今月のテーマ「時効」については、重要な法改正がありました。本試験において「時効」の問題は、2年に1回程度の頻度で出題されており、受験対策の必要性が高い論点といえます。ましてや重要な法改正があった本年度は、いっそう出題可能性が高いでしょう。改正のポイントをしっかり押さえましょう。
債権の消滅時効
債権は、①債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき、または②権利を行使することができる時から10年間(人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権については20年間)行使しないときは、時効によって消滅します。なお、5年の時効と10年(人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権は20年)の時効とは、どちらか一方が先に到来すれば時効が完成するという関係になります。
ポイント法改正前は、「権利を行使することができる時から10年」という定めだけでしたが、「債権者が権利を行使することができることを知った時から5年」という定めが付加されました。また、人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権については、被害者保護の観点から時効期間を延長しました。
時効の完成猶予と更新
時効がまだ完成していない段階で、一定の行為があれば、時効期間の完成が猶予されたり、進行中であった時効期間が更新されたりすることがあります。時効の更新があると、それまで進行していた時効期間は無意味となり、改めてゼロからのスタートで時効が進行します。
※法改正前の「時効の中断」および「時効の停止」を、「時効の完成猶予」と「時効の更新」という新しい概念に再構成し、その内容を変更しました。
時効の完成猶予 | 本来の時効期間が満了しても時効は完成しないという制度 |
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時効の更新 | 無権代理人が振り出しに戻ってゼロから時効期間が進行することになる制度 |
以下の場合に、時効の完成猶予または更新が生じます。
(1) 裁判上の請求等があった場合
①裁判上の請求、②支払督促、③和解・調停、④破産手続参加などの事由がある場合には、その事由が終了するまでの間は、時効の完成が猶予されます。そして、確定判決または確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは、時効が更新され、上記の事由が終了した時から時効は新たに進行を始めます。
(2)強制執行等があった場合
強制執行、担保権の実行などの事由がある場合には、その事由が終了するまでの間は、時効の完成が猶予されます。そして、これらの事由が終了した時から時効が更新され、時効は新たに進行を始めます。
(3)仮差押え・仮処分があった場合
仮差押え・仮処分があった場合、当該事由が終了した時から6カ月を経過するまでの間は、時効の完成は猶予されます。
(4)催告があった場合
催告(裁判外の請求)があったときは、その時から6カ月を経過するまでの間は、時効の完成は猶予されます。
(5)承認があった場合
権利の承認があったときは、時効が更新され、時効はその時から新たに進行を始めます。
裁判上の請求等 | 事由が終了するまでは時効の完成猶予、事由が終了すると時効の更新 |
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強制執行等 | 事由が終了するまでは時効の完成猶予、事由が終了すると時効の更新 |
仮差押え等 | 時効の完成猶予 |
催告 | 時効の完成猶予 |
承認 | 時効の更新 |
過去問を解いてみよう!
知識の定着を
※法改正に対応するため問題文の一部を改変しています。
- 【Q1】Aは、Bに対し建物を賃貸し、月額10万円の賃料債権を有している。Aが、Bに対する賃料債権につき内容証明郵便により支払を請求したときは、消滅時効は更新され、その請求の時から新たに進行を始める。(H21年 問3)
- 【Q2】AがBに対して金銭の支払を求めて訴えを提起した後に、裁判上の和解が成立した場合には、時効更新の効力は生じない。(R元年 問9)
こう考えよう!<解答と解き方>
Answer1
【解説】内容証明郵便を用いたとしても、裁判外の請求(催告)であることに変わりはない。催告があった場合、催告の時から6カ月経過するまでの間、時効の完成が猶予されるだけであり、時効更新の効力は生じない。
Answer2
【解説】裁判上の請求があった場合、確定判決または確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは、時効が更新される。裁判上の和解は、確定判決と同一の効力を有している。
植杉 伸介
早稲田大学法学部卒業。宅建士、行政書士、マンション管理士・管理業務主任者試験等の講師として30年以上の実績がある。『マンガはじめて建物区分所有法 改訂版』(住宅新報出版)など、これまでに多くのテキストや問題集の作成に携わり、受験勉強のノウハウを提供している。