Vol.20 海外の市況と賃貸・売買・投資状況 シンガポール編③
シンガポールにおける不動産投資の注意点


海外の不動産賃貸・取引慣行は日本とは異なる点が多くあります。今回はシンガポールで不動産投資を行う際に注意すべき点についてご説明します

1.シンガポールにおける外国人の不動産購入

シンガポールでは、一般的な住居であるHDB住宅(政府機関のHousing and Development Boardによって供給される公的住宅)を外国人は原則購入できないため、通常、外国人の投資対象となるのは民間コンドミニアムです(同国の住宅事情については5月号を参照)。セントーサ島の土地付き戸建等も購入が可能ですが、富裕層向けの特殊な市場なので、ここでは一般的な同国の民間コンドミニアムへの投資を想定します。

現在の同国の住宅マーケットは賃貸利回りが東京と同水準なので、為替リスク等も考慮すると、日本人の賃貸運用によるインカムゲイン狙いは合理性に欠け、むしろ、値上がりを待って転売するキャピタルゲイン狙いの投資や、資産保有を目的とした分散投資のほうが合理的と判断できます。

シンガポールのコンドミニアム写真
シンガポールのコンドミニアム

2.投資物件の選定から購入まで

シンガポールの民間コンドミニアムの一般的な購入チャネルには、デベロッパーからの直接購入または不動産仲介業者(以下、エージェント)の活用があります。前者の場合、仲介手数料等がかかりません。しかし日本人がシンガポールに不動産投資をする場合、交渉が英語という言語的制約のほか、投資リスク要因[例えば、プレビルド(建設前)物件の場合は内覧ができないという点や竣工後に瑕疵物件となる可能性等]があり、日本人投資家にとっては実務上のハードルが高く、一般的ではないのが実情です。

一方、同国のエージェントは、不動産仲介業者法(Estate Agents Act, 2010)に基づいて、政府機関の不動産仲介業評議会(Council for Estate Agencies:CEA)の統括の下、公的資格を有している必要があり、一律的な人材の質が担保されています。

また、シンガポールでは売主側と買主側の双方代理が法律で禁止されています。したがって、一般的に取引の詳細や交渉等はエージェント間で行われ、同国に不動産仲介業を営む日系企業が存在していること等を考慮すると、やはりエージェントの利用が一般的といえるでしょう。なお、仲介手数料に係る法的な定めは特になく、現地慣行として売主が取引額の2~4%を仲介手数料としてエージェントに支払います。

3.購入時・保有時・売却時に必要となる費用

通常購入者が支払う諸費用は、購入者印紙税、住宅ローンを組む際に係る費用、弁護士費用、そして仲介手数料(発生した場合)です。5月号で紹介したとおり、購入者印紙税の支払いに加えて、1軒目の住宅購入から、外国人は20%、法人は25%の追加印紙税を支払います。

※さらに不動産開発業者の場合、購入時に前金として5%上乗せした30%を支払います。

同国では非居住者も住宅ローン融資を受けることが可能ですが、個人に対する最高融資比率の定めがあるのに加え、さらに外国人に対して融資額上限(Loan To Value:LTV)があり、1軒目の住宅の融資上限が75%と、日本のように物件を担保に100%の住宅ローンを組むことはできません。したがって、頭金を含む住宅ローンを契約する際の諸費用の負担があります。

加えて重要事項の説明や売買契約書の締結、登記に係る実務等は弁護士が行うため、売買成立時には買主はこれらの費用も支払います。弁護士への報酬も含め、通常、物件購入価格の4~9%です。なお、新築物件については日本と異なり、賃貸運用する際には内装費を負担する場合があります。

保有時の主な費用には、不動産税(日本の固定資産税に相当)および管理費等があります。不動産税は自己使用住宅と比べて非自己使用住宅、すなわち投資用住宅のほうが高くなっています。

売却時には、売買仲介に係る弁護士費用と仲介手数料(売買価格の2~4%程度)のほかに、売却印紙税を支払う必要があります。売却印紙税は不動産の保有期間によって税率が異なる累進課税が採用されています。

〔シンガポールにおけるコンドミニアムの購入・保有・売却に要する主な税金・手数料・その他コスト〕

図表
(注)本稿は特定の物件の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また公租公課は頻繁に変更され、手数料の料率も業者によって異なりますので、最新のものを専門家にご確認ください。

4.シンガポールで不動産投資をするメリット・デメリット

メリットとして、まずシンガポールは社会・経済・行政的に安定しています。政府の統率力が強いので、他の東アジア諸国と比べて政情不安のリスクは格段に低く、また世界経済フォーラムの「国際競争力指数」(The Global Competitiveness Index 2019)で世界1位に選抜されるなど際立って優れた経済基盤を有し、さらに不動産関連法制度が整備されているため、不公正な取引や契約不履行のリスクが低いです。

売買契約書等は英語を正本とすることができ、東南アジア諸国の現地語と比較すると言語の壁も低く、相続税、贈与税、住民税、譲渡益税は原則非課税で、資産保有が優遇されています。

一方、デメリットとしては、物件が高額かつ1戸目から追加印紙税で物件購入価格の20%も支払わなければなりません。また東京と同水準もしくはそれ以下の低位な賃貸利回りなので、経済的な収益だけを投資目的とすることには難しさがあります。

5.最後に

シンガポールの不動産投資にご興味のある方は、現地事情に精通した信頼のおける専門家や事業者から情報収集をすることが非常に重要です。

(注)日本不動産研究所は現地提携先と協働し、不動産鑑定評価・コンサルティング等をしていますが、本稿は売買の奨励等を目的としたものではありません。最終的な投資決定はご自身のご判断でなさるようお願いします。

金融街と住宅街が融合したタンジョン・パガーのまち並み

鈴木 祥華

鈴木 祥華

一般財団法人日本不動産研究所国際部兼業務部。2018年サセックス大学大学院国際学修士課程環境開発公共政策専攻修了。国内および海外の不動産調査・評価・分析業務を担当。