不動産お役立ちQ&A

Vol.42 情報発信力を高めて、オーナーとの関係を築く


Question

ここ数年で管理戸数が順調に増えてきたのですが、直近の半年くらいで伸び率が頭打ちになっています。新規受託の経路を調べてみると、既存オーナーからの紹介が減っていることがわかりました。何かよい手立てはないのでしょうか。

Answer

紹介件数が減っているのには、顧客関係管理(CRM)が機能していない可能性があります。管理戸数が上昇しても、従業員の数が同じように増やせるわけではないため、これまで密にお付き合いしてきたオーナーが、「放って置かれている」感覚を持っている可能性があります。顧客関係管理を見直し、積極的な情報発信を心がけましょう。

1.なぜ、管理戸数が増えるとオーナー満足度が下がるのか

管理戸数が増えると、オーナーとの関係が希薄になりがちです。その理由としては、戸数が増えてもすぐには従業員を増やすことができず、オーナーに対してケアが行き届かないことがあるからです。また仮に人員を増加できたとしても、オーナー対応がしっかりできるスキルを持つ人の数が限られているためです。オーナーとの信頼関係は、昨日今日入社した新人社員では務まりません。また、知識がない若い社員も、早々に対応が務まるわけではありません。管理戸数が少ない頃は密にお付き合いをしてきたのに、管理戸数が増えてきたら長年付き合いのあるオーナーが距離を感じてしまう。これまでよくしてもらっていたのに、大きくなったら業務も機械的になり、お付き合いが薄くなる……こうなると、オーナーとしてみれば「放っておかれた気分」になってしまいます。その結果、距離感が生まれてオーナーの満足度が下がることになるのです。

図表 管理戸数 オーナー満足

管理戸数 オーナー満足度

管理戸数≠オーナー満足度
(管理戸数が多い会社の家主満足度は、必ずしも高いとは言えない)

2.顧客関係管理(CRM)をどのようにするか

賃貸物件のオーナーとの関係は長期にわたります。地域に根付いている地主さんであれば、なおさらです。顧客の情報は宝の山ですが、それらが会社の大切な「経営的情報資源」ということを、どれだけ従業員が意識しているでしょうか。オーナーの情報が社内で共有されず、担当者の頭の中だけに残っている「暗黙知」では、重要な資源は管理されていないのと同じです。たとえるなら、せっかく作った書類データが「保存」されずに白紙のままフォルダに入れられているようなものです。その結果、担当者が退職するとそれらの情報も消えてしまうのです。最後は、オーナーの管理物件も辞めた社員の元へと流れていくことになるのです。

これを防ぐためには、オーナーとの些細なやりとりもしっかりと管理をする(残す)ことです。今はクラウドが進化していますから、「Google Drive」のスプレッドシートやドキュメントを使って、日付と話したことをそれぞれがメモするだけでOKです。難しいことをやろうとすると長続きしないので、ちょっとしたことを「共有の場所にメモする」だけでよいのです。

たとえば「息子が大学へ進学した」ということを、物件の担当者が知ってどう対処したらいいでしょうか。一番よくないのは、聞いた情報をそのまま何も気づかずに放置しておくことです。最良なのは、担当から上司(または幹部)へ報告をして、幹部がお祝いのために訪問をする、またはお手紙などを送ることです。最低でも、電話を一本するだけで、喜んでいただけます。こんなちょっとしたことですが、小さなことから仕事につながることはよくあります。オーナーからの情報発信は宝の山であり、これをきっかけにせずしてよい関係を築くことはできません。

3.自社から積極的に情報発信

オーナーからの情報に迅速に対応するのは最も効果がありますが、自社からの積極的な情報発信も絶やすべきではありません。情報発信の方法はいくつかありますが、やらないよりはやったほうがマシです。業界紙の切り抜きや、ネットのニュースを印刷して送っている会社もあります。また、最近では定型の会報誌サービスを利用するのも一つの方法です。ただ、これらはどの会社も画一的な内容であるため、同じ内容がいろいろな不動産会社から届くこともあるようです。できることなら、オリジナル感のある温かみを感じやすい独自のものを作られるとよいでしょう。これらは何も自社ですべてを行う必要はありません。プロのライターや専門職の人に任せるほうがよっぽど効率がよいのです。活字は相変わらず信用度の高い媒体です。会社のトピックスや業界の動きなど、独自の視点で作成して毎月月次送金明細とともに送信するのもよい方法といえます。

また、社長やスタッフからの動画を作成して、SNSやホームページ、またはオーナー向けのマイページで配信する方法もよいでしょう。デジタルコンテンツは紙とは違い、いつもフレッシュな状態で情報が残ります。

賃貸管理業は、業務をただ真面目にやるだけではオーナー満足度は上がりません。積極的な情報収集、情報発信を通じて顧客関係管理を構築することで、さらなる波及効果を生み、管理会社の業績に変わっていくのです。

独自の情報発信例
独自の情報発信例

今井 基次

株式会社ideaman
代表取締役

今井 基次

賃貸仲介、売買仲介、賃貸管理、収益売買仲介、資産形成コンサルティングの経験を経て、2020年株式会社ideamanを設立。不動産業者・不動産オーナーの経験をもとにして、全国の賃貸管理業を行う企業へのコンサルティングや講演・研修活動を行う。聴講者はこれまでに3万人を超え、好評を得ている。CPM®、CFP®、不動産コンサルティングマスターなど資格多数。著書に『ラクして稼ぐ不動産投資33の法則 成功大家さんへの道は管理会社で決まる!』(筑摩書房)がある。