宅建士講座
2023.12.14
宅建士試験合格のコツ

Vol.57 権利関係
~民法(時効)~


時効の問題は、本試験において2年に1回ぐらいのペースで出題されています。仮に問題のレベルを、①やさしめの(必ず正解すべき)問題、②難解な(落としてもよい)問題、③中間的な難易度の(合否の分かれ目になる)問題の3つに分類した場合、時効の問題は③に該当し、合否の分かれ目になることが多いように思います。

時効の重要ポイントと解説

1. 取得時効

(1)所有権の取得時効

他人の物でも、所有の意思をもって、平穏にかつ公然と一定期間(10年または20年)占有すると、その所有権を取得できます。

所有権の取得時効の表

10年の時効と20年の時効の区別は、時効取得者が善意無過失かどうかによって決まります。そして、「占有の開始の時に」とあることから、占有の開始時点で善意無過失であれば、途中で悪意に変わっても、10年の時効が適用されます。

時効取得のための占有は、直接自分自身で目的物を使用(所持)している必要はありません。たとえば、Aの所有物の占有を始めたBが、その後、目的物をCに賃貸したとしても、占有は続いたことになります。賃借人Cという代わりの者を通じて、間接的に占有(間接占有・代理占有)する形態でもよいのです。なお、賃借人としていくら占有を続けても、所有権の時効取得をすることはできません。取得時効が成立するためには、「所有の意思をもって」占有する必要があるからです。

(2)占有の承継

占有者から占有権を引き継いだ者は、承継人の意思により、自分の占有のみを主張しても、または自分の占有と前主(前々主でもよい)の占有をあわせて主張してもよいことになっています。ただし、前主の占有をあわせて主張するときは、プラス面のみならずマイナス面(たとえば悪意)も承継することに注意してください。

占有の承継の表

①のケースでは、Bは、Aの占有期間7年もあわせて主張できるので合計10年になります。B自身は悪意で占有を始めていますが、Aが善意無過失で占有を始めたという点も引き継ぐので、10年の取得時効を主張できます。

②のケースで、Bが善意無過失で開始した自己の占有のみを主張するのであればあと7年の占有でよいのですが、Aの占有もあわせて主張する場合は、悪意で占有を開始したことになるので、あと10年占有しなければなりません。

(3)所有権以外の財産権の取得時効

地上権、地役権、賃借権なども、所有権と同様に時効取得が認められます(善意無過失なら10年、悪意または善意有過失なら20年)。

2. 債権の消滅時効

債権は、①債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき、または②権利を行使することができる時から10年間(人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権については20年間)行使しないときは、時効によって消滅します。なお、5年の時効と10年(人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権は20年)の時効とは、どちらか一方が先に到来すれば時効が完成するという関係になります。

債権の消滅時効の事例の図

3. 時効の援用と放棄

(1)時効の援用

時効により利益を受ける当事者が、時効利益を受ける旨の意思表示(時効の援用)をして初めて時効の効果が発生します。当事者が時効を援用しなければ、裁判所も時効による裁判をすることはできません。時効が援用されると、時効の効力は、その起算日にさかのぼって生じます。

(2)時効利益の放棄等

当事者は、積極的に時効による利益を放棄することができます。時効利益の放棄をすると、以後、時効の援用はできなくなります。ただし、時効完成前にあらかじめ時効利益を放棄することは認められません。もしこれを認めると、ほとんどの債権において、事前に時効利益を放棄する契約がなされ、事実上、時効制度が無意味になってしまうからです。

なお、時効完成後に、借金を返済したり、債務の存在を承認したような場合、時効完成の事実を知らなかったときでも、時効の援用はできなくなると解されています。これらは時効を援用するつもりがない行動と見えるからです。

(3)時効の援用・放棄の効果

時効の援用や放棄の効果は、その意思表示をした本人にのみ生じ、他の者には生じません。

問題を解いてみよう!

論点の確認と
知識の定着を
  • 【Q1】Aが甲土地を所有している。Bが甲土地を所有の意思をもって平穏かつ公然に17年間占有した後、CがBを相続し、甲土地を所有の意思をもって平穏かつ公然に3年間占有した場合、Cは甲土地の所有権を時効取得することができる。(R2 問10)
  • 【Q2】債務者が時効の完成の事実を知らずに債務の承認をした場合、その後、債務者はその完成した消滅時効を援用することはできない。(H30 問4)

ic_kaisetsuこう考えよう!<解答と解き方>

Answer1

【解説】占有者の承継人は、前主の占有も併せて主張できるので、Bの占有が悪意で始まったとしても、Cは、20年の取得時効を主張することができます。

Answer2

【解説】時効完成を知らなかったとしても、時効を援用するつもりがないと見える行為をすると、その後、時効を援用することはできなくなります。


植杉 伸介

植杉 伸介

宅建士・行政書士・マンション管理士、管理業務主任者試験などの講師を35年以上務める。著書に『マンガはじめてマンション管理士・管理業務主任者』(住宅新報出版)、『ケータイ宅建士 2023』(三省堂)などがあるほか、多くの問題集の作成に携わり、受験勉強のノウハウを提供している。