民法改正が実務に及ぼす影響【売買編】-2


全日保証eラーニング研修では2020年4月1日より施行された改正民法の解説を公開しています。「月刊不動産」では今号より4回にわたり、立川正雄弁護士が講義する「民法改正が実務に及ぼす影響」の売買編、賃貸編の内容をピックアップして紹介します。

*受講の際は、アクセス概要(6月号「不動産業に関する“改正民法”を「eラーニング」で学ぼう!」)や、「全日保証eラーニング」内の操作マニュアルを参照してください。

契約不適合責任(瑕疵担保責任)

◆ 契約不適合責任の代金減額と債務不履行による損害賠償

中古の一戸建てを3,000万円で売買した。ところが、買主が改装をしようとして壁のボードを撤去したところ、雨もりが発見され、修理費が300万円かかることが判明した。この雨もりは室内に発生しておらず、壁の間に雨が入り込んでいただけだった。売主は転売1カ月前に十分調査して購入したもので、そのため売主は雨もりがあることを知らなかったし、よく注意していても雨もりがあったことはわからなかった。この場合(売主には故意・過失が認められない)、買主は300万円の代金減額請求または損害賠償請求ができるか?

・雨もり(契約不適合)があるものの、売主に故意・過失がないため、損害賠償請求はできないが、売主が履行の追完(雨もりの補修)をしないときは、代金減額請求ができる(改正民法563条1項)。
・契約不適合を理由とする損害賠償は、債務不履行を理由とする損害賠償の一種となったため、契約不適合で損害賠償をするには売主の故意・過失が必要となった。 したがって、売主の故意・過失が認められない本問では、売主に債務不履行による損害賠償請求はできない。
・しかし、買主は債務不履行を理由とする損害賠償請求ではなく、契約不適合責任として以下の追完責任を売主に請求できる。

雨もりの補修の請求
補修を請求しても売主が補修をしないなら300万円の代金減額
契約不適合を理由とする契約の解除(改正民法では売主に故意・過失がなくとも、債務不履行の解除が認められる=改正民法564条)。ただし、契約不適合が軽微なら解除は認められない。

◆ 売主による追完方法の変更

業者Aは新築住宅を買主Bに売却したが、納戸の壁面に、約束した壁紙とは異なる壁紙を張って引き渡してしまった。約束した壁紙と実際に張った壁紙は色も柄も似ていて、業者Aはチェックできなかった。引渡し後これに気付いた買主Bは、契約不適合を理由として張り替えを要求したが、買主Bは造り付けの収納等を設置してしまったために、通常なら10万円で張り替えができるが、造り付けの収納をいったん撤去して張り替えると、100万円以上の費用がかかる。売主の業者Aは、張り替え補修の代わりに、10万円の代金減額の主張ができるか?

・本件のような場合には、状況にもよるが、張り替え補修の代わりに10万円の代金減額の主張ができると考えられる。
・買主に不利益がない場合、責任を負う売主による追完方法の指定権(変更権)を定めた(改正民法562条1項ただし書き)。そのため、売主は、「買主から補修を要求されても補修に過大な費用がかかり、また、納戸の中なので、買主に不相当な負担を課するものではないから、代金を減額する」という追完責任の方法を主張することができる(562条ただし書きでは、修補・代替物、不足分の引渡しの中でだけ、売主は追完の方法を変更できると読めるが、多分、補修の代わりが代金減額なので、このような解釈が認められると考えている)。

◆ 数量不足

中古の土地付き建物で、実測しないで売りたかったので、「登記簿の面積で売却する」「契約不適合責任を3カ月間は負う」という約定で売却したら、買主から「引渡し後実測したところ、登記簿より10㎡実測面積が少なかったから、契約不適合責任により代金を減額してくれ」と要求されてしまった。実測が少なかった場合に、契約不適合責任を負わなければならないのか?

・数量不足があると、原則契約不適合責任が発生する。したがって、「契約不適合責任は負うが、公簿売買のため、数量不足では契約不適合責任を負わない」とはっきり特約しておかなければならない。
・改正民法では、契約不適合は「種類、品質又は数量に関して」発生すると定めている。したがって、数量不足の場合も契約不適合の問題になってしまうことに注意しなければならない。

【改正後】民法562条 (買主の追完請求権)
1 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。

契約解除に関する改正民法の概要

・改正民法において、売買契約では、相手方が債務不履行をした場合、以下のように契約解除ができることを定めている。催告して解除しなければならない場合と、催告せずに解除できる場合がある。
・この契約解除で注意が必要なのは、解除の要件として、解除される側の「帰責事由(故意過失)」がないことである。この点が改正前民法と改正民法との異なるところである。
改正前民法では、「相手側が悪い=帰責事由(故意過失)がある」場合のみ解除を認めていた。いわば、相手が悪い場合の懲罰的手続きであった。これに対し、改正民法では、解除手続きは「契約当事者を契約の拘束から解放させる手続き」と考えている。言い換えると、解除される側に帰責事由(故意過失)がなくても解除できるようにしたということである。