Vol.22 海外の市況と賃貸・売買・投資状況 マレーシア編④
新型コロナ禍後の住宅と不動産のマーケット市況


本稿では、3回にわたってマレーシアに不動産投資をする際の基礎知識や注意点について執筆してきました。最終回となる今回は新型コロナ禍による不動産市場への影響および現地で注目の開発物件についてお話します。

1.マレーシアにおける新型コロナ禍

マレーシアでは3月初旬から中旬にかけて新規感染者が拡大したことで、3月18日に政府は活動制限令を発令し、外国人の入国禁止、州をまたぐ移動を原則禁止、日常生活に不可欠な事業以外の事業所を閉鎖しました。その後、5月初旬から感染予防策を講じることを条件に、ほぼ全業種の経済活動の再開を認めました。6月には新規感染者数は増加したものの、9月下旬頃まで総じて新型コロナウイルスの抑え込みに成功していました。が、10月に入ってから地方都市での新規感染の拡大が目立ち、1日当たりの新規感染者数が1,000人を超えるなど、予断を許さない状況となっています。なお、WHO(世界保健機関)によると、同国の10月末時点における累積感染者数は30,889人、累積死亡者数は249人です。

図表1 マレーシアの新型コロナウイルス感染者数(WHO資料)

2.新型コロナ禍発生後の不動産マーケット

前回の連載第3回目までにお伝えしたとおり、クランバレーを中心としたコンドミニアムマーケットは、価格面での需給ギャップなどを背景として軟調な状態が続いていました。それまでは大量供給の影響が薄れつつあるとともに、政府の住宅需要刺激策により、不動産マーケットは持ち直しの兆しを見せると予測されておりましたが、新型コロナ禍はその期待を一蹴する出来事となりました。

マレーシアの2020年第2四半期のGDP成長率は対前年同期比で▲17.1%となり、アジア通貨危機に見舞われた1998年第4四半期の▲11.2%を下回る過去最低の水準を記録しました。雇用や所得に対する不安が広がっていることで、売買市場における実需層は様子見姿勢を貫いています。また、新型コロナ禍での外国人の入国制限は、駐在員の減少を招き、賃料にも下方圧力がかかっていることから、駐在員への賃貸を計画する投資家の需要をも低下させています。

3.第2次ホーム・オーナーシップ・キャンペーン

このような状況のなか、マレーシアのデベロッパーが加盟するマレーシア住宅協会(REHDA)は、マレーシア政府と連携して、2020年6月1日から2021年5月31日までの1年間、第2次ホーム・オーナーシップ・キャンペーンを展開しています。同キャンペーンは2019年に第1次として行われており、デベロッパーの販売価格から最低10%以上のディスカウント、印紙税の免除または軽減などがインセンティブとして設定されたため、主に実需層からの反応が良く、デベロッパーの在庫消化にも一役買っていました。デベロッパーは2020年も同キャンペーンの継続を要望したものの、税収の回復等を背景に2019年12月末をもって終了してしまいました。しかし、再び導入された第2次キャンペーンでは、前回と同じインセンティブに加え、不動産譲渡益税の免除、60万リンギット(約1,500万円)以上の3件目の住宅に対する融資上限の緩和も追加され、税収回復よりも、経済の裾野が広い住宅市場を活性化させたいという政府の狙いが見られます。

4.今後の不動産マーケット

Withコロナ時代の住宅マーケットでは、デベロッパーはワークスペースや高い換気性などを備えた住戸など、需要者や社会のニーズにうまく対応しつつ、さらに価格面でも訴求力のある商品設計が求められることになるでしょう。また、住宅需要が回復するには、まずは国内の経済回復が最優先となりますが、そのためには外的要因としてガスやオイル、コモディティ投資の価格安定、内的要因として外資誘致促進や内需拡大のための経済対策を推進することが可能な、安定政権の確立が必要と考えます。

5.現地で注目の新しい開発

商業中心地であるブキビッタンエリアにおいて、2021年に「三井ショッピングパーク・ららぽーとクアラルンプール」の開業が予定されています。プドゥ刑務所跡地を活用した大型複合開発のひとつで、日本の大手不動産会社と現地開発会社BBCCが中心となり、開発が進められています。「ららぽーとクアラルンプール」は東南アジア最大級の施設規模で、当該複合開発の中心的な施設としての役割を担います。

また、ブキビッタンエリアでは新たな国際金融地区となるべく「Tun Razak Exchange(TRX)」も開発が進められており、このエリア内には「The Exchange 106」が建設されます。106階建て、地上492mで、地上452mとされる「ペトロナスツインタワー」を超え、同国内および東南アジアでも最も高い建物として、ランドマークタワーとなりそうです。TRX内には、2021年、マレーシアの大手小売会社による「西武」ブランドの百貨店の開業が予定されており、同エリアの今後の発展にも注目が集まっています。

クアラルンプール中心部から南方約7kmに位置する「バンダル・マレーシア」はスンガイペシ空軍基地を利用した大型開発で、開発面積は約197万㎡と東京ディズニーリゾートの広さに匹敵します。一時期、資金面で事業中止に追い込まれましたが、国家の一大プロジェクトとして政府も後押しする形で事業再開のめどがたちました。この「バンダル・マレーシア」には22万人が就業または居住することが見込まれています。

(注)本稿の意見に係る部分は執筆者の個人的見解であり、執筆者の属する組織の公式見解を示したものではありません。

ららぽーと・クアラルンプール外観

出典:三井不動産株式会社HP

TRX(全体)の竣工イメージ

出典:The Exchange 106 HP

バンダル・マレーシア(全体)の竣工イメージ

出典:Bandar Malaysia HP

松浦 康宏

松浦 康宏

一般財団法人日本不動産研究所国際部主席専門役。不動産鑑定事務所を経て、当研究所入所。東東京支所、東京事業部、本社事業部で国内の不動産に係る業務を担当後、資産ソリューション部企業資産評価室にて国内外の企業評価、動産評価、インフラ事業に係る各種業務を経て、現職。不動産鑑定士、不動産証券化協会認定マスター、米国鑑定士協会Senior Member。