法制審「区分所有法制見直し」
要件緩和、新制度も検討へ


9月12日、法制審議会第196回会議が開かれ、葉梨康弘法務大臣が区分所有法制の見直しについて同審議会へ諮問した。葉梨大臣は老朽化した区分所有建物の急増や大規模災害の発生が想定される中、区分所有建物の管理や再生の円滑化は喫緊の課題であるとした上で、「政府方針においても、区分所有法制の見直しに向けた 検討を進めることとされている。課題に対処するための審議を願う」と述べた。

政府はこれまでに、所有者不明土地等対策の推進に関する基本方針の中で、老朽化区分所有建物対策として区分所有法制の抜本的な見直しに向けた検討を行うことを明示。具体的には所有者不明マンション等に特化した財産管理制度の創設や、被災マンション等の再生の円滑化を図る方策の検討を進めることなど。

今後急増が見込まれる老朽化した分譲マンション等の対策として、区分所有法制の見直しに向けた議論が加速している。国交省の調査によれば、築40年を超える分譲マンションは21年末で116万戸。10年後に倍増し、20年後には425万戸に増加する見通しだ。分譲マンション等の区分所有建物の管理や、建替えを含む再生の円滑化の取り組みは業界にとっても注目度が高いテーマだ。民間の研究会による論点整理を踏まえ、いよいよ法改正に向けた議論が始まる。

区分所有建物については、高経年マンション等の増加と区分所有者の高齢化を背景に、相続等を契機に区分所有建物の所有者不明化や区分所有者の非居住化が進行。建物の管理は管理組合が集会の決議で意思決定を行うが、現行法では不明区分所有者等は決議において反対者と扱われ、決議に必要な賛成を得ることを困難にする。特に決議要件が厳格な建替えや共用部分の変更については更にその困難さが増し、建物の管理不全化を招くリスクをはらむ。また、被災により大きなダメージを受けた区分所有建物についても、現行では建替え等の要件が厳しい上に、その決議可能期間が1年以内と短く、準備が困難で円滑な復興が難しいという指摘もある。

法制審では諮問に至った経緯を共有した上で、専門部会を設ける必要性を確認。新設の「区分所有法制部会」に付託して審議を進める方針とした。 

柱は管理、再生、被災建物再生

法改正を見据えた検討の3本柱は、区分所有建物の(1)管理の円滑化および(2)再生の円滑化、また、(3)被災区分所有建物の再生の円滑化――となる。具体的には、「管理」の観点からは、集会の決議一般を円滑化するため、所在等不明区分所有者を決議の母数から除外することや、出席者の多数決による決議を可能とする仕組みを検討する。また、所有者不明マンション等に特化した財産管理制度を創設し、専有部分や共用部分の管理の方策を検討するほか、区分所有者が負うべき責務についても検討する。

「再生」の観点からは、建替え決議の多数決要件(5分の4)の緩和策として、多数決割合を単純に引き下げる案のほか、耐震性不足など一定の客観的要件を満たした場合や多数決割合を全員合意で緩和することを認める案について検討。ただ、これらは少数反対者の利益保護などから慎重に議論が進められる必要がありそうだ。

また、区分所有関係の解消・再生を図るため、多数決による建物・敷地一括売却や建物の取り壊し、一棟リノベーション工事を可能とする新たな仕組みを検討する。

検討の3本柱 (法制審議会資料より作成)

区分所有建物の管理の円滑化を図る方策
・集会の決議一般を円滑化するための仕組み
・区分所有建物の管理に特化した財産管理制度
・共用部分の変更決議を円滑化するための仕組み
・その他の管理の円滑化に資する仕組み
区分所有建物の再生の円滑化を図る方策
・建替えを円滑化するための仕組み
・区分所有関係の解消・再生のための新たな仕組み
被災区分所有建物の再生の円滑化を図る方策
・建替え・建物敷地売却決議等の多数決要件の緩和
・大規模一部滅失時の決議可能期間の延長

※団地内建物の建替え要件の緩和、団地関係の解消・再生のための新たな仕組みも検討

(『住宅新報』2022年9月20日号より抜粋・編集)