは、電話なり面談を通じて、しっかりとその個人に向き合ったうえで審査を通過させることです。つまり、機械的に審査を通すのでなく、その人の本質を見抜くことで悪質入居者を抑止しているのだそうです。

入居してすぐに生活できるよう、家具家電を設置した賃貸物件
入居してすぐに生活できるよう、家具家電を設置した賃貸物件

5.本当に困っている人の背中を押してあげる

お問い合わせをしてくる人の中には、「生活保護受給者」と言われることが嫌で、申請をせずに苦しんでいる人も一定数いるようです。しかし、「もう一度ここから生活をやり直し、将来しっかりと税金を納めて街や国に恩返しをするためにも、今は生活保護の申請をするべきです」と背中を押しているようです。入居して数カ月で新しい仕事を見つけて、別の賃貸住宅を借りる人もいるそうですが、一度住んでしまえば気に入ってそのまま住み続ける人が大半ということです。入居者から手書きのメッセージが寄せられることが、従業員のモチベーションにつながっています。

このように、空いている部屋を埋めていくには、既存の発想だけでは需給バランスの歪みを改善できません。管理会社として市場のニーズを捉え、もう一歩踏み込んだ解決策を考えてみてはいかがでしょうか。

入居者から寄せられた手書きのメッセージ
入居者から寄せられた手書きのメッセージ

今井 基次

株式会社ideaman
代表取締役

今井 基次

賃貸仲介、売買仲介、賃貸管理、収益売買仲介、資産形成コンサルティングの経験を経て、2020年株式会社ideamanを設立。不動産業者・不動産オーナーの経験をもとにして、全国の賃貸管理業を行う企業へのコンサルティングや講演・研修活動を行う。聴講者はこれまでに3万人を超え、好評を得ている。CPM®、CFP®、不動産コンサルティングマスターなど資格多数。著書に『ラクして稼ぐ不動産投資33の法則 成功大家さんへの道は管理会社で決まる!』(筑摩書房)がある。