不動産お役立ちQ&A

Vol.49 退去時の再査定で、市場の相場感を把握する


コロナ前の繁忙期に比べると、入居率が大幅に変化しています。具体的にいえば、2年前に管理物件の入居率が94%程度だったものが、現在は99%と大幅に向上しています。周辺の不動産会社の入居率も高くなっているため、私の会社がある首都圏郊外都市の賃貸需要が高まっていることがわかります。実際に空室が出ても、すぐに入居が決まるのですが、問題は家賃をどのように設定すべきか、ということです。単純に家賃を上げたら逆に入居が決まりにくくなるのではないか、という不安があるのですが、どう考えたらよいものでしょうか。

Answer

コロナの影響で、大幅に入居率が変動している地域が目につきます。大口でのニーズを得られる法人契約の動きにも、大きく左右されますが、個人での契約は都心部から郊外都市へと需要が動いている傾向があります。これまで、長引くデフレと若年層の減少で、経年劣化とともに「家賃は下がる」というマインドが強かったのですが、今回のコロナで大きく需給ギャップが変わったエリアがあるようです。家賃は上がることも十分にあります。退去ごとに適正な家賃を出すために、手間がかかっても「再査定」をしましょう。

1.コロナで人の流れが変化

入居者から退去する旨の連絡が来たら、管理会社はオーナーへの解約連絡をすることになります。その際、「家賃を下げる」か「同じ家賃」で再募集というのが、長引くデフレ下での固定観念でした。賃貸住宅のメインターゲットである若年層が増え続ければ、または景気が高まり賃金が上がれば、家賃が上がることもあるのでしょうが、日本を取り巻く環境は、決してそうとはいえない状況です。特に、コロナ禍は賃貸市場にも大きく揺さぶりをかけています。

ある首都圏の中堅管理会社は、コロナ前に98%程度あった入居率が、現在94%台と苦戦を強いられています。新規契約において、外国人入居者が全体の2割程度を占めていたものが、その需要が絶たれてしまいました。その結果、退去はあるが入居は決まらないという状況に陥っているのです。テレワークの浸透(図表1)と新型株による長引くコロナの影響で、会社に出社する必要がなくなり、都心部から、広くて快適で賃料の安い郊外都市へ移動する人が増えているのです。実際に、都心部の管理物件の入居率が低下している一方、首都圏郊外都市では94%だった入居率が、99%へと大幅に上昇している管理会社が存在しています(図表2)。コロナが大幅に人の流れを変え、これにより賃貸住宅の需給バランスが局地的に崩れています。

図表1 テレワーク実施状況(業種別)

テレワーク実施状況(業種別)

図表2

首都圏郊外都市の管理物件の入居率

2.家賃が10%以上上がる

入居率が99%を超えてくれば、募集する物件が少なくなります。しかし、市場では物件が求められているのです。このとき、はたして家賃設定をどうするのかが、カギとなるのです。一般的には、経年劣化により家賃は毎年下落していくといわれています。しかし、それは「人口が減っていく」「新しい物件に価値がある」という前提のもとで成り立っているものであって、局地的な需要の高まりは、家賃を上げることができるのです。

実際に、今から5年ほど前、沖縄県の宮古島市ではホテルや自衛隊などの開発ラッシュで、賃貸住宅が大幅に不足していました。人材が不足しているため、県外から工事関係者を呼ぶために、建設会社は賃貸住宅を確保しなければなりませんでした。その結果、家賃はみるみる上昇し続け、築30年の20㎡にも満たないワンルームが10万円という、都心部よりも高い家賃となっていったのです。

また、私が保有している埼玉県の物件でも、4年前に新築した当初より、部屋によっては10%以上値上げをして募集しても、すぐに成約に至るという事例もあります。

3.退去時には、再査定をする

このように、特別な要因がある市場の下では、これまでと同じという常識が大きく崩れている可能性があります。そこで重要なことは、現在の市況をしっかりと認識し、常識をアップデートすることです。入居率がかなり高い状況下では、「入居者が退去して4年が経過したから、2000円下げて募集をしよう」、というのは安易といわざるを得ません。もちろん手間はかかりますが、需要が大幅に変わっているエリアでは、頻繁に家賃査定をしなければ、オーナーにとって本来得られるべき家賃を失っている可能性すら考えられます。

都心部から郊外への転出ともなれば、入居者自身の感覚的にも家賃の割安感があるため、数千円程度上げてもまだ割安感があるかもしれません。行政のデータを見て、3年間の人口推移を見たときに流入数が増え、入居率が上がっていれば、家賃を上げられる可能性は十分に高いといえるでしょう。何より、これまで「家賃を下げなければ決まりません」という提案しか受けてないかったオーナーからすれば、「家賃を千円上げて募集してみませんか」という提案は、何より嬉しいものです。手間を惜しまずに、今の市場をしっかりと把握したうえで、最適な提案をしたいものです。


今井 基次

みらいずコンサルティング株式会社
代表取締役

今井 基次

賃貸仲介、売買仲介、賃貸管理、収益売買仲介、資産形成コンサルティングの経験を経て、みらいずコンサルティング株式会社を設立。不動産業者・不動産オーナーの経験をもとにして、全国の賃貸管理業を行う企業へのコンサルティングや講演・研修活動を行う。聴講者はこれまでに3万人を超え、好評を得ている。CPM®、CFP®、不動産コンサルティングマスターなど資格多数。著書に『ラクして稼ぐ不動産投資33の法則 成功大家さんへの道は管理会社で決まる!』(筑摩書房)がある。